#0005:非日常的高校生
20XX年 東京 第七魔検 個室
二人はしばらく事件内容について議論している。
ありきたりな刑事ドラマなら、事件が起きたらまずに捜査、そして推理、あの手この手を使い命懸けで犯人確保!はい、めでたしめでたし―――などとなるのだが、彼等の場合そうはならない。
勿論、彼等自身の捜査もあるが、彼等達に回ってくる事件は『既に捜査済み』かつ『警察は解決困難』というもの。つまりは、警察がある程度捜査した結果、解決に時間がかかり、行き詰まった状態の事件なのだ。それには長考も必要というもの。
この時代、警察は一つの事件に手を回し過ぎるとその隙に犯罪が多発する恐れがある。だがしかし未解決のまま放ってはおけない―――から回ってくる、と言ってしまえば、確かに海翔の言う通りただの便利屋である。しかし、魔導検察保安官である彼等に回すのは、それなりの意味がある。
例えば、彼等はその名の通り基本は警察と同じ治安維持もこなすが、事件に関与するときは裁判所に起訴、裁判、刑の執行の監督まで全て行う事もできる。つまり、向こうからしたら、ほぼ完全にその事件から手を引ける事になる。
だが、しばし警察と協力する事もあったり、その立場は決して警察の下っ端等ではない。事実下っ端としか思えないが。
さて、そうして警察から今回蒼哉達に回ってきた事件。
内容を少々盗み見て見ると、
・ここ数週間で風見町周辺のスーパーや小型ショッピングモールにおいて、買物客が『水をかけられ』強盗される事件が連発。
・当初客の強盗の事実も知らない状態では、水道管の漏れやスプリンクラーかと思われたが、どちらにも異常は無く、後に客からの通報があり、改めて検査しても、店の不備、犯人による故障では無かった。
・強盗事件として捜査。手がかりとしては、各現場に強盗実行時に撒き散らされる多量の水のみ。足跡・指紋はなく、監視カメラを調べた所、その姿が写らず犯人像の特定は不可能。
・一度警察もその現場に遭遇したが、何処からともなく水をかけられたのみで犯人の姿が見えなかった。
・盗まれるのは主に買物客の鞄や買物カゴの『中身』や近くの商品。うち、先程遭遇した警官が拳銃を盗まれているので注意されたし…………
と、ただでさえここまでだけでも長いのに、この先も、詳細がズラリと書かれている。
二人はこの間にも議論していたのだが―――
「蒼哉」
「ん?」
「……何で俺らに回す必要がアンの?コレ」
「まぁ、たしかに」
もう少し何とかすれば何とかなるだろう、とツッコミたい気持ちは二人もあるようだ。
「マジメに議論はしてみるが、毎度毎度くっだらねェ犯人よの」
「まぁそういう星の下に生まれた、としか言いようがない」
「で?どうする?まず」
「とりあえず次来そうな店を警戒しつつ、やられたトコの調査しようぜ」
「こいつァ強盗事件扱いでいいのか?」
「とりあえずメインの容疑は強盗かつ窃盗、器物破損とかの情報は書かれてねぇから」
「じゃまずは『手帳』まとめとけ、俺ァ出る支度してくる」
「OK、あ、コレ持ってっといて」
「アイヨ」
蒼哉は先程奪還したばかりの制服を疾風に渡す。
疾風が席を立ち、さっき入ったドアとは反対側の壁のドア―――こちらは建物の外側、直接外へ出られる―――から出ていく。
蒼哉は、机から『手帳』を取り出す。
『手帳』は黒い革製のカバー、そのカバーからは鎖が二つ伸び、一方は飾りが付いており、もう一方は何やら直径7、8センチ程の輪が付いている。表紙には魔検のマーク。形としてはやや縦長な形状。
蒼哉は表紙に手の平を載せる。少し『手帳』が光ったかと思うと、手を退けた途端に『手帳』が宙に浮いた。そして、
『第七魔検所属・立風蒼哉、確認、魔検手帳・システム起動』
と『言った』、それが。そして、ひとりでに開き、空白のページが開かれた。
蒼哉は宙で開いている『魔検手帳』の上から、先程の書類を翳すようにして、
「事件だ、今回は一件だけ。捜査情報転写、長いから省略して頼む」
『了解、転写開始』
すると、蒼哉が手を離しても書類が空中に留まった。手帳ごと少し光っているようだ。そして、書類が空中で一枚一枚バラバラになり、手帳の前で一列に並ぶ。すると、今度は手帳の空白だったはずのページに高速で文字がひとりでに打ち込まれていく。よく見ると手帳についていた飾りが書類に向けて光をあてている。
『転写完了マデ推定3分』
「OK、よろしく、準備するから定点滞空モード」
『了解、空間座標固定……内容把握、マタ面倒ナ事件と見受ケラレマス』
「しゃーないさ、それでも仕事だし」
分かっているとは思うが、蒼哉はどうやら『魔検手帳』と会話をしている。しかも、それは愚痴まで吐けるようだ。
蒼哉は何やら着々と外出の準備を進めながら、手帳の会話に返事をする。
『警察内部ノ怠惰を告発スル方ガ先決カト』
「ははっ、言えてる」
何とも先程から実に論理的な答を出す。というか何故会話が出来るのか。
そうこうしていると、
『転写完了。省略スルモ少々長イ事件簿トナリマシタ。近々ニ用紙ノ補充ヲ申請シマス』
「そうか、オッサンに言っとくよ」
と、話していると。
ガチャッ
「支部長だと…」
「げっ」
「お前も何度言えば解る!!」
ドスッ
背後から金剛がミーティングホールからのドアを開けて入ってきたと同時に、蒼哉の頭上にこれまたゴツい手刀が垂直に振り下ろされる。
「お前は魔検として長いのに誰に話を聞かれてるかも判らなくてどうする、ったく」
え、そこ?
「まぁいい、で?ちゃんと読んだか?」
「あぃ、ハイ、読んだっス、いっっ」
「紙の補充は申請しておく、今は切らしてるから少し待て」
「了解」
『了解シマシタ』
『手帳』は、書類をまた元のように重ね、空中に留めている。
蒼哉はというと、一見ただのチョップだったが、数分はダメージのある威力らしい。書類を受け取り、引き出しからファイルを取り出しそれに書類を挟みつつも、今だに頭頂部を抑えている。
「これから外か?」
「はい、色々調べて来ます」
「そうか、疾風は?」
「今準備で戻ってます」
そこに、丁度疾風が外側のドアから入って来た。
「お待たせちゃんョ」
「うむ、じゃ、行って…」
途中で金剛が言葉を詰まらせる。
それはまた、服装の話だ。
さっきの服装から変わったとこは、頭にハチマキのように巻いたバンダナ。羽根飾りのついたピアス。
「…何処へ行く気だ?貴様らは」
「ン?普通に見廻りだけど?」
「何故首から上だけいきなり気合いを入れてみたのさ、疾風」
「イヤ、さっきァほぼ寝癖のままで格好がつかねェ、手帳と荷物取ってくるついでにサ」
だからって何故何時か何処かのカリブ海の海賊みたいなルックスに。
または銀髪なぶん何時か何処かの童貞鍵屋にも似た格好だが―――
「……支部長、突っ込んだら負けな気がします」
「まぁあの鮫嶋の馬鹿よりはいい、お前に関しては、服装は大目に見る」
「エ?普通に私服でイイんだろ?」
「まぁそうだが」
『他人ノコダワリハ突ッ込ンダラ負ケカト』
「お前が言うなよ」
「まぁいい、模範的な服装ではない、とだけ言っておく」
「モハンて何だ?」
「結論『良い子はマネしちゃだめ』って事だ」
「フーン…俺は別にいいって事か、じゃ行こうぜ」
「おう」
「ふん、そこはいいとして任務中は『徽章』は絶対外すなよ」
金剛が忠告する。
徽章、それは言葉通り魔検である事を示すアクセサリーであるが、形は名に反してバッジに限らず、実に様々な物がある。
疾風のはキーホルダー型をしており、既にズボンの脇のベルト通しからぶら下がっている。
蒼哉のはというと、
「『時計』持ったンか?」
「ああ、あるよ、ホラ」
蒼哉が上着の胸ポケットから懐中時計を取り出す。蓋の部分に徽章が掘ってあり、チェーンは襟の横当たりに留められている。まるで何時か何処かの錬金術士みたいだが義手義足ではない。
「じゃ、あとは」
机の上の手帳に歩み寄る。
「定点滞空モード解除と『腕輪』を解除、そしたら携帯用スリープに」
『了解シマシタ、腕輪、解除シマス』
手帳についていた飾りとは違う方のチェーンから、先っぽの輪っかが取れた。どうやらこれは腕輪として身に付ける物だったらしい。
そして、蒼哉がそれをつけるのに左袖を捲る。
すると、既にもう一つ腕輪がついていた。
「ソレ別にお前なら常時付けなくてもイイんじゃねェか?」
「まぁ念の為、日中何も無いとも限らないし」
「いい心がけだ、立風、だがくれぐれも一般人の『腕輪』との違いをバラすなよ」
「分かってマス」
そういって受けとった腕輪をつける。『手帳』は既に机の上に置いてあるだけになっていた。
蒼哉は腕輪をつけ終え、袖を戻す。
―――その時、二つの腕輪以外に左腕に何か黒っぽい物が見えた―――
それから蒼哉は手帳用のホルダーに魔検手帳を入れ、腰の辺りに付ける。
「じゃ、行きますか」
「アイヨ」
支度も済み、金剛と共に、蒼哉と疾風はミーティングホールへ出る。
見ると、海翔、傑、桃華は既にいない。
「みんなはどうしたんスか?」
「鮫嶋達は準備、七部はもう見廻りに行ったぞ」
「そっか、じゃ俺等も行って来マス」
「くれぐれもミスの無いように、連続犯は早めに食い止めろ」
「ハイ」
「いつもの事だが、帰る時間によっては私は居ないから、今日の報告は明日でいい」
「了解ョ」
「あと、目立ちすぎるなよ、行ってこい」
「ハーイ」
「一丁行くぜィ」
そうして、金剛は支部長室に戻っていき、蒼哉と疾風はミーティングホールから建物の出入口の方に出る。
そして、門の前のアスファルト。
「さーて、まずは目指すは風見町か」
「どう行くかェ?」
「まぁ『徽章』付けてるし、飛んでって平気だろ」
「オイオイ、目立つな言って無かったか、雷オヤジは」
「別に?いつもの事だし」
「ハッ、んじゃまァ、空中散歩といきますか」
丁度、第七魔検の門前に、朝と帰りも乗ったバスが到着した。
二人はそれに乗るかと思いきや―――
蒼哉と疾風は地面を蹴る。
すると、二人の体は春空の中に舞い上がった。既に少し茜がかっていた。
「競争でもするかェ?」
「おいおい、小学生じゃあるまいし…まぁでもゆっくりは出来ないな」
二人は一時地面から10m程上空に留まったかと思うと、今度は空を蹴るようなモーションをして、風見町へ向かって『飛んで』いった。
第七魔検の前に止まっていたバスの中。幼稚園生くらいの女の子が乗っていた。
そして、窓の外を見ていたかと思えば、急に隣にいた母親をつついて言った。
「ねぇねぇママ、いまだれかがおそらをとんでいったよぉ」
「あらぁまーちゃんは運がいいわね」
「あれはだぁれ?」
「あの人達はねぇ、まーちゃんやママを悪い人から守ってくれてるんのよー」
「……ふーん」
少女は再び二人が消えていった空に目を向けたが、すぐに母親と今日の出来事を話し始めていた。
To be continued......