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天才詐欺師は三度笑う  作者: 一宮 沙耶


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9話 お母さん

自分の部屋でお風呂に入っていると、なんか周りがぼやけてきた。

なんだろうと思い始めたけど、体は動かず、気が薄れていくばかり。

5分ぐらい経った時、いきなり、私が立ち上がったのが見える。


どういうこと? 私が自分の体を宙から見下ろしている。

しかも、私が意図しない動きをしている。

そう思った時、あの女性の声で自分の体が話し始めた。


「お兄ちゃん。これまで、この体を大切にしてくれてありがとう。でもずるいわ。この体の半分は私なんだから、そろそろ交代ね。でも、この前、体を乗っ取ったときも思ったけど、やっぱり、本当の体で動くって、気持ちいいわね。これから、お兄ちゃんの分も含めて幸せになってあげるから、見守っていてね。」


私は、妹に突然、体を奪われてしまった。

妹は、赤子の時から、ずっと私の体の中にいたらしい。

学校での演技指導、会社での指導などを見てきたから、私のことを全て知っている。


だから、私の体に乗り移っても、誰からも違和感を持たれずに日々を過ごすことができた。

私は、体を奪われ、妹の口から、生まれたときは男性だったと初めて聞かされた。

ショックを受けながらも、どうやっても、自分の体に戻ることができない。


妹に体を奪われ、立場が逆転してしまった。

私の体は妹が支配し、私はその背後に浮いていることしかできない。

妹が動くのを見たり、話すのを聞くことはできた。


「男性とエッチするのが、こんなに気持ちいいとは思わなかった。素敵な男性もいっぱい周りにいるわ。これからの生活は本当に楽しみ。男性のお兄ちゃんには勿体無いわよね。」


詐欺の仕事も続け、貯金も多くなっていたから、妹は、充実した日々を過ごしていた。

毎日、私の部屋にシェフを呼び、高級フレンチを用意する。

男性を侍らせて、大騒ぎのパーティーを毎日楽しんでいた。


これまで、私の中でひっそりと暮らしてきた反動なのかもしれない。

毎日、男性にチヤホヤされ、可愛い等と耳元で多くの男性から囁いてもらえる。

有頂天になっているように見えた。


しかも、所長のシナリオもいつも完璧。

警察に捕まったり、恨まれて後から見つかり暴力を受けるといったこともなかった。

仕事は、ますます高い演技力を求められたけど、これまでの訓練で上手くこなしている。

逆に、上乗せ金額が増えて、こんなパーティーを開いても、お金に困ることはない。


妹は、男性に囲まれる生活を心から楽しんでいた。

自分を現代のお姫様だと思い、現実世界で自由に動かせる体を心から楽しんでいる。

刺激的な現実世界の感覚もお気に入りのようだった。


女友達はいないようだったけど、全く気にしていない。

男性がいつでも、私のこと好きって言ってくれるからと言って。


男性と旅行にも行っていた。

マンハッタンで、腕組んで歩いてミュージカルも見に行っていた。

パリやローマとか、ドイツの古城巡りとかもしていた。


スペインのバルで、美味しい料理を味わう。

体を得て、料理の味を楽しむことに満足しているようだった。

一方で、私は、無味乾燥する、つまらない時間を過ごしている。


「男性と一緒に暮らすって、本当に幸せ。いつも、優しく包んでくれるし、私は誰かの一番でいられる。私は、好きなことをするだけで、男性が全てエスコートしてくれるのよ。やっぱり女性に生まれてきてよかったわ。お兄ちゃんには、この体は勿体無かったのよ。だって、男性とか興味なかったでしょう。そんなんじゃ、何もなくおばあちゃんになっちゃう。それじゃ、生きる意味ないじゃない。」


5年ほど、そんな生活を続けていた。

ふと、妹が独り言を呟くのが聞こえた。

今までと全く違い、目線が空を漂い、髪を掻き乱している。


「1つ心配事があるの。お兄ちゃん、聞こえているでしょう。相談にのって。昨日の夜、寝ていると、「あなたはお兄さんを追い出した、本当にひどい人。あなたが死んだのはあなたのせいで、お兄さんのせいじゃない。あなたは報いを受けるべき。」と声が聞こえたの。あれは、多分、お母さんだと思う。女の子だった私より、男の子だったお兄ちゃんの方が好きだったんだと思う。」


妹は目に涙を浮かべ、もう正気を保っていられないように、泣き叫び、壁を叩きつける。


「そういえば、今、ちょうど、お母さんが、私たちを産んで亡くなった年齢なの。もしかしたら、私の体を奪ってしまうの? それとも、この体をお兄ちゃんに戻すっていうこと? どちらにしても、私はどうなるの?」


怯えた妹の声は、だんだん小さくなっていく。

最後に、絞り出すように声を出した。


「お母さん、私も、あなたの子供なのよ。見守っていてよ。」


そう言った時、妹は、ふらつきながらソファーに倒れ込む。

体が痺れているようで、手足が痙攣している。


「ひどいよ。お母さん。」

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