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第08話その1

目が覚める。見上げる天井は見慣れた部屋ではなかった。

となりにはシグナが布団に丸まって眠っていた。


「夢・・・じゃないか」


手を握りそして開く、心の中ではまだ信じてなかった。

だが一日立っても元の世界には帰らない。

この世界で生きると決意したつもりだったが思ったより踏ん切りが付けてないみたいだなと思った。

よしっと気合いを入れ直し隣で眠るシグナに声をかけた。

声をかけ起こすと、いつもはキリッとした目元が寝ぼけまなこになっていてなかなか可愛いなと思いつつ尋ねる。

この近くで一番人の集まる場所を教えてほしい・・・と


気温は最適、木漏れ日が森の中を照らし風はほのかに頬を撫でていく。

目が覚め、里を出る準備を終え、入口に到着した。

この世界の事や、シグナの事、世界情勢、国の話、聞きたいことは沢山ある。

しかし昨日のトロールのこともあり、早急に出ていってほしいといわれていた。


「この森から南東に進むと聖王国があるわ」

「わかった。世話になった。・・・色々とありがとう」


色々の部分を強調し、エルフの少女に礼を告げる。

何を思い出したのか、硬く身を抱き締めつつ頬を赤くした。

頬を赤くしたまま今朝わかったことなのだけれどと前置きしつつシグナは言った。


「ああ、あとトロールの件でわかったことがあるの」

「ん?」

「あのトロールは、人が召喚して送り込んできたみたい」


ああ、なるほどと心の中で合点がいったと頷く。

恐らく召喚補正が掛っていたのだろう。

術者のレベルによって召喚獣は能力値が上昇する。

全力で戦ってないといっても、トロールを倒すのに手間取った事にカンナは気にしていた。

トロールのHPは最大2万もいかないだろう。

カンナのレベル装備を考慮すると通常攻撃でもトロールは2発~3発で仕留められる計算になるはずだ。

トロールの足元を攻撃し、沈んだ身体に拳を叩き込みそれでもなおトロールは生きていた。

補正効果による耐久力の増加があったのだろう。

そしてゲームの世界のようにHPという概念が恐らくこの世界にはない、ゲームであれば足元でもなんでもダメージを与えれば敵は死ぬ。

この世界は現実世界どうよう致命傷を与えなければ倒せないのだろう。


「そうか・・・送り込んだ理由とかはわかったのか?」


問いに対しシグナは静かに首を振った。


「それがまったくわからないの、でも私たちの攻撃を無視して家や森を積極的に壊していたから」


その辺から理由を調べてみると彼女は言った。


「じゃあ、これで」

「ええ、本当にごめんなさい、本来であれば命の恩人にこんなすぐ出ていってほしいとは言いたくなかったのだけれど」


カンナは気にしないでと言わずに黙ってシグナの頭に手をおき撫でた。

背を向け歩き出す。シグナは見守るようにカンナを見送った。




「南東ね・・・」


シグナの話では大人の足で大体10日程度らしい

色々考えつつ下手な考え休むに似たりと情報があまりにも少ないから考えるのは無駄だと切り捨てた。

森を中ほどまで進み、カンナは走り出す。

足装備だけ移動速度が上がるものへ変更、スキルダッシュと残動を交互に使い駆けていく


10分ほど進んだあたりでふと足を止める。


残動を使った直後に停止、後ろを振り向き自分が踏み込んだ事によりできた足跡を見る。

再び残動を使ってみる。身体が加速するのを感じる。モーションに従って踏み込み速度をあげていく。

走り始めは適当に残動とダッシュときおり閃電を使っていたのだが、再使用時間を計算していたわけでもないのに一度も再使用時間に引っ掛からなかった。

走りながらピンポイントナックルを発動、道すがら目の前にあった岩に向かって拳を叩きつける。

素手だということを忘れていたが、特に何も痛みはない。

スキルを使い大きくUターンし再びピンポイントナックルを発動すると、発動できた。

クールタイムがないのだ、WBOのスキルは強力なものほど時間の縛りが長い。

職業スキル、武器熟練度スキル、クエストスキル、装備スキルと正直使うスキルは多種多様にある。

クールタイムを考慮し戦っていたのがここにきてその心配がなくなったとすれば、かなりの強みになると再び駆け始めながらカンナはほくそ笑んだ。


トロールにHP概念がなかったのと自分のHPMPが見えなかったのもあり、最初は小さな疑問だったが

試してみてわかったことは、ここはある程度リアルに準じた世界なのだろう。

クールタイムや発動時間に制限がなくなっているようだ。

移動スキルにも制限がないか色々と検証しないとなぁと思いつつ走りだす。


スキルひとつひとつを発動しながら駆け抜ける。時に岩に、時に角のある狼みたいなものに、駆ける道の障害を粉砕しつつ走り続けた。








荒い呼吸音がそこかしこから聞こえる。

対峙するのは燃えるような紅髪の少女、年は13から14程度だろうか。

冷たい印象を持たせる赤い瞳、髪はサイドテールにし邪魔にならない程度にまとめられている。


「ッ・・・」


一瞬の間を得て、突如襲ってくるのは獰猛な牙だ。

食らいつこうとする牙を剣にて迎撃しようとする。

素早い動き、鋭い牙、耐久度の高い体躯、ハウンド討伐ランクD-のモンスターだ。

一匹目は剣で弾くがすかさず二匹目が足へと噛みつこうとする。

とっさに反転し身体を捻りながら剣を振るう。

危機判断が優れているのだろうか、深追いせず身体を軽くひねりハウンドは攻撃を避けた。

構えを戻そうとしているところで三匹目が胴体へ体当たりを行った。


「あ、ぐっ!」

「リュミエ!大丈夫!?」


態勢が崩れたところにハウンドが襲いかかる。


「やらせないよっ!」


身の丈に近いアックスを振り回しながらラルが目の前のモンスターに立ちはだかる。

焦げ茶色の髪、頭には大き目の垂れた犬耳が付いている。

小柄ながらもその膂力は凄まじいものがあるのだろう。

振り回したアックスは離れた草木を揺れ動かした。


倒れた紅髪の少女リュミエに黒髪の少女が慌てて駆け寄った。


ダメージを受けたと思われる場所に手をかざし呪文を唱える。

淡い光が手の平を中心に広がりリュミエを包み込む。


回復したと思われる少女も戦列に加わる。

三人とも違いはあれど顔に浮かんでいるのは焦りと恐怖だ。

リュミエは一番近いハウンドを注視しつつ冷静さを取り戻そうとこの現状を改めて確認する。


(楽な任務のはずだったのにっ)


敵のランクはD-、こちらはEランクなりたてとはいえ3人だ。

ハウンドへの知識もあるし、訓練も受け、単体であればハウンドの撃破も経験済みだ。

今回の依頼は学園の進級と適性検査も兼ねた薬草収集とハウンド一匹討伐だった。


一匹一匹は対して強くないが、数が10匹を超えていると話は別だ。

背後からも敵が近寄る気配がする。

黒髪の少女テッサも短剣を構え死角をカバーするように戦列に入った。

三角形を描くようにして周りのハウンドに牽制を掛ける。


「どうする一か八か一点突破する?」


ラルが半分自棄になったかのようにリュミエに言った。


「突破しても背後から襲われたら一緒よ。ハウンドは足が速い上に執念深い、牽制しつつ数を削って倒さないとだめ」

「一点突破するにしても何にしてもとりあえず一匹を倒さないといけないのでしょう・・・」


野生の勘なのだろうか、知性もなにも感じさせない獣性からは想像できないほど敵の連携は付けいるスキがなかった。

熟練の冒険者であればものの数秒で倒すようなモンスターだが、Eなりたての彼女らには決定打が打ち出せないでいた。

ジリ貧になりつつあったその時。

轟音とともにハウンドたちが数匹ほどまとめて消えさった。

突如現れたのは両手に死に絶えたハウンドの頭を持った男だった。

その男は私たちを視界に捕えるとハウンドの頭を握りつぶした。

口角があがり顔がだんだんと笑みを作っていく。

曇りない笑顔がそこにはあったが、両手からハウンドの血を流した姿はただただ凄惨だった

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