#0003:ティーンズオブアフターウォー
20XX年 東京 桜条高
都立・桜条高等学校。
かの災厄の後、新たに創立された、れっきとした公立高校である。
この東京もほぼ全体に渡り壊滅させられ、学校も修理して使えるものも少なかった。そのうえ、学校教育に魔導学を導入した後、そのためには色々と施設が必要になったりもした。生徒達が無駄に魔法を乱用しないように校舎内に基本的に魔法を使えなくしたり、また一部は魔法実習の為に無効にしたり、テロに備えて結界を張ったり―――つまりは、授業数同様、今までどうりの校舎じゃどうにもこうにも回らなくなってしまったのだ。
そんな中、いち早く前述の条件を盛り込んだり、また文部科学省の提案を真っ先に受け入れたりしている新設高校の一つが、この桜条高である。
ある意味、災厄後の歴史は長い方なので、復興できた学校を除けば伝統校、となる。立地している場所もかつては高校があった土地なので、名前こそ違うものの近隣に住んでいた者からしたら、元通り、といった認識である。
そのせいか、校舎内外の所々の突起物と壁の中の構造以外、外見の建築様式というか、いわゆる箱型の校舎で長い廊下があって教室があって体育館があって―――みたいなモノは30年以上前と比べても変わらない。おそらく、想像してる所謂その『学校』という校舎像で正解である。校舎名が掘られた金属のプレート付きの煉瓦風作りの門まであるので間違いない。
さて、かなり実感がわきづらいが彼らは本日新学期初日。
自分がどのクラスかも誰と同じクラスかも分かっているが新学年初日。
教室に入れば、新たな顔ぶれ――しかしもう2度目かつクラス委員も決定済み――とご対面。
今年、蒼哉と亜弥菜、奈那が7クラス・A~Gの中、同じFクラスとなり、海翔が隣のE、小波がBとなっている。
「玄関からいきなり遠くなったなー、ったく」
奈那がボヤく。
校舎の構造は、4階建て中の、下から、1年、職員室・会議室・事務室等、2年、3年のフロアとなっている。
玄関は1・2年が一階にあり、3年・職員が2階にある。故に、2年からは玄関→教室が2階分の移動を余儀なくされる。
「Fとか遠いしダルいっつーの」
「Gじゃなくてまだよかったかな」
「いやそんな変わんないでしょー、ダルい、何とかして立風」
「俺に言われてもなぁ」
―――そっちだったか。
桜条の校舎は南側のA棟、北側のB棟と二つあり、玄関はその二つの校舎の東端の渡り廊下に校舎とは別にある。A棟は教室、B棟は理科(現在は正式名基礎理論科学)室、音楽室、図書室等の特別教室と文化部の部室の校舎にあたり、それぞれともに部屋数を確保するため、玄関は別となった。ちなみに渡り廊下は2、3階のみ各校舎の真ん中の階段あたりにもう一つ架けられている。校舎の間は中庭として昼休み等生徒で賑わう。
で、この説明に難い校舎から話を戻すと、A棟の教室は、玄関側からA、B、Cと並んでいくので、その後ろから2番目のF組といえば、先程述べた校舎真ん中辺りの階段のさらに向こう―――校舎の1・2階西端には階段と体育館、多目的ホール、食堂に続く通路があり、3・4階はその通路への階段のみ―――という西端から2番目になる。『真ん中あたり』の階段、というのは、DとEの間にある階段である(通称玄関側が東階段、西端のが西階段、真ん中は中階段)。
―――外見シンプルなのに複雑だな、ったく。
そう入学時に奈那だけでなく蒼哉達にも思わせたその校舎のさらに最深部から2番目ともなればまぁボヤきたいだろう。
そうこう言ってるうちに階段を上がって小波と別れ、E組で海翔と別れ、F組の教室に着くと早く来ていたクラスメイトが既に多くいた。
男子が奈那の姿にちょっと引いたり、比較的人気者の亜弥菜は『久しぶりー』『元気してたー?』などと女子の集いを瞬く間に形成し、一方の蒼哉は、なんなく席に座る。
と、昨年のクラスからの付き合いの奴が絡んでくる。
「よぉ立風」
「おぅ、また同じクラスか、前川」
「あっそうだ、なぁなぁコイツさぁ、おとといカラオケ行ったらさぁ」
「ばっ、タキ、その話はっ」
滝本は、年度始めの番号順において、蒼哉の前の席。振り向いて会話に混ざる。
「ぃてっ、なんだよいいじゃんか、で、あのさ」
「あー、何と無く分かった気がする」
「いや聞けよ予想の遥か上を」
「やめろ滝本おぉぉ!」
高校生というのは、基本的にじゃれ合いのテンションは男女あまり変わらない。
どれだけ時が経っても。
どんな世界になっても。
きっと。
だが、今の時代、個人個人には明確に能力の差が出る。
「痛い痛い痛いお前俺『ノーマル』なんだから考えろ馬鹿」
「ああ、悪い、ついな…って元はタキだぁぁ」
「ちょ、力つょっ、お前のっ『腕輪』効いてねぇんじゃっねぇのかっ、くっ」
「おいおい滝本顔赤くなってるって!ほーら、担任来たぞ」
キーンコーンカーンコーン
ガラララッ
そうして新学期が始まった。
何の変哲も無い、何年経ったって変わらない、高校生の新学期。
ただ、変わったのは人間の方―――
校長の話がやたらダルい始業式、亜弥菜、奈那、小波、そして前川達も巻き込んで屋上での昼飯、朝から問題の体育、そしてまた授業、と『高校生全開!』な一日を過ごし、放課後の教室。
「さーて、帰るかな」
「おーい、蒼哉行くぞー」
ドアから海翔が覗く。
「おう」
「ねぇ、蒼ちゃん」
「ん?」
亜弥菜がカバンを肩にかけつつ、蒼哉の所へ。
「今日も、『バイト』?」
「もちろん」
「そっか、頑張ってね」
「ああ、ありがと」
そう言って、亜弥菜は手を振りながら教室を出て所属している軽音部へ向かった。
「そこ邪魔だよ、鮫嶋」
と、でかいエナメルバックを背負いながら、奈那がこれまた所属している空手部へ。
「るせこのヤンキー女」
ドカッ!
「……本当懲りないなお前は」
本日二度目、海翔は床に突っ伏していた。
それをまた立たせ、今度はもう自力で歩かせ、途中クラスの奴や知り合いに挨拶をしつつ、そのまま玄関、校門を出る。
「あ、きたきたーぁ」
校門を出ると、小波がいた。
「二人とも一緒にいこー」
「OK」
「わざわざ待っててくれたん?」
「いや?何と無く来るかなーと立ち止まってみただけー」
「さすがは『霧谷』の勘、てか?」
「えへへー」
全体的にふわっとした印象の小波。
彼女も合流し、駅まで歩く。
一見はいわゆる帰宅部。
だが、帰る場所は、家では無い。
そこは―――
三人は行きとはまんま逆のルートを辿り、西条駅で蒼哉と海翔は電車(改名しないのは永遠の謎)を降り、小波と別れ、またバスに乗る。
行く、もしくは帰る場所。それは。
『次は―――魔検官本部第七支部前―――魔検官本部第七支部前―――………』
リンゴーン
ピッ
『ご乗車、有難うございました―――……』
海翔と蒼哉は、着いた。
此処が、二人の家、であり、職場。
第七魔検。
第七魔検のメインの建物に二人は入る。仮にも国家組織、なかなか立派な建物である。受付を何事も無く顔パスで過ぎ、建物中央、職場のミーティングホールに入る。
「ただいまー」
そう声をかけると、
「お帰り、蒼哉、カイト」
「先輩お帰りですー!」
これまた不思議な事に、迎えるはまた同年代の男子と女子。はて、場所を間違えたか。
「ったくーやっぱ制服ダリィ」
「それなら僕と同じトコ入れば良かったじゃないか」
「簡単に言うなお前!偏差値70、80オーバー学校にどう入れと!?」
早速海翔とコントをかます出迎えた内の男子の方―――天海傑。
「海翔が全く勉強を怠ってただけだろう?」
「いやいやいやいや模試全国一ケタクラスが簡単に言うな」
秀才。メガネ。
「まぁ現状を受け止めろよ、海翔」
「ぐ……」
メガネのズレを直しつつ、傑が海翔を一蹴。
彼はさすがの海翔がからかう余地も無いほど冷静沈着、品行方正。まぁ一言で言えばその通り、優等生。
「天海先輩には誰も叶いませんて、ねぇ?蒼哉先輩?」
「あ、ああ」
そう話に割り込んで来たもう一人の出迎え人は―――七部桃華、学年は、一つ下。
「私だって金城入るのすら苦労しましたもん、ねぇ先輩?」
「何故俺に?」
「だってぇ」
席を立ち、蒼哉の腕に絡みつく。
「『マトモに』苦労して受験したの私等だけだしぃ」
「何故そこで抱き着つく」
「私は先輩の味方ー」
「……別に敵対したつもりはないんだが?」
「優等生は言動に気をつけろってこった」
「そういう鮫さんはノロケすぎじゃ無いですか?」
「っるせおいっ」
「わー助けて先輩っ!」
ベッタリ密着したまま蒼哉を桃華が楯にする。袖はしっかり握られている。なんだか彼女が楽しそうなのは何故?
「落ち着けよ、お前も一部同類だろが」
「そーそー、暴力反対ですっ」
「テメ」
「馬鹿、相手は女子かつ後輩っ」
と言うか、楯にされたくはない。
「ほら、まず部屋いって着替えて来よう」
「あー早速だが蒼哉、支部長が会議やるらしいから着替えて疾風呼んできてくれ」
「OK、そろそろ離してくんない?」
「えーだって先輩のニオイがっ」
「桃華ちゃん、先に進まないから」
「じゃ学ラン置いてって」
「はぁ?」
「だってぇー」
傑が無言でコクリと頷く。
(今は痴話喧嘩してる場合じゃない)
(―――なんだかなぁ)
(蒼哉、お前も後でシバいたる)
好いてくれるのは嬉しいけど、と盛大にため息しつつ、蒼哉は学ランを脱ぎ、ワイシャツの状態でカバンを引っ提げる。未だ腑に落ちないで居る海翔の首根っこを掴み、ミーティングホール、本舎を後にする。
桃華がなにやら『あっ、ワイシャツの方がっ』とか言っていたが、無視。実際そのなだめ役は傑にある。
第七の敷地内を歩き、宿舎に到着。二人とも自分の部屋に入っていく。
ガチャ
「ただいまー」
「ん、おか」
出迎える声が、蒼哉の部屋の奥からした。
蒼哉が玄関を入り、バス、キッチンを抜けると、ソファの上に声の主が居た。
「オウ、留守中に仕事は来なかったゼ」
「そうか、疾風、これからミーテだって」
「へェ、じゃ準備しなきゃなっ、と」
反動つけて跳ね起きたこの疾風と呼ばれる男子。これまた見た目は、同年代の男子。特徴的なところは、目立つ犬歯、ツンツンの銀髪、極めつけは猫のような、人ではない獣のような瞳。
名前は、疾風、のみ。
蒼哉は、彼と相部屋である。
「疾風ソレ寝癖のまんまか?」
「ん?分かりづらいからいいかと思ったが……さすがにオッサンはウルセェか」
「そうだな」
蒼哉は私服に着替える。全体的にモノクロトーンのコーデ。春先はある程度寒かったりするので、七分袖のシャツに長袖上着。袖口からは『腕輪』が見える。
対する疾風はダメージジーンズ、半袖シャツ、ドリームキャッチャーの首飾り。チャラい、とはまた別だが、それにしても随分とラフな格好。
はて、一体此処は何処だっけか。
着替え終わった頃、玄関をノックする音が飛び込む。
『おーい、行こうぜ蒼哉ー、疾風ー』
海翔の声だ。
「アイヨー」
「今行くー」
蒼哉は洗濯機にワイシャツをブチ込み、疾風は適当に寝癖を直しつつ、玄関に向かった。
To be continued...