第09話その1
「あそこが私たちの町、テールタスです。」
無表情なまま告げたリュミエはこちらを振り返った。
こちらを向いた時に大きく髪が揺れた。
多少埃にまみれているが紅色のサイドテールはサラサラでシャンプーのCMかというくらい綺麗に流れ纏まった。
(テールタスってのは聞き覚えがないな。WBOではないのは確実か・・・でもまだ情報が少なすぎるか)
この地に降りて二日目、現状を受け入れたつもりでもやはり、この世界が現実であると簡単には受け入れられないのか、ふとそんな考えが巡った。
ジッと街並みを見ていたのが気になったのか。ラルがどうしたの?といった感じで首をかしげていた。
焦げ茶色の髪と犬耳がそんな仕草と相まって小型犬のように愛らしい。
まだ出会ってそんなでもないのに結構懐かれたらしい
「何か気になることでもありました?」
「ん?結構大きな町だなぁってね」
遠目からみてもその町はかなりの高さの壁に覆われていた。
話を聞くと王都と比べると規模は半分以下らしいがかなり活気のある町らしい。
「ずっと昔は魔族と戦うための補給地点だったらしいのです。」
「そこから少しずつ色々な人たちが集まってできたんですよ。立ち止まっててもあれですし、そろそろしまっちゃいますから行きましょう」
ラルとテッサが初めてみた人は殆どの方が同じ反応するんですよと説明してくれた。
そしてテッサが少し急ごうと促してきた。
もうすでに夕暮れに近い時間である。まだ猶予はあるがそろそろ門が閉まってしまうらしい。
少し急ぎ目に門と思われる場所へ向かった。
王都と森の間、といっても距離はかなりあり、森よりではあるが、その町は中世風な建物が多く並び
かなりの人数が住んでいるのがわかる。
門に近づくと順番待ちと思われる人々が並んでいた。コソッと様子を窺うと荷物検査と身元の確認らしい。
見ていると通行税と思われる硬貨を渡しているのがわかった。
「リュミエちゃん俺お金ないんだけどさっきの素材買いとってくれたりする?」
「ええ、かまいませんよ。というか助けて頂いたお礼に少ないですがこれを使ってください」
お金が入っていると思われる巾着を懐から取り出し差し出してきた。
少し思案し、それを受け取る。中を見て先ほど払っていたと思われる硬貨を数枚取り出し、そのまま中に先ほどもらった素材の一部、ハウンドの魔石を4個放り込んで巾着を投げ返した。
「・・・これを買い取りに出せば一個銀貨1枚になりますよ」
受け取ったリュミエが訝しげな顔をしていたらテッサが簡単に説明してくれた。
通行税は銅貨3枚、銅貨100枚で銀貨1枚らしい、その銀貨を100枚で金貨1枚になるそうだ。
まだ比較するものがないので何とも言えないが、感覚としては銅貨1枚=100円と考えてよさそうだ。
一応10枚単位で大銅貨、大銀貨というのもあるらしい。
話をしていたら順番が来たようだ。
「身分のわかるカードありますか?」
兵士というよりは役人に近いのだろうか、問われた俺は遠方からの旅人という説明をしカードのことを聞こうとした。
(身分のわかるカードってことは冒険者カード以外にもあるってことなのかな)
なんと返答しようか迷っているとリュミエが何やら受付の男に声をかけた。
「クルミナ学園のリュミエです。この方に先ほど命を助けられました。
身元は不明なれど怪しい方ではないです。通して頂けませんか」
「……わかりました。詳しい事は学園経由にて連絡がいきますので、そちらで詳細を伝えてください」
何かを探るようにリュミエと俺を交互に観察し、釈然しない様子のまま許可を出した。
門を通り無事に町にはいることができた。
「さっきはありがとう。でも大丈夫なのか?さっきの人は納得していないようだったけど」
「大丈夫ですよ」
「リュミはいつも肝心な言葉が抜けてるよね。カンナさん、私たちは学園に帰属しています。門の方に事情を説明して入ることもできたと思いますが、カンナさんの身をリュミエ……この場合は学園に帰属している者が保証したと門番の方は判断したので、大丈夫なんですよ。」
「もともと色々な人たちが集まってできた町なので、身元を保証する人がいれば大体の人が簡単に入れるんです。」
「ふむ、気にある点はあるけど、わかったよ。改めてありがとうね」
ぽんぽんとリュミエたちの頭を叩くように撫でる。ラルに関しては耳の付け根を指でゴリゴリした。
「ふふ……」
「えへへ」
「っ……」
無表情なれどほんの少し頬に朱が刺した気がする。
「ところでカンナさんはこれからどうするんですか?」
「とりあえず情報収集かな。図書館とかあれば一番楽なんだけどね。」
「情報が欲しいのでしたら冒険者ギルドか商人ギルドへの登録をお勧めしますよ。」
「冒険者ねぇ・・・」




