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天才詐欺師は三度笑う  作者: 一宮 沙耶


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7話 記憶が飛ぶ

最近、記憶が飛ぶことが増えてきた。

でも、周りの人は別に普通のようだったよとしか言わない。

まるでその時間には普通に暮らし、後で忘れているかのように。


記憶障害かと心配し、病院にもいったけどどこにも問題はないと言われた。

脳に障害が出ているのかもと思い、CTスキャンで検査したけど、問題はなかった。

ただ、先生は私の脳は女性脳だけど、少し女性脳への成熟が足りないと言っていた。


どういうことかしら。私は変なのかしら。

人間は多様で、そのようなこともあると先生は笑っていたし、心配することはないと言う。


でも、そんなことを聞くと心配になっちゃう自分がいる。

心配そうに顔が曇る私に、先生は、失言を取り消すように、今まで以上の笑顔を向ける。


検査に問題がないとすると、この前みたく、あの女性に体を乗っ取られているのかしら。

あの声の主は誰なの? 私のことをお兄ちゃんと呼ぶことも、よく分からない。

それとも、女性脳への成熟が足りないということと何か関係があるのかしら。


そのうちに、私によくない噂が立ち始めてきた。

大学の女性が私を見る目も、汚いものをみるように変わっていく。

男性達が、私は軽い女だから、声をかけようとふざけている声も聞こえてきた。


私は、そんな女性ではないのに、どうして?

ある日、トイレで個室に入っていたら、女性達の声が聞こえてくる。


「ほのかって、最近、変わったよね。男性に汚いというか、あんなに男性に媚びる姿をみると吐き気がする。」

「そうよね。結衣の彼氏に声をかけて、略奪したときには驚いたわ。ほのかと結衣は親友なんでしょう。しかも、泣き叫ぶ結衣に、あんなくだらない男性は返すからいいでしょうと言い放つなんて、人としてどうかと思う。」

「まあ、あんな女には近づかない方がいいわね。こちらまでとばっちりを受けたら嫌だし。みんなで無視しよう。」

「それしかないわね。」


私はそんなことはしていない。

どうして、そんなことを言われるのかしら。

誰か、嘘の噂を流して、私を貶めようとしているの。


トイレを出て廊下を歩いていると、結衣が前から歩いてくる。

結衣だったら信じてくれるわよね。みんなに違うって言って。

でも、結衣は突き刺すような目つきで私を睨み、唾を吐きかけた。


「どうして、そんなことをするの? 私はあなたに何か悪いことをした?」

「そんなことも分からないの? 本当に悪人ね。死んでしまえばいい。誰か、こんなひどい女を殺してくれないかしら。あなたを親友だと思っていた私がバカだった。私のことを痛めようと、彼に近づき、すぐに捨てたんでしょう。しかも、彼と付き合っている時も、何人ものヤクザみたいな男性とホテルに行っているってどういうこと? もう、あなたという人のことが信じられない。顔を二度と私に見せないで。」


大声で言い放ち、結衣は目を釣り上げて走り去って行った。

結衣は私の唯一の親友だったのに、どうしてこうなるの?

その後、キャンパスを歩いていると結衣の彼氏が走り寄る。


「ほのかさん、よりを戻そうよ。ほのかさんのことを忘れられない。あんな夜が1回だけなんて耐えられない。結衣とは別れたから。」

「もう、みんなやめて。私は、あなたと付き合ったことはないし、結衣から奪ったこともない。どうして、こうなるの?」

「何を言っているんだ。ほのかさんから、誘ってきたじゃないか。」


この大学には私の居場所はない。

でも、中退して父親の名誉を傷つけることはできない。

大学では存在を消し、卒業まで我慢するしかない。


この前まで一面を黄色に染め上げていた銀杏並木の葉も落ち果てていた。

銀杏の臭い匂いが周りに漂う。

銀杏の枝は剥き出しとなり、寒々しい光景が広がる。


私の気持ちと同じ。

この前まで輝いていた大学が、灰色の世界に見える。

この大学にあった楽しい日々が全て奪われてしまった。


声の主は、最初は、私のことを守ってくれた。

今では、私を追い込んでいる。

あなたは何をしたいの?


私は、見えない姿に怯える日々を過ごすようになった。

でも、伊藤所長の依頼には答えなければいけない。

ただ、仕事をしているときには、体を乗っ取られることはなかった。


仕事をしてお金が入ると、記憶が飛び、私は豪遊しているらしい。

ホテルのスイートルームに男性を5人ぐらい呼んで、朝まで大騒ぎをする。

どういうことか分からないけど、いくつものホテルから出入り禁止にされている。


騒ぎすぎて部屋の中の調度品を壊したり、吐いて汚したのかもしれない。

怪我をしたり、命を失うことはないけど、どんどん私のイメージが悪くなる。

私は、普通のまじめに生きている女学生にすぎないのに。


もう耐えられない。

仕事をしているときに乗っ取られないのは、お金を得るためかもしれない。

演技に自信がないのかもしれない。


仕事を辞めれば、諦めて私から去っていくのかしら。

でも、そんなことをすれば、用済みとして殺されるかもしれない。

私は、どうすればいいか分からず、ただ時間が過ぎていった。


その間にも私の評判はどんどん悪くなっていく。

それに悩み、寝れない夜が増えていった。

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