第03話
人間余裕があると余計なことを考えはじめるものである。
俺は目の前をあるくエルフの美少女が気になり始めていた。
現実世界ではまず出会うこともできないレベルの美女であるわけだし、できたらお近づきになりたいと思うのは男の性だろう。
WBOがゲームだったときも確かに絶世の美女、美男子は沢山いた。ただそれはあくまでもゲームの中の話だ。
この世界がリアルだと未だ半信半疑な俺だが目の前の美少女は今現実にいるわけだ。
不愉快な視線を感じたのだろうか、窺うようなそぶりをしつつ
ちらっと後ろを見た少女はジト目をしつつこちらを窺うようにたずねてきた。
「そういえば、あなた名前は?」
「俺はカミツキカンナだ」
「カ、カミツキ?んとカンナでいい?。私はシグナ・ティレットよ。もうすぐ付くわ。おとなしくしてるのよ」
そうこうしているうちに森の最深部だと思われる結界を通り抜けた。
そして目の前にひろがるのはエルフの隠れ里と思われる集落だ。
「凄い・・・なんだありゃ・・・」
「あれは私たちエルフの集落の守り神、巨木トアインよ」
絶景である。恐らく地上200mを超えると思われる木の上方では枝が密集し青々とした葉をつけていた。
そして太陽の日が木漏れ日となり集落を優しく照らす。
(おおおお、いいなぁあれ、殴ってみたい!)
かつてあった巨岩石のクエストを思い出す。PTを組んで一定以上のダメージを与えて岩を砕くという簡単なイベントだ。報酬は武器耐久度を大幅に上げる強化石で結構人気のあるクエストだったと思う。
後ろ手にしばられた手を抑えられないといったふうにニギニギさせ、目を輝かせながら巨木を見上げる。
「何か、変なことを企んでない?」
「い、いいえ。ソンナコトナイヨ」
顔に出ていたのだろうか、シグナがやはりジト目でこちらを見ていた。
「私たちエルフは感情の機微にかなり敏感なの、変なこと考えてるとすぐわかるわよ。あとあなたはいま囚われてるの言ってみれば捕虜よ捕虜。怪しい行動は心象を悪くするわよ。」
「俺は潔白だから大丈夫だ!」
「どこからその自信出てくるのよ」
相変わらずのジト目である。ちょっと癖になりそう。我々の業界ではご褒・・・ゴホゴホ
なんだろう、落ち着いてきたせいなのだろうか。本音と建前の境界が薄くなったと言うか
ちょっと理性のタガが外れ始めてるような感じだ。
美少女、異世界、俺最強ときたら興奮するのは当たり前だと信じたい!
「と思ってたらこれですか・・・」
とりあえずこちらでと案内された場所についていくともう明らかに牢屋ですっていう場所についた。
檻を開け、エルフの男性はどうぞと言うたげな態度で入るよう促してくる。
(どうせ、すぐでられるしなー)
なるようになるかと思い牢屋に入り一息つくのはひさしぶりだということに気が付き、意識したら急に眠気がやってきた。
(少し・・・横になろう。ちょっとだけだ。ちょっと・・・Zzzzz)
「では、彼を処分すると?相手の言い分も聞かずに?」
「そうではない、ただ正体不明の相手を長くとどめておくのは危険が多いのだ」
「隊長殿のいうとおりですな。先ほどの6連続結界破りが起こった後に結界にほころびが生じている。誰かがこの森に入ってきているのは間違いないのだ」
カンナを警備に連れて行ったあと、彼の今後を聞きに詰所によると侵入者は処分する方向で話が進んでいた。
「今の話詳しくきかせていただけるかしら?」
入口から入りつつシグナは中にいた責任者らしき男に話しかけた。
「シグナ様、実はさきほど残りの2つの結界にほころびが生じました。そのことを考慮し6個の結界を破ったものが侵入者を手引きするためにあえて破壊し陽動をした疑いが強いということで意見が分かれまして」
「確かにそうね・・・侵入者の目星、もしくは目的はおおよそでいいから解るかしら」
「目的となると神聖とまでされ秘匿された我らエルフの里の位置がやはり一番かと」
まだ見ぬ侵入者の思惑を想像し、それに対する対策をとる。もし場所が洩らされたら。もし誰かがいなくなっていたらと・・・
「最近聖王国では隠れて奴隷の売り買いも活発だと言う。考えたくはないが欲に目がくらんだ奴らが我々を誘拐しに来たとも考えられる。」
「とにかく今は捕えた男を調べるのと、侵入者の捜索、見回りを増やして周辺の警戒じゃ!」
言い争いは男を連れた昼過ぎから始まり2時間を過ぎようとしていた。
聞いているものも眠くなってくるような微かながら心地よい音が響いていた。
そう、熟睡である。
牢屋に連れてどれだけたったのだろう。横になったとたん襲ってきた睡魔に負け。
だらしなく男は寝息を立てていた。
「おい、起きろ!!」
手に持った槍の柄を柱に打ち付け甲高い音を立てながら兵士は言った。
カンナは寝転がったまま伸びをし、硬い床で寝たことにより若干のコリを感じつつ兵士を見る。後ろには相変わらずこちらをあきれたように見つめるシグナの姿があった。
「よお。また会ったな。」
「あなた良くこんな環境で寝てられるわね・・・」
「まー、こっちきてから張りつめてたからなぁ」
(張りつめてたって侵入者を手引きするため?でもこの男、森での疾走。森になれた私たちが追い付くのがやっとの速度だった。かなりの実力者だと思う。わざわざそんな実力者をおとりに使うかしら・・・)
疑うような窺うような目でじっと見つめる。そこには愛想笑いを浮かべている銀色の瞳があった。
おおう、またジト目でこっちみてるんだけど、無駄に可愛いなぁ。
異変に気が付いたのは甲高い音が外から聞こえてきたときであった。
「ッ、なにがおこったのですか!」
外に声をかけると異変に気が付いていたのか牢屋の外にでて現状を把握しようとしている見張りの姿。
「お、恐らく魔物です!」
「エルフの集落に魔物!?」
カンナを牢屋に残し迎えに来たはずのシグナが美しい金髪を翻し慌てて外にかけ出した。