30.カスハラ殺人事件
ガイシャは、篠井悦治。ホシは、前回で味をしめ、また暴れようとした。暴力ではなく暴言だ。篠井は義侠心から、高齢者にも拘わらず、ホシに立ち向かった。
========== フィクションです ===========
=== 主な登場人物 ===
眩目真吉・・・警視庁捜査一課刑事。巡査。
大曲尚人・・・警視庁捜査一課刑事。巡査部長。
開光蘭子・・・警視庁捜査一課課長、警部補。
志摩敏夫・・・警視庁管理官。
井関権蔵・・・警視庁鑑識課課長。
秋野治夫・・・警視庁鑑識課課員。
井関智子・・・警視庁鑑識課課員。井関の娘。
辻・・・捜査一課辻班班長。
蒔俊郎・・・警視庁捜査一課課員。辻班。
神道助六・・・捜査二課課長。
新垣舞・・・捜査四課課長。
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節分も終った、ある日の午後4時。スーパーごじゅうまる。
常連客篠井悦治は、見切り品目当てに買物に来ていた。
客の一人が、レジ係に因縁をつけていた。
「だから、お前の応対が悪いんだよ、スタッフさん。」
去年、このスーパーでは、ネームレートの上に『スタッフ』と書いたプレートを貼って仕事をするようになった。
篠井は、誰かが「カスハラ」したに違いない、と思った。
このスーパーのチェーン店だけの現象だからだ。
篠井は、顔なじみのレジ係も、接客主任も知っている。
他人事と言えば、それまでだが、余程の事がないと警察に届けない。
警察も、真剣に取り合ってくれない。皆、知っている。
他の客は、巻き添えを食わないように見守っている。
主任も班長も店長も跳んできて、平謝りしたが、なかなか治めようにも収まらない。
チンピラに違いないが、泣き寝入りが殆どだ。
そして、途中から外国人だと判ると、皆顔を背けるしか無かった。
店長は、店長室に案内し、「謝罪の品」を渡す。
買物は『無料割引』にする。
それしか方法は無かった。
それで、会社の方針として、「〇〇さんは態度が悪い」と怒鳴り散らすことがないように、『スタッフ』のプレートを着けるようになった。
完全に威力業務妨害である。
こういうヤカラは、大抵、バックは無い。
反社はリスクを嫌うものだ。
そして、事件は起こった。
翌日。スーパーから5キロ離れた川に、刺殺された篠井の死体が上がったのだ。
午後1時。捜査一課。『スーパー顧客刺殺事件』本部。
昼食の後、捜査会議が始まった。
そして、志摩管理官が説明を始めた。
「ガイシャは、篠井悦治。ホシは、前回で味をしめ、また暴れようとした。暴力ではなく暴言だ。篠井は義侠心から、高齢者にも拘わらず、ホシに立ち向かった。前回とは違って、防犯カメラは死角が出来ないように増やした。そして、今回は一部始終をスマホで撮影した若者がいた。正面の顔は映っていないが、横顔は映っている。そして、音声は拾っている。目撃証言からモンタージュが作られた、新垣君、反社の配下かな?」
「いえ、そんなチンピラ知らない、と奴らは言っています。」
「むしろ、こっちの担当でしょうね。」と、神道が言った。
「被疑者の大田紋太は、前科8犯。寸借詐欺、取り込み詐欺、特殊詐欺、ご祝儀ドロ、香典ドロ。今はセキュリティーがどこも厳しい。これも、一種の詐欺ですね。」と神道は答え、「有名な組の名前を出せば、びくつくと思っていたのでしょう。篠井は、特に武道が出来る訳でもなかった。その場は『口喧嘩』に負けたんですよ。」と新垣は言った。
「それで、腹いせにガイシャの篠井を殺したか。行きすぎだな。大曲なら、どうする?」
「俺に振るの?いや、振るんですか?常識的には、反社でないなら、バックを動員出来ないから、ショバ変えますね。詰まり、他のスーパーにする。」
「優秀な部下だ。プラス3点だね。」大曲先輩は照れくさそうにした。
元カノで上司の蘭子に褒められて、やっぱり嬉しいか。『点数』はマイナス100点から始まっている。地道な努力でないと、ゼロにはならない。
大曲先輩の点数はともかく、何か『裏』があるような気がしていたのは、俺も同じだった。
翌日。午後3時。捜査一課。『スーパー顧客刺殺事件』本部。
蘭子が、取り調べ室から出てきた。
「店員からの評判、遺留品の指紋。凶器。これは、店のポイント券で交換出来た包丁でした。そして、ホシの供述が揃いました。」
蘭子は、ICレコーダーを再生した。
「あの人は、激しく何度も怒りをぶつけて来ました。何故クレーマー処理をちゃんとやらなかったのか?何故、プレートを着けて『無かった』ことにしたのか?経営者の身内なら、商売のいろはを知っているだろうが。また来たら、また何か渡してしまうのか?従業員が恐れながら働くのは異常じゃないのか?口論の末、バッグにあった包丁を使ってしまいました。遠くに捨てればわかり難いだろうと・・・。」
「アホだな。」と言ったのは、智子と井関だった。
秋野も皆も頷いた。
「大田の令状は取ってある。威力業務妨害、のな。」と管理官は会議の終了を告げた。
午後7時。眩目家。カレーライスを頬張りながら、蘭子は尋ねた。
「お前なら、どうする?」
「大田に文句は言うかも知れないけど、店長には・・・。」
「明日、お通夜だ。真吉、喪服用意しておけ。」
「はい。」
ツンデレは苦手だが、このヒロイズムは好きだ。
ただ、お通夜から帰宅したら、激しく求められるのは覚悟しなくていけない。
―完―




