第02話
目が覚めた場所から早々に移動した俺は移動速度増加バフを使用しつつ割と高速で草原を掛け抜けていた。元のステータスに依存するのか呼吸は乱れないしずっと同じ速度で走り続けることができる。
森林が近づきつつあり頭の中のWBOのMAPと比較しつつ昨日ログアウトした牧場MAPでは明らかに違うということがわかった。
一気に突っ切って人のいる町か村が発見できる事を期待しつつ、不自然なほど小動物やモンスターに合わない森に突入した。森に入って数分といったところか体感的には十数kmは移動したはずだ。
変化は突然だった。
いつの間にか自分と同じ速度で追走してくる集団がいた。周囲に気を付けながら進み森の中の若干開けた場所にでた。
嫌な予感がして立ち止まる。案の定予感が的中し目の前を鋭い風切り音とともに数本の矢が通って行った。
「へぇ、あれを避わすなんて・・・その異常な速度といいあなた一体何の目的があってこの森に入ってきたの?」
10mほど先だろうか、生い茂る森の中、木の上から突如声が聞こえてきた。
(人?姿見せないけどWBOでこんなイベントはなかったよな・・・WBOには似てるけど、細かい所が違う。よく似た世界ってことかなぁ)
だてに廃人をしていなかったわけではない、一時期は効率中心主義となり、少ないリアルの時間を有効活用するためにちょっとしたことから情報を細かく見ていた事がある。
色々と考え事をしていたせいでだろうか、再び声が聞こえてくる。
「何故だまっているの。疚しいことがあるのかしら?」
二度目の声かけなためか、先ほどより鋭さのある声がかかった。よく聞いてみると少女然としたかわいらしい声だ
(森に入った目的ということは、この森には特別な理由がない限り誰もはいらないってことか?いざとなったらどうにでもなるし、ちょっと聞いてみるかなぁ。)
「逆に問いたいのですが、この森に入ってはならない理由を教えて頂けませんか?」
「言うに事欠いてそれはなんじゃないかしら・・・ティアー聖王国の大地にいるものならこの森が我らがエルフの住まう神聖な森ということは知っていて当然よ?」
友好的な態度を取ろうと丁寧に聞いてみたのだが返答がまずかったのだろう。周りからの敵意というか殺気が若干強くなった気がする。
リアルだとケンカなんてしたことない。殺気なんて浴びたことないし人から敵意を向けられない地味な存在でずっと過ごしてきた。
正直に言うと人からの敵意をまともに受けて内心超びびってます。
それでも声を張り上げられるのは恐らく頭装備<狼王の額当て>の効果だろう。
冷静沈着な思考を得る。さっきから考え事をしているのに違う意識が相手側の気配を解析し所持武器、人数を告げてくるのだ。
客観的に物事を見てそれを告げてくれる。ゲームのときは貴重なMP回復効果を持つ装備だったが、さすが3年近く金策して購入したアイテムである。
「正直に言うと道に迷ってしまって、ここが何処だか全くわからない状態なんです。」
敵意を向けられてはいるが、話せば恐らくわかってくれるはずだと信じ。
自分的に有効的な態度を取る。初めてコンタクトをとった人である。できたら話あえたらなぁと思ってはいる。
「へぇ。嘘を言ってるようにはみえないけど、かなり役者なのか本当に迷い人なのかしら」
森の影から数人の若い人が出てくる目を引くのは中央のかわいらしい女の子だ。
全員エルフなのだろう。特徴的な少し長めな耳をしてかなりの美形である。
そして女の子は将来を楽しみにさせるほど美人だ。いやこの場合は美少女か
活発な印象を持たせる形の良い鼻梁、髪は森の影から出てきたときの印象もあるのだろうが、木漏れ日があたり透き通るように輝いている。
上下ともに周囲に溶け込むためなのか薄黄緑の狩猟服、印象は乗馬服をゆったりと動きやすくした感じだろうか。
だが。
「ちっちゃい・・・」
「ちっちゃいいうな!これでも私は17歳なのよ!大人の女なんだから!」
凄い勢いで反論された。身長は140cmくらいか。俺の胸くらいの高さしかない。
「ごめんごめん。つい本音が出ちゃって」
「馬鹿にしてるの!これだから人間の男は、人を見た目で判断するなって教わらなかった?」
ちょっとふてくされた感じでお小言を貰うのだが、その様子はいじけた子供のような可愛い印象しかない
「ふぅ・・・話を戻すわ。あなた迷い人だとして、この森の人避けの結界も突破してきたけど、それについては何か理由はあるの?」
(人避けの結界?そんなものがあったのか・・・)
「あ、もしかして途中で蜘蛛の巣に引っ掛かったような気持ち悪いところを何箇所か通ったけどそれのことかな」
つぶやき程度の俺の言葉にその場にいたエルフ達が少し驚いたような表情を見せる。
「人魔物動物避け混合の結界を蜘蛛の巣扱いって・・・いよいよもって怪しいわね。しかも結界は6箇所あったのよ。それを全部壊しちゃって直すほうの身にもなってほしいわね」
あきれたような関心したような少女の言葉に少し後ろめたさを感じながらも弁解を試みようとするが
「とりあえず、おとなしく拘束されてくれる?悪いようにはしないわ。邪気もないようだしね」
「はい・・・」
ここはおとなしくしておこう。ここはWBOによく似ているとはいえ恐らく違う世界ティアー聖王国というのも初めて聞く地名だ。まずは情報収集といこう。縄で縛られた場所を試しに少しずつ力を込める。
きしむ感触を確かめていざとなれば千切って逃げられる事を確認しつつ、始めてVRMMOをやったときに近いほどワクワクしながらエルフ美少女の後ろをついていった。




