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Magic×Logic  作者: 悠唯
法と魔法と高校生
3/11

#0002:桜条高校2年生

 


 20XX年 東京 第七魔検前



 三人は第七魔検の門を出て、亜弥菜の乗って来た路線バスのバス停を今度は反対行きの方で待つ。

 バスは予想通りどっかの誰かのせいでギリギリの時間だったらしく、待つと言ってもすぐに来た。

 降りるときは世間の目が少々つく場所ではあるが、乗るときには何てこともない。乗客達は『ああ、家が近いんだな』程度だろう。若干2名は本当に此処が居住地なのだが。


「もう新学期かよ………しかも初日からこの時間割何事だ」


 三人とも座った所で海翔が欠伸をしながら言った。

 亜弥菜と蒼哉は二列で並ぶ席の一つに蒼哉が窓側、亜弥菜がその隣に座り、海斗はその後ろに二人分の席をぐでんと占拠している。


「しかも一発目が体育ってなぁ」

「HRちょっとやってそっから体育、魔導理論、英語……いきなりイジメか」


 少々この数十年前から物語を見ている者達からしたら理解し難い状況だが……

 しかし、これもまた、時代の変化が生んだ結果である。

 この世界に魔法という力が増えた。それは一部の人間に限らず、世界の実に半数以上に広まり、゛何らかの原因″で突如使えるようになった例や、生まれつき魔法や超能力と言った類を持った赤ん坊の誕生が増え、さらには魔導エネルギーの発見・導入による魔力回路を取り込んだ従来の機械技術の進歩、魔法を利用したテロや犯罪、、、、等々、少し前の時代に電気の力がそうであったように、今や魔法の力は少しずつなくてはならない物になってきている。

 その力をきちんと使うには―――もちろん全く使えない者も無論いるのだが、それはまた別の話―――きちんと教育を施す事が必要、と魔法の発現からそう経たないうちに、小・中学、高校の必須科目に魔法関係の科目が追加された。

 追加するといっても、丸々一つ科目を増やすのは政策的にも容易ではないし、魔導学にも色々あり―――従来の授業数ではとても単位を与えるまで認められるほど授業数が確保できなかった。

 ある程度の点数をテストにかけて、それで授業を少なめ……とも出来るがとてもじゃないがやりきれない……となった現状から生まれたのが、この『新学期の始業式から授業、マジでアホかww』という事態である。

 要するに、授業数を増やし、なおかつ従来の勉学以外の行事等も確保しつつ……となったら、この式典の日の残りの時間も授業で埋めざるを得なくなったのだ。

 クラス変えは前年度に済まし、始業式の日の授業もそこで言い渡され、初日早々新しいクラスメートて授業……この時代の高校2、3年生はそんな事態に見舞われてしまった。


「昔は違ったんでしょ?始業式とか終業式って」

「そうらしいね」

「お父さんとお母さんも言ってたもん『魔法は便利だけど何だか忙しくなった』って」

「んぁーもう本当ダリィー春休み短ぇー」


 実際長期休暇も多少削られてしまっている。


「ガッコは良いけど勉強いらん」

「それじゃ本末転倒だろ」

「小学校で習ったじゃん、『学校は勉強だけじゃなく集団行動の場所ですよーだからみんな仲良くしましょーねー』」

「…蒼ちゃん、そろそろ駅着くから降車ボタンよろしくね」

「スルーかーい」

「ほら、本当に着くから荷物整理しろよ、次だぞ次」

「へいへい」

「あとさ……」

「?」


 耳を貸せ、というように蒼哉が手招きする。


「……チャック開いてんぞ」

「え!?いつから!」

「始めからに決まってんだろが。最初に気付いたの亜弥菜みたいだけど」

「ちょっ………そうちゃ……」


 朝最初から気付いてはいたが何となく今の今まで言いづらく、挙句の果てに蒼哉にこっそり教えたのだった。

 それなのにあっさりと蒼哉がバラすもんで亜弥菜は軽く蒼哉の肩をはたく。


「あと身嗜みももうちょいな、それじゃ着崩し所か落武者だ」

「言えよ二人とも!バスん中ずっとコレかよ」

「言えるかよ、こんな大勢いるところで堂々と……」


 蒼哉が、ではなく、亜弥菜が。


「うわ恥ずかしーもっと早く言えよマジで、海翔君一生の汚点」

「汚点幾つだよソレ……電車乗る前に言えただけマシだろ、てかそろそろ寝坊助を卒業せいや」


 むしろアンタが騒ぐせいでバス中バレバレなんですけど……と亜弥菜が海翔に呆れていた時、


『次は、西条駅前ー西条駅前ー……』


 リンゴーン


 三人の高校―――都立桜条高等学校までは此処から途中電車移動となる。

 第七魔検はその職業柄若干都心寄りにあり、風見町はそこからちょっと外れたあたりにある。そして桜条高はまた電車で都心に向かうのだが、最寄駅の西条は第七魔検から少しばかり戻った所なのだ。

 本来歩いても大して距離的にはないが、何しろ寝坊助を二人も抱えては、のんびりしてる暇もなかったのだった。


 降車ボタンを蒼哉が押し、荷物を背負って席を立つ。伸びをして立つとバス前部にある出口まで行き、料金をタッチ払いした後、ブザー音と共に扉が開き駅前のロータリーへ降りる。本来動力が魔導機関なので扉は完全無音だが、魔法出現前の時代生まれからは、『静か過ぎて怖い』『盲目者によくない』と不評、以降ブザー音は義務とされている。

 駅のロータリーの歩道に沿って歩き、駅構内、そして改札へと歩いていく。

 西条は少々小さい駅だが、この近くに工場やら蒼哉達とは別の高校やらがあったりして多少混雑はする。

 四方八方への人の流れを適当に書き分けつつ3人は進み改札も携帯端末をタッチして通り抜ける。


 ホームに着いてからこれまた電車――もちろんこの時代魔導エネルギーと電気の合わせ技になっている――はすぐに来た。と言っても遅刻ではなくいつも通りの電車に乗れているので、未だにちょっと寝坊のショックと階段からコケて背中が少し痛むのを抱えた亜弥菜としては、ひとまずホッとするところだった。

 そのいつも通りの電車が来る。毎日同じのに乗っていれば、大体乗る位置も決まってくるもの。三人が乗り込むと、待っていたかのように、


「おはよー亜弥菜」

「やは~三人とも~」


 と話かけてくる女子が二人。

 共に桜条の制服―――桜条は男子は黒の学ラン、女子は白地のセーラー風―――であり、お察しの通り同級生、と言ったところである。


「おはよー」

「おざマース」

「ウィー……ス……」


 三人も挨拶に応じる。


 一方は背は割と高く、いかにも運動部系、スクールバッグではなくエナメル製モノ、スカートの下にジャージ、動き易く後ろに束ねた髪。

 もう一方は背は小さめのショートボブ、ラクガキのような顔からは可愛さとともにかなりほんわかした印象を受ける。


「あれ?亜弥にゃん今日髪留めはぁ?」


 ほんわかショートボブ―――霧谷(きりたに)小波(こなみ)が亜弥菜の髪型に気付く。


「んー今日はこれでもいいかなー……なんて」


 内心は正直に言おうか迷い所。ところが。


「あーな」

「うん?」

「………寝過ごしたね?アンタ」

「……バレマシタ?」

「いや、大丈夫、アタシもだし、そうかなってね」


 口調も軽くボーイッシュ―――狩野(かのう)奈那(なな)が亜弥菜にそう話す。


「休み明けって眠いよなーアタシなんか昨日もゲームしててさー」

「ウチもテレビ観ちゃってたー」

「テレビ面白いもんねぇーこの時期」

「全くすっかり睡魔にやられてさー」


 女子高校生同士のトークが早速始まる。


「今日朝ギリだったから弁当作りそこねたんだよなー」

「自分で作るとかえらーいねー」

「まぁアタシん家はオヤジだけだからさ……あー昼代かかるなー」

「ちょっとあげよっか?お弁当」

「ん、大丈夫、普通に買うよ」

「そっか……あ、そうだ蒼ちゃん」

「ん?」


 蚊帳の外になってた蒼哉達に亜弥菜が話かけ、母親から預かった蒼哉用の弁当を渡す。


「はいコレ。お母さんから」

「お、ありがたい」


 蒼哉と希崎家の縁は割と深い―――それもはたまた別の話―――そのため、蒼哉の昼食はほぼ亜弥菜の母親が作ってくれる事になっている。


「いーなー女子から弁当とかさー、腹減ったー」

「海翔、朝飯食って……?」

「ないにきまっとる」

「だよな……」


 もちろん、昼代も自腹。


「アンタも寝オチか……こんな奴とカブるなんて」

「鮫嶋君もねぼすけー?」

「バカ、こんな奴と一緒にしないでよ、こな」

「そーそーんなメスゴリラなんかと一緒にしなっ……ブヘッ!!」

「……何か言った?ねぇ……?」


 ドアに寄り掛かっていた海翔の腹に奈那の拳。海翔の膝が折れる。


 [かいと は ちからつきた]


 奈那が短気で腕っ節は強いのは他三人も周知の事実。


(ああ……また始まった……このバカ)

(また奈那ちゃんの禁句を……)

(いつも通りそうでよかったねぇー)


 若干内心ズレた事を考えてる人がいるが……気にしない気にしない。


「ったく新学期早々よぉ……」

「まぁまぁ……落ち着いて…電車内だし」

「海翔も海翔だよ……」


 さすがにノビたまま寝かせとく訳にはいかないので蒼哉が肩をかつぐ。


「みんな元気だねぇーよかったー」


 小波がそう朗らかに言う。

(……こういう娘だ)

 他三人が一斉に思う。

 そうしてまた今日の日程とか、放課後どうする、とか他愛もない会話に戻る。


 何も変わらない普通のティーンズの朝の一コマ。

 本当に、魔法さえなければ。

 こんな、人間には過ぎた力さえなければ。


 電車(魔導導入後も何故改名されないかは不明)は進むにつれ、桜条の生徒が他にも多く乗ってくる。

 次第に車内が活気に溢れ、蒼哉、亜弥菜達も先程の5人以外の友人と、顔を合わせていく。


 20分もかからない内に、学校の最寄駅・東桜条駅に到着する。

 蒼哉は、途中から怠いせいかノビたフリをし始めた海翔を自立させて、電車から降りる。

 亜弥菜達も女子グループとぞろぞろ降り、ホームはほぼ桜条生で埋まった。


 改札、駅を出て、そこから学校までは歩きとなる。

 今は春、通学路のあちこちに桜が咲き誇り、薄桃色の小片が、悠然と、華麗にたおやかな空気の中を流れていく。


「やっぱ桜っていいよなぁ」

「そうか?高2って別になんでもなくね?」

「いやそうじゃなくてなんか……こう……」

「見慣れたからなんかねぇ……」

「今年もキレーに咲いたねー」

「後でお花見でもするー?」

「あ、いいねソレ」


 桜条生徒達からはそんな会話が聞こえる。


(やっぱ綺麗だよな……春って)

 それを聴いていた蒼哉が海翔の隣で思う。

(でも……もうちょいアレ、かな)

 蒼哉がおもむろにに右手を肩あたりに挙げる。


「お?やんのか?」


 海翔が少しニヤニヤしながら見てくる。

(………そういう意味じゃねぇよ)

 そして、指揮を振るかのようにくるん、と空で手を翻す。すると、


「わっ……」


 と何処かで声が上がるやいなや、風がその勢いを増し、咲き誇る花弁を一層美しく散らした。

 わぁ……と女子の声が所々から聞こえる。


「やっぱ桜に春風はこんくらい、だな」


 どうせならスカートめくれ、だのほざいてガッカリしてる海翔を脇目に、蒼哉は春風で遊び、その景色を眺めながら学校へと歩いていく。


 To be continued...




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