表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天才詐欺師は三度笑う  作者: 一宮 沙耶


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/10

1話 妹の死

「お悔やみ申し上げます。」

「いえ、本日はお越しいただいて、ありがとうございます。」


誰も外を歩けないぐらいの炎天下が広がる東京に、ひっそりと佇む由緒あるお寺。

本堂を囲むように、広い敷地に大きな木々が生い茂り、奥は植物公園につながる。

湧水が流れる小川もあり、涼しくなれば人々の憩いの場になるのだと思う。


夜になっても一向に気温が下がらないお寺で、多くの人が葬儀に参列していた。

本堂から読経が聞こえ、俗世からいきなり葬儀の場に引き込まれる。

石畳を囲む灯籠から漏れる光が、死者をあの世に導く厳かな雰囲気を醸し出していた。


そんな荘厳な雰囲気とは裏腹に、仕事関係者が嘘の涙を流しながら葬儀に群がってくる。

娘の死で心の隙間ができた有名男優を少しでも利用しようと、蛾のようにまとわりつく。

端役でもいいから、ドラマや映画に出演する絶好の機会だと言わんばかりに。


生まれて1ヶ月しか経っていない双子の妹が数日前に亡くなった。

いうまでもなく、生後1ヶ月の私には、この時の記憶はない。

でも、父親は、私ではなく妹だけを心から愛していたと後で聞いた。


父親は、佐々木 優斗という俳優で、当時の日本ではかなり売れていた。

まだ35歳だったけど、日本アカデミー賞最優秀主演男優賞ももらっている。

いつも自信に溢れている男性でも、今夜は、肩をおろし、みすぼらしい1人の父親だった。


去年、私達は、男女の双子として生まれる。

母親は、1ヶ月前に、私達のお産が原因で亡くなっていた。

父親は、母親の死には、それほど悲しみを感じていなかったと後で聞く。


母親は、酔っ払った父親と無理やり一晩一緒に過ごし、できちゃった結婚だったらしい。

父親は、自由な時間がなくなったと、いつも外で荒れていたという。

でも、世間体もあり、外ではおしどり夫婦を演じていた。


大きなお腹に顔を寄せる父親。

それを眺め、まんべんの笑みを讃える母親。

どこから見ても、家庭は円満にしか見えなかった。


そんな母親が亡くなり、密かに自由を満喫しているときに起きた突然の妹の死。

父親は、やっとできた娘の死への悲しみに、どす黒い闇に押しつぶされていた。

妹の遺影を見上げ、葬儀の参列者など気にせずに叫んでいる。


「里美、どうして子供を連れて行ってしまうんだ。返してくれ。」


父親は、特に妹をとても可愛がり、家に帰るとずっと妹の顔を眺めていた。

仕事で忙しく、子育ては家政婦に任せていたから、楽しい時間だけを独り占めしていた。


そんなとき、仕事の現場に電話が入る。

妹が窒息死したという連絡だった。


「まだ生まれて1ヶ月なのに、どういうことだ。家政婦が面倒を見ていたんじゃないのか?」


職場で大声で怒鳴った父親は、撮影を無断で抜け出し、自宅に戻る。

30分もかからずに家に戻った父親には、既にできることはないと告げられた。

掛け布団が口を覆い、自ら手で払うことができずに息ができなくなったと聞かされる。


家政婦は、すぐに帰るから大丈夫と、ビルの1Fのコンビニに買い物に出ていた。

その間に事件が起こり、家政婦はひたすら謝ることしかできず、震えている。

父親は、怯える家政婦を怒鳴り散らし、床に倒れ込んだ。


家で娘の笑顔に包まれて過ごすことを夢見ていた父親に、誰の声も届かなかった。


「娘と笑いながら、一緒に食事したり、買い物したりという生活を夢見ていたのに。」


その時、何かを思い出したように父親は立ち上がり、知り合いの医師を呼ぶ。

大声で怒鳴ったからか、医師は他の仕事を投げ出して慌てて駆けつける。

日頃から資金援助をしていて、父親には逆らえない医師が恐々と話しかける。


「今回は、大変なことで。気を落としていることでしょう。」

「そのとおりだ。俺は女の子が欲しかったんだ。どうして、こんなことになってしまったんだ。そうだ、どうして呼んだかというと、双子の男の子は、女性として育てることにした。だから、見た目も女性に見えるようにしてくれ。まだ死亡して1時間も経っていない、この子を使ってもいい。」

「女の子にということですが、子供も産めるようにということですよね。」

「そんなことができるのか? できるなら、そうしてくれ。急いで。」


胸のあたりで体を切断し、男の子の上半身と、女の子の下半身をつなぎ合わせる。

卵巣と子宮を持った下半身を心臓、肺を持つ上半身に接合する。

一番、難しいのは背骨を接合し、その中の神経を繋ぐこと。


でも、医師は、最近、そのような手術が可能になっていると話す。

ヘルニア治療として、そのような手術をサポートする薬が開発されているという。

生後1ヶ月で、死後まだ1時間も経っていない双子なら、成功確率は高いと提案した。


密かに私たちは医師の治療室に運び込まれ、手術中のランプが灯る。

6時間に及んだ手術は成功し、父親の元にお腹で縫合された私が届けられた。

そして、今夜、私の名前で双子の男の子の葬儀が営まれている。


翌日、双子の半分づつを縫合した遺体が火葬場で灰になる。

医師の死亡証明書があり、どこにも証拠は残らない。

こうして、佐々木ほのかという女性としての私の人生が始まった。


しばらくは全く動けない状況で過ごし、成長には半年ほど遅れる。

ただ、生まれたばかりだったからか、手術した跡は全く残らなかった。

自然にハイハイもできるようになって、育っていく。


4歳ぐらいになった時に、他の女の子と一緒に遊ぶことは少なかった。

おままごととか、お人形で遊ぶとかはあまりしない。

ジャングルジムとかで男の子達と無邪気な笑い声をあげて遊ぶことが多い。


父親は、少し心配をしていたらしい。

でも、小学5年生の時に初潮を迎える。

中学校になると、年々、女性らしい体に変化していった。


父親は、私を溺愛し、母親の代わりにショッピングにも同行する。

お金はいくらでも払い、好きなものを買ってあげ、叱るようなことはなかった。

私も、兄のような父親を大好きだった。


父親は、くだけた話しを娘が笑いながら続けて、明るい食卓とかを期待していた。

でも、どちらかというと寡黙で、社交的になれない私に物足りなさを感じていた。

それは自分のせいかもという後ろめたさを感じながら。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ