8話 北朝鮮
次の仕事は、北朝鮮に原子力開発の技術を移転しようとする日本技術者を引き止めること。
今回は、同僚の男性がメイン。
私は、補完的に、その技術者の奥さんに引き止めを説得させる役割。
原子力の技術が北朝鮮に流れれば、とんでもないことになることは私にでも分かる。
日本人としても、地球の一員としても、ぜひ、今回の仕事は、やり遂げなければならない。
いくら大金を積まれたとしても、北朝鮮に情報を出そうとする技術者の心は分からない。
技術者はどこにでもいそうな、まじめで堅物という外見。
大金を得て、奥様にもっと好きになってもらいたかったということかしら。
私の同僚に思い止まってもらいたいと言われ、手が震え、黙り込んでいる。
小心者なのだと思う。
ところで、今回、私に脇役を提示した伊藤所長の判断には違和感もあった。
最近、元気がない私をみて、伊藤所長は少し手加減をしたのかもしれない。
でも、精神的にまいっている私は、脱北してきた北朝鮮人の役がぴったりハマった。
いかに北朝鮮はひどい政治を行っているかを泣きながら奥様に訴える。
これ以上、力をつければ、世界にとっても、北朝鮮の人にとっても大変なことになる。
それをご主人は、後押ししようとしていると、奥様とお子さんに泣きながら訴えた。
泣きながら訴える姿は、今の私の心の叫びを、そのまま表している。
どうして私がこんな扱いをうけるのかと悩んでいる自分の気持ちが役に投影される。
気が狂いそうな私の顔を見て、奥様は心配そうに手を髪の毛の上に載せる。
外国人としての日本語イントネーションは少し難しかった。
だけど、私のこれまでの技術からすれば問題はない。
それより、脱北者感を出すために、げっそり痩せることは大変だった。
毎日、ストレスで過食気味だった私がいきなりダイエットをする。
でも、一旦食べなくなると、ストレスのせいか、逆に食べられなくなっていった。
水しか口に入らない日々が続く。
そのかいもあって、足や腕は骨だけのようになる。
歩くのが難しくなって、ふらついて歩くから説得感を増す。
伊藤所長も、私のストレスなんて知らないから、演技への熱意を褒めるだけ。
奥様は、最初は、知らない人を信用できないと言っていた。
だから、私は、旦那さんと北朝鮮とのメールのやりとりを提供する。
そして、私は日本の公安からの依頼で来てると言った。
そうすると、調べてみると言って、旦那さんと話したみたい。
女同士の相談だと言うと、私の話しを真剣に聞いてくれた。
そうするうちに、お子さんも聞いてくれるようになる。
お子さんも、そんなお父さん、嫌いだって言ってくれる。
家に帰ると、毎晩、大学でのみじめな私を思い返し、泣いて過ごしていた。
そのせいで、目の周りが腫れてきて、脱北で毎日涙にくれる私を演出できる。
そんな自分の置かれた環境もあって、演技は殺気立っていった。
そんな姿を奥さんは本当に同情してくれたわ。
男性陣も頑張ってくれて、奥さんからも説得をする。
結果として、その技術者は、行かないと心変わりをしてくれた。
やっと成功したと安心したけど、そんなに簡単じゃなかった。
北朝鮮は、奥さんと子供を誘拐し、彼を脅す。
技術者は、うなだれ北朝鮮に行くと言い出した。
今が、私の寝技を仕掛ける時。
こんな時を想定して、日ごろから私の言いなりになる暴力団員を数人用意している。
私の体への依存症にさせて。
こういう男を数人飼っておくことは、私の仕事に役立つ。
低俗な男は、私の体を使えば、いくらでも奴隷になる。
これは演技と仕事の一環で、大学で私の本性が批判されているのとは違う話し。
キャバクラが多い街頭で、若い暴力団員らしき人を見つけ、声をかける。
お兄いさん、今日寂しいから飲みに行かないと言ってホテルに誘う。
そして、近づいたと思ったら、距離を置いてしばらく無視。
その後、また誘ってベタベタとし、また距離を置く。
こんなことを繰り返していると、会ってくれ、会ってくれと私に依存症になる。
これは仕事で、プライベートでもこんなことをしていると誤解されては困る。
ただ、結衣にはこんなことをしている私を見られていたのだと思う。
だから、あの時、あんなことを言っていたんだと思う。
誤解しないで。私は清純な女性なの。
優しい人でも、仕事は冷徹に判断するという人がいるでしょう。それと同じ。
北朝鮮に原子力開発技術が渡ることは、どうしても阻止しなければならない。
もちろん、いつでも別れられるようにしている。
メークとか、服装とかに注意して、全く別人として行動しないと。
後で、逆に脅されるようになったら本末転倒だもの。
服装は、キャバクラ嬢らしく、タイトなワンピース。
腰ぐらいまである金髪のウィッグをかぶる。
寝るときに、ウィッグを外して、こんな姿見せるのはあなただけと伝えるの。
下着も、透け透けなのが効果があった。
その暴力団員に、私と別れたくなかったら、お願いしたいことがあると伝える。
北朝鮮人を捕まえ、奥さんと子供を取り返すように指示をする。
私に依存している彼は、言いなりだった。
その暴力団員は、北朝鮮の本部に突入し、命知らずな行動で、奥さんと子供を取り戻す。
さらに、北朝鮮のリーダーに、この件は諦めろと迫り、合意を取り付けた。
どうも、そのリーダーの指を3本ぐらい切ったらしいけど。
私は、世界の平和のために貢献することができたと思い、一瞬だけど笑みが溢れた。
でも、そんな笑顔もひと時にすぎない。
またストレスに押しつぶされそうになり、暗闇の中を彷徨う。




