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天才詐欺師は三度笑う  作者: 一宮 沙耶


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6/10

5話 不思議な声

今日は、演劇の指導が厳しくて帰りが遅くなってしまった。

最寄りの駅で電車を降り、部屋に戻るまで10分ぐらい歩く。

オフィスビル街を過ぎマンションの前を歩いているときだった。


「お兄ちゃん、危ない。」


私は、不思議な囁きに驚き、その場で立ち止まり、後ろを振り向く。

その直後、上から植木鉢が落ちてきて、アスファルトの道路の上で粉々になる。

あの時、立ち止まらなければ、私の頭の上に落ちてきて大怪我をしていたに違いない。


見上げると、マンションの4階のベランダにいる女性が真っ青になって凍りついている。

大きな声で謝り、すぐに道路にいる私の所に来て、再度謝った。

私は、怪我はしなかったのでとお辞儀をして、その場を通り過ぎた。


振り向くと、その女性は再び何度も頭を下げた後、粉々になった植木鉢を片付けていた。

最初思ったのは、私は狙われているのかということ。

でも、今回は、あの女性の素ぶりを見る限り、私を狙ったものではないと思う。


演技のようには見えない。

演技のプロの私がそう思うのだから間違いはないはず。


ところで、さっきの声はなんだったのかしら。

振り向いても、どこにも、声の主らしい人はいなかった。

というより、私の周りには誰もいなかった。


しかも、お兄ちゃんというのも分からない。

私には、双子の兄がいて亡くなったと聞いているけど、私は女性だし、関係ないと思う。

どう考えても分からなかった。


ただ、その日から、誰かに見られているような気がする。

目だけが宙に浮き、私を常に見つめているみたい。

その時は、その声の主が私の体の中にいることに気づいていなかった。


大学の誰もいない階段を登っているとき、後ろから誰かの目線を感じる。

振り返っても、誰もいない。

その時、下を向いていて、男子生徒が上から降りてきたのに気づかなかった。


私はよろけ、階段を転げ落ちそうになる。

目に見えない目線に気をとられ、注意散漫だった。

その時、私の手が引っ張られた気がした。


そのおかげなのか、手の先にあった手すりを握りしめることができた。

体は、ぐるっと回って壁にぶつかったけど、階段を転げ落ちることは避けられる。

男子生徒は、ぼーっとしてるんじゃねえよと言い放ち、去っていった。


どうも、私には何かが憑いている。

でも、そこには悪意はなく、いつも私の危機を助けてくれる。

お兄ちゃんというのは未だに分からないけど、恐ろしいという感覚はない。


むしろ、暖かく見守られている感じ。

そんなことを考えながら時間は過ぎていく。


今日は、クラスメート6人で渋谷マークシティーにある鳥貴族に飲み会にきていた。

このチェーン店は美味しい割に安くて、値段が均一なのも学生に優しい。

今日は、3,900円で2H食べ放題、飲み放題のコースを頼む。


メンバーのうち、女性1人と男性3人の4人はよく飲みに行っているみたい。

でも、今日は、地味な私と、私の唯一の親友の結衣が誘われた。

誘った美羽が、お酒をオーダーする男性の横で話し始める。


「いつも、私だけ男性に囲まれているのってあれだし、女性とも話したいし、今日は誘ってみたの。楽しみましょう。ここにいる男性はみんなイケメンでしょう。それに、前回の飲み会で、結翔は、ほのかに興味があると言っていたの。ほのかって、引っ込み思案でしょう。だから、いい機会かなと思って。感謝して欲しいな。」

「そうそう、僕は、ほのかさんをいつも、かわいいと思っていて、話したかなったんだけど、なかなか機会がなくて。今日、よろしくね。」


お姫様ごっこをずっとやっていればいいのに、本当に迷惑な女性。

だいたい、美羽って、いつも甘ったるい声をだして嫌いなの。

しかも、いつも男性に媚びて、女性の品位を落としている。


しかも、男性の仲介をするなんて本当に面倒。

でも、結翔に興味がないなんて言えずに、恥ずかしそうに下を向くことにした。


「ほのかに、TV局からドラマのオファーが来ているんだろう。それは、佐々木 優斗の娘だし、ネームバリューがあるしな。どうして受けないんだ。いいチャンスじゃないか。」


男性の中で一番格のように見える颯真が、静かにしている私に矢を飛ばす。

颯真は美羽と付き合っているのかしら、美羽は、睨む目線を颯真に送る。

別に、美羽の彼なんて奪わないから安心して。


「私が、完璧と思えるようになるまで学び、技術を磨くのが私のやり方なの。」

「そんなことしていたら、気づいたらおばさんになっているわよ。」


美羽が見下すように笑い、私の肩をたたきながら言う。

だから、こういう飲み会は面倒なの。お金を返してもらいたいぐらい。

利害関係のない女子会の方がずっと楽しい。


飲み会も終わり、2次会のカラオケへと盛り上がっていたけど、私は帰ることにした。

駅に向かって歩き出すと、後ろから結翔が声をかけてくる。

もう開放してよ。そう思ったけど、嫌われたくもない。


「この近くに、おしゃれなカクテルバーがあるんだけど、一緒に行こうよ。おごるからさ。」

「今日はもう疲れたし、今度でどうですか?」

「そんなこと言って、もう来ないんでしょう。30分ぐらいいいじゃないですか。行きますよ。」


強引につれていかれてしまった。

結翔についていくと、セルリアンタワー東急に入り、エレベータに乗る。

40階で降りると、黒を基調にした大人の空間が広がっていた。


窓からは渋谷の夜景が一望できる。

日中は富士山も見えると結翔は自慢そうに話している。

女性を連れてくるときは、いつも、ここなのだと感じた。


渋谷の夜景がみえるカウンターに、パープル色のカクテルが置かれた。

照明を落としたカウンターでカクテルだけに光があたり、美しい。

多くの女性は、こんなムードに心の扉が開くのかもしれない。


でも、私には、男性と2人でいて、台本がないと何を話していいか分からなかった。


「あとは私に任せて。」


いつもの女性の声が聞こえてきた。

何を任せるのか分からないけど、いつも私を守ってくれている女性。

不思議と不安はなかった。


窓から朝日が差し込む。あれから何時間経ったのかしら。

ここはどこだろう。ふかふかのベットの上。

横を見ると、結翔がニヤけながら私を見ている。


私は、昨日、結翔と一緒に寝てしまったの?

何も身につけていない私に驚き、シーツで体を隠す。


「ほのかさんって、意外といっぱい話すんだね。お酒が入ったからかな。びっくりしたよ。」


なんのことかしら。私は、お酒を飲んでも、いつも静かだと言われているのに。

口調も、丁寧語から彼女に言うような言い方に変わっている。


「昨晩はずっと話しつづけていたよ。しかも、積極的で驚いた。いきなり僕の腕を掴んでこのホテルに泊まろうって言うんだから。あんなにベッドの上で大胆なほのかさんを見れて、いい夜だった。これからも、付き合おうよ。」

「なんのこと? 全く覚えていない。私は、結翔と付き合うなんて考えていないから、もう声をかけないで。ホテル代は1万円、置いておけばいいわね。出ていく。」

「昨日はあんなに積極的だったのに、何、今更、お嬢様ぶっているんだよ。恥ずかしがらないでさ。」


私は、ドアに向けて歩き出し、結翔の声がだんだん小さくなっていく。

何が起きたのかしら。全く記憶がない。

そういえば、いつもの女性の声を聞いた時から記憶がない。


あの女性の仕業なのかしら。

体を乗っ取られた?

でも、問いかけても、いつもの女性からなにも返事はない。


どうしようもなく、私は自分の部屋に戻り、汚れた体をシャワーで洗った。

あんなに、ちゃらちゃらした男性と一晩過ごしてしまった記憶を消したくて。

いつになく、肌を強くこすり、赤くなってしまっても。

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