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第04話

「逃げろ・・・逃げろぉー!!」

突如ソレは現れた。剣や矢でどうにか傷が付く程度の分厚い皮と脂肪に包まれ、離れても口から毒性の強い液体を吐き出す。姿は寸胴で手足は短いがその6mはある巨体を支える脚は強靭にできており一定間隔で飛びこむように移動する。

「トロール!・・・CランクPT討伐推奨モンスターじゃないの!」

一人愚痴を言いながら集落を掛け抜けるシグナ、同じように警報と連絡がいったのか戦闘のできる者が何名か並走するのがみえる。

「シグナ様、この先は我らに危険ですのでお下がりください」

「後方で黙って見ていろというの?長の娘である私がそんなことをしていたら父様に顔向けができないわ」

「しかし・・・」

これ以上なにも言うことはないという態度をとりトロールに肉薄する。トロールは手に持った2mはある無骨な大剣を振り回し、逃げ惑うエルフたちに凶刃を振り回し続けていた。


(むぅ・・・)

声を掛けられたと思ったら掛けた本人が慌ててどこかに飛びだしていった。誰もいなくなった牢屋で一人思案する。

(とりあえず出るか)

立ち上がり鉄格子に向かって拳を握る。ゲームとは違うリアルな感触、骨がきしみ硬く握られた拳は鉄格子のカギ部分に衝突し、ひしゃげながら弾け飛んだ。

「おおぅ」

壊れると解りきっていたことだが、この世界にきて始めて力を振るった。ちょっと軽く叩くつもりだったのが、そこから放たれた拳の威力に放った本人がちょっとびっくりしていたのだ。


「もうどうなってるの!」

癇癪を起しつつトロールの攻撃をかわし、すぐさまナイフを敵の急所、目に向かって放つ

注意がそれた瞬間大きく距離をとり様子を窺う。

緩慢な動きをしているトロールではあるが、危機察知能力が高いのかわずかに顔を動かした。

頬のあたりにナイフが軽く突き刺さるがわずかに傷をつけるだけで致命傷にはならなかった。

6人編成3組でトロールを包囲し弓や魔法で攻撃しつづける。大きさが大きさなのでトロールの攻撃を受けないよう注意し離れた位置から矢や魔法で倒そうとするが、想像以上に頑強なため、矢は刺さるが内臓にダメージはいかず皮というべき表面に傷を作る程度で決定打が与えられない。

魔法も似たような状況である。トロールは一か所にとどまろうとはせず、身体全体で大きくためを作り10mほど前に跳躍する。

憎悪度を稼ぎ自分たちに注意を引きつけようとエルフのPTは攻撃を続ける。最初は打ち払おうとしたトロールだったが、相手の攻撃が脅威ではないと認識したのか。攻撃を無視し集落に被害を与えていく。


「周辺の避難が終わりました!」

「皆、用意はいい!」

「詠唱終わっています。いつでもいけます」

自信を持って答える討伐PTに頷き、トロールに向かって合図を送った。

トロールを囲み弓による一斉攻撃と付近を気にして使えなかった中規模風魔法を同時に放つ。

醜悪な悲鳴を上げた。大量に巻きあがった砂煙を払うかのように次々と矢と魔法が降りかかる。

悲鳴が止み攻撃が一旦止まる。致命傷を与え倒すことができたのかと討伐PTの面々は油断せず

目の前で巻きあがった砂煙が止むのを待った。


全身から血を流し身を横倒したトロールが現れたのはすぐの事だった。

「やった!やったぞ!!」

周りのエルフが歓喜した。周辺にもそれが伝播したかのように喝采が鳴り響いた。

トロールの状態を確認するためにシグナを含めた十数名が注意深く近づいた。


最初は目の前で起こっている戦闘を比較的大きな木の上で眺めているだけだった。ゲーマーとしての期待感、ワクワク感にカンナは歓喜していた。

しかしそれは長く続かない、トロールが起こした惨状で見てしまったのだ

トロールの被害にあったであろう、エルフの死体を・・・

大剣に叩き割られその上から踏みつぶしたような無残な死体だった。

普段なら取りみだし余りの惨状に嘔吐しただろうが狼王の額当ての効果により、状況を極めて冷静に判断する。

(グロ耐性もばっちり搭載か、ここは廃人やっててよかったと喜ぶべきか、人が死んでるのになに呑気なこといってるんだと落ち込むべきか)

言うなれば矛盾、リアルだった世界のカンナは目の前の惨状に恐れ嘶き恐怖する。

ゲームの世界のカンナはこういうものだと特に感慨深いものもなくあっさりと事実確認だけ行う。

ふと気が付いて戦闘がおこっていた場所に目を向けるとトロールに一斉攻撃が行われ気が付けばトロールの死亡確認を行う姿が見えた

「あれは・・・シグナちゃんかな」

自分の胸元くらいしかないエルフの少女の姿が確認できた。同時にピクッと動くトロールの腕の動きもだ。


その時のことを私、シグナは忘れないだろう。

それは一瞬のことだった。倒したはずのトロールが急に動き大剣を横なぎに振るってきた。

それはすでに必殺の間合いだった。圧倒的な物量が近づき、明らかな殺意が私に向かっていた。

誰の声だかわからないが悲鳴が響く、頭の中では色々と思考しつつ初動が遅れ回避は不可能と判断していた。

ああ、死ぬんだなと思った。油断、経験不足が招いた死、凶刃が目の前まで迫ってきた。

たが、その凶刃が届くことはなかった。

目の前に誰かが割り込み横なぎに放たれた大剣の攻撃を片手で受けた。

振ったトロール以上の膂力で向かい打った拳はぶつかった場所から綺麗に刃を砕いた。

呆然とした顔を上げると昼間捕縛されたはずのカンナがいた。

砕けた刃がキラキラと輝く、その横顔はとても幻想的だった。


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