少年少女は今日を生きる。
「ふ、ああぁぁ〜……」
7月20日、昼過ぎ。
突き刺すような日差しの中を星野勇介はなんとも愉快な顔で大あくびをしながら、歩いていた。
暑い。それに眠い。
明日から夏休みだというのに、今の自分の心はまるで車酔いをしたかのようにブルー・ブルー・スカイである。
どうせ明日は学校でやることないしなー、などと調子に乗って夜更かしをしたのがいけなかったのか、朝から謎の偏頭痛に襲われ、そんなことなど知るはずのないクラスメイトは夏休み前ということで、尋常ではないハイな気持ちで、自分のデリケートな頭など知ったこっちゃないぜー! と言わんばかりに大騒ぎ。結果、さらに悪化。
今日のあなたの運勢は最高! 運命の出会いが近くにあるでしょう♪ などと朝のニュースの最後にやる占いでふざけたことをほざいた奴を今すぐにぶん殴りたい。
いや、まったく、天にも昇るような最高で最悪の気分である。
この状態がしばらく続くようなら、自分のファーストキスを地面に捧げてしまうかもしれない。それぐらいひどいと言えば、自分の苦しみが1割でも伝わるだろうか?
「ちょ、ちょっと勇介。人様がどこで見てるのかわからないのよ。調子悪いのはわかるけど、そんな変な顔をしないでよ」
その時、げんなりしている勇介の隣から、小さく心配そうに話しかける声が聞こえた。勇介は、いかにも調子悪いですよー、と言っている顔をそのままに、首をそちらに向けると、そこにいたのは、勇介と同じ学校の指定の白いブラウスと灰色のスカートを身に付けた若い女の子だった。
背中の辺りまで伸びた鮮やかな金色の髪に整った顔立ち、ガラス玉のように清みきった蒼い瞳に肌理の細かい白い肌。
その日本人離れした容姿は―中身を別とすれば―どこかのお嬢様のようで、なかなか人目を惹く。要するにかわいいのだ。
少女の名は愛原聖子。勇介の幼なじみ兼同居人である。
「な、なによその顔は」
「ああ、はいはい、どうもすいませんでしたね。どうせ私は人様の前でも変な顔をしてしまう変態さんですよー」
「べ、別にそこまで私は言ってないわよ!」
今まともに相手をする余裕のない勇介は適当にあしらおうと思っていたのだが、思いっきり吠えられた。
デリケートになっているマイブレインがそれだけで10ポイントのダメージを受けた。
「軽い冗談だよ、まったく……それからいちいち叫ばんでくれ……頭に響く」
「……勇介なんか二日酔いしたオジサンみたいよ」
「残念ながら俺は酒も飲んでなければ、オッサンでもありませんよ、だ。あ゛ーあったまいてー……」
「ますます親父くさいわよ。……もう、そんなにつらいのなら、うだうだ言ってないでさっさと帰りましょうよ」
「……そのとおり、だな。帰ろう帰ろう」
心配そうに自分を見ている聖子に腕を引っ張られながら、勇介はよたよたと危なげにゆっくり歩いていった。
<>
「ただいまー」
「ただいま、桜さん」
「あら、おかえりなさい二人とも」
相変わらず頭痛はまだ収まっていないが、何とか自分達の家―雑貨店レギオンに到着する。
そこで勇介達を迎えてくれたのは、この店の店主にして家の家主、そして聖子の義母である篠原桜。
実年齢はすでに30代(本人は否定)にまで達しているのだが、見た目の方はその一回りぐらい若く見え、
自分達を見つめるそのメガネ越しの柔らかな視線は自分の頭痛も和らげてくれるようだった。
「あら? 勇介君。あなたなんだか顔色が悪そうだけど大丈夫?」
どうやら調子が悪いのは隠しきれなかったようで、すぐに桜は心配そうに質問をしてきた。
「ええ、まぁ……ですけどこれぐらい大丈夫ですよ!」
「嘘おっしゃい、顔に書いてあるわよ。それに強がりなんてかっこ悪いだけ」
「そうよ。というかなんで毎回桜さんの前だとそうやってかっこつけようとするのよ」
どうにも聖子は何か勘違いをしているのか鋭い目つきでこちらを睨みつけてきた。別に自分にやましい気持ちなど何一つなく、ただ桜さんに心配をかけたくないから強がっているだけである。
「うっ……いや、ですけど……」
「『ですけど今日の店番は俺ですし……』って? むしろそんな顔で店番される方がこちらとしては迷惑だわ」
さっきまでとは打って変わって咎めるように桜は勇介に言った。
おそらく桜さんは自分を心配して本気で怒っているのだろう。そう思うと申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
「……すいません」
「勇介君。確かにあなたはここの家に居候として住んでいるけど、それでも今は私達の家族と変わりないわ。だからちょっとくらいは私にも迷惑をかけてほしいのよ」
まるで本物の母親のように優しくもはっきりと言ったその言葉は疲れた身体と心にはとても心地よかった。
「……わかりました。それじゃあ今回はお願いしてもいいでしょうか?」
「いいですよ。その代わり、次のシフトの時は2倍になるから忘れないでね♪」
「……冗談ですよね?」
「うふふ、冗談よ。でもこの次は休んだ分しっかりと働いてもらうから忘れないようにね」
「はい。それじゃ休ませてもらいます。……どうした聖子?」
「……なんでもない」
「あ! おい!」
先ほどから自分を睨みつけていた聖子はそう言って、勇介の静止も聞かずにさっさと自分の部屋に戻って行ってしまった。
「やれやれ……後でお菓子でもやるか」
結局勘違いはそのままで、何を怒っているのかわからなかったが、とにかく今は身体を休めることが先決だ。あとでお菓子でもやれば機嫌もなおってくれるだろう。
勇介もさっさと自分の部屋に戻り、制服を脱いで、ベッドに横たわった。
「……ん」
目を閉じて、いざ寝ようとした時、何かの光が自分の目に当たって眠りを妨げる。
「またお前か……」
何が光ったかはわかっている。自分のケータイにつけてある剣の形をした銀色のアクセサリーだ。
なぜかこれはよく何かの光を反射して自分の目にそれが当たってしまうのだ。―まるで何か見えない力が働いていると思えるほどに―。
『ねぇ勇介。これ……もらってくれないかしら?』
『え……? 聖子。いきなりどうしたんだ? それって確かお前が大事にしていた……』
『大丈夫。今の私にはこれ以上に大切なものができたから。だから勇介がそれを持っていてよ。きっとあなたを守ってくれるわ』
『? お前がそう言うのならありがたく頂戴するけど……』
いつの日かそんな会話でもらったこのアクセサリー。だが、少年少女は知らなかった。この会話が後の運命を大きく変えてしまうことを……
クロ「そんなわけで始まりましたぶっちゃける後書き。略してあとがきです」
勇介「いや、それ略す必要ないだろ」
クロ「すまん。一回略してって言ってみたかったんだよ。満足」
勇介「何だそれ……でここでは何をするんだよ?」
クロ「ここでは……まぁその名の通り色々な設定から裏話までとにかくぶっちゃけるのが目的かな」
勇介「色々ねぇ……それで今回はどうすんだ?」
クロ「もちろんお前の紹介からだ」
人物紹介 1
星野 勇介 (ほしの ゆうすけ) 年齢17歳 誕生日7月7日
身長 169cm 体重 54kg
好きなもの TVゲーム(特にRPG) 唐揚げ 卵焼き
嫌いなもの 勉強 いくら なす
近くの高校に通う高校生。2年生で帰宅部。
両親は現在仕事の都合で遠くに行っており、その際、勇介はお隣で付き合いの長い聖子の家に預けられ、居候兼バイトとしてレギオンに住みこんでいる。
家での主な仕事はレギオンの手伝い・家の掃除・買い物などで家事はほとんどできない。そのために希望していた全寮制の「風由学園」をあきらめたんだとか一時期噂に。
勉強や身体能力などは普通で悪くもなければ良くもない。そのほかにも何か変わったところはない。
・とりあえず主人公です。まだ始まったばかりなのであまり色々とは書けないんですが、自分の中の「ヒーロー」「主人公」をイメージして作ったキャラです。それらのついてはこれから書いていくつもりなのでまたの機会に。
ただ本当はもっと熱血キャラにしたかったんですが、どうにも自分はそういうのはあまり得意でないようで今のような性格になってしまいました。とほほ……
「風由学園」についてはちょっとしたネタです。あと裏設定で世界観は一緒になっております。自分そういうの好きなもので……
クロ「今回はこんなところか」
勇介「俺って熱血キャラ予定だったのかよ」
クロ「やりたかったけどできなかったでござる。次回は聖子を書く予定です。次回に続く」