勿忘草
掲載日:2026/04/17
「久しぶり。最近来れなくて、ごめんな」
今日もまた、彼女に話しかける。
彼女と、ほんの少しでも話したかったから。
「……今日もダメ、か」
机に置かれた花瓶に、花を入れる。
まるで元からそこにあったかのように。
僕が来たことなんて、わからないように。
彼女はきっと、忘れているから。
そんなことを思いながら、不健康なほど白い肌に、少しだけ触れる。
それは、ほんの少し冷たくて。
一瞬、死んでいるのでは、なんて考えが頭をよぎった。
そんなわけない、まだ生きている。
そう信じないと、僕はここに居られなくなる。
いつもつるんでた友達から逃げる理由も。
汗だくになりながらこの場所に来る意味も。
全部、なくなってしまう。
それが、どうしようもなく寂しくて。
そして何より、彼女のいない日常は、耐えられる気がしなかった。
「良くなると、いいな」
他人事みたいに言った後、僕はまた、彼女のいない、他の奴らとの『日常』に戻る。
花瓶の中に入れた、『忘れないで』というメッセージを彼女の元に残して。
「またな……」
彼女の名前を呼ぼうとしたのに、なぜだか声が出ない。
何度も何度も繰り返して、でもだめで。
結局、彼女の名前を言えないまま、意識のない彼女の元を去った。




