6話 フィクサー
次の仕事は、都市開発を仕切っているフィクサーへの詐欺だった。
金を巻き上げて、計画を断念させるというもの。
計画が所長の組織とどう関係するのかは知らないけど、どうでもいい。
私の仕事は、言われたことを器用に演技することだけ。
このフィクサーは、計画を実行するために、あと30億円が必要だという。
これを餌に、詐欺を仕掛けるというシナリオ。
人は欲に目が眩むと、つい油断し、警戒を怠る生き物。
今回は、男性の先輩2人と一緒に仕事をすることになった。
男性陣は、初めて会ったときは紳士だったけど、別人と思うぐらいの変装をしてきた。
裏社会を仕切る役で、刃物のように険しく、目には、どこまでも闇が広がっている。
私に与えられた役は、投資コンサルとしてバリバリのキャリアウーマン。
白いシャツにタイトスカートで身を包む。
やり手のように、多くの書類が入る大きめのロエベのビジネスバックを肩にかける。
仕事が終わった後に素性がバレないように私も変装をする。
マスカラでまつ毛を長くし、ハイライトとチークで小顔にする。
胸パットを付け、ヒップパッドでお尻に厚みを出す。
顔やスタイルだけでなく、声色も変えたから、全くの別人だと思うはず。
まず、事業計画書をこのフィクサーに持ち込んだ。
フィクサーの事務所にいくと、いまどきこんなヤクザのような部屋があるのかと驚く。
壁には書道家が書いたような掛け軸が飾られている。
どういうセンスなのか理解できない。
フィクサーは70歳ぐらいの脂ぎったおじいさん。
太っているせいか、年の割には力が漲っている。
「初めまして。当社の社長からご案内があったと思いますが、耳寄りの投資話しがあって、本日、ご説明にあがりました。」
「聞いているけど、本当に儲かるの?」
「まず、お聞きください。最近、闇バイトがニュースを騒がしていますが、闇バイトを運営しているボスが何人もいます。この1人が、他のビジネスをしたいものの、人手が足りないので、この闇バイトの運営を誰かに売りたいということなんです。もちろん、ニュースで言っているように、元締めが明らかにはならない仕組みで、捕まるのは売り子たちだけですし、ニュースではあまり明らかになっていませんが、相当の金額を獲得できています。その額はこのグラフの通りです。」
資料を片手に、いかにも投資コンサルタントという演技をする。
伊達メガネに手をやり、知性もアピールする。
フィクサーは、ニヤけながら聞いていて何を考えているのか読めない。
その点では、やり手のフィクサーなのだと思う。
いきなり私の横に座り直し、耳元で囁く。
「俺も、投資する以上、確実なリターンを約束してほしいわけ。どれだけだと思えばいいの?」
「このビジネスは旬もあるので、2年間で撤退することを前提に収支計画を作っていますが、10億投資いただいて、50億円のリターンとなっています。その具体的なパイプラインは、狙う老人宅とか具体名はマスクしていますが、この表の通りで、かなり現実味のある数字となっています。」
「結局、10億円が2年で50億円か。」
「今日は、顔を見せられませんが、その元締めがPCでお話しさせていただきます。」
同僚の男性が濁声で話す。
今回は顔出しはしていないけど、声だけでも闇の世界で仕事をしている人だと伝わる。
演技力がすごい。
「こんにちは。あなたの名前は、ときどき耳にするので、あなたを信用しての、良い話しと思っていますが、どうですか?」
「まあ、悪くないな。疑うわけじゃないけど、こちらの筋からも、あなたの組織を調べさせてもらうよ。話しはそれからだ。」
それから1週間ぐらい経って、フィクサーから呼び出しの連絡があった。
「お嬢さん、調べたんだけど、先日、聞いた組織はなかったって。俺を騙そうとしたんだな。」
そう言うと、暴力団風の男性5人がドアから入ってきて、私を囲む。
いずれも、学がない品の悪い男性で、ナイフや拳銃を持っている。
こんな男性には、怯えず、堂々と対応するのがいい。
「意味が分かりません。私は、嘘はつきませんし、意味のある提案しかしません。嘘であれば、何をされても結構ですが、そんなこと言われるのは、本当に心外です。謝ってください。」
私は、いきなり立ち上がり、フィクサーを睨みつける。
こういう演技は得意だもの。
「分かった、分かった。そこまで言い切るなら、本当なんだな。調べたけど、それらしき組織の実態はあったものの、それ以上は分からなかった。でも、お嬢さんが、ビビらずにそこまでいうなら、信用してやろう。いつ、金を渡せば、その組織を引き渡してくれるんだ?」
「信用していただき、ありがとうございます。では、今週の金曜日の17時に帝都ホテルの305号室で、お待ちしています。こちらは、先日、お話しした元締めと、組織を渡した後に事業をリードする筆頭リーダー、私の3人でお伺いします。お金は10億、現金でお願いします。こちらからは、筆頭リーダーをご紹介して、組織図、ターゲット、それぞれの金額、実行計画をお伝えし、今後のビジネスの進め方をすり合わせさせていただきます。それでいいでしょうか。」
「もちろんだ。ただ、騙したら、一生かかっても探して殺すからな。」
「ご心配に及びません。」
全く不安げな様子を示すことなく、堂々と返事をする。
予定の日に私も同席したけど、同僚の男性陣が全て対応し、10億円を獲得した。
やっぱり、このグループってすごいと感激。
その後、当然のように、フィクサーには闇バイト組織から何の連絡もない。
数日も経たないうちに、私が話したことは詐欺だとバレる。
ただ、10億も奪われたとの噂が広がり、フィクサーは業界からそっぽを向かれた。
金の切れ目が縁の切れ目という言葉通り、誰もがフィクサーの元を去っていく。
誰からも相手にされず、全てを失ったフィクサーは、私達を恨み、探し続けた。
でも、支えを失った哀れな老人は、私達を追い詰める力も無くしていた。
男性陣は、それからどうなったかは知らない。
多分、逃げ切ったはず。
私も変装のおかげで、あれからフィクサーからの攻撃はない。
私の変身力、侮らないでよね。
でも、これって、快感だわ。
悪い人を懲らしめているのだから。




