表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/7

プロローグ

ちょっと短編小説を書いてみました。

暇つぶしにでもどうぞ m(_ _"m)作者

一幕: 趣味の城


金曜日の夜、俺——佐々木健一(40)——は、至福の時間を迎えていた。

リビングのソファに深く沈み込み、片手にはクラフトビール。目の前の85インチ有機ELテレビには、今日届いたばかりの新作ゲームのタイトル画面が映し出されている。


視線を部屋の隅に向ければ、来週のキャンプに備えてメンテナンスを終えたコールマンのランタンが鈍い光を放ち、その横にはガラスケースに入ったヴィンテージのフィルムカメラが鎮座している。 ここは俺の城だ。 独身男が一人で住むには広すぎる3LDK。だが、この空間は俺の人生そのものだ。


「……結婚、か」


ふと、誰に言うでもなく呟いた。 仕事は順調。投資の利回りも悪くない。

顔だって、鏡を見て絶望するような造形じゃないはずだ。

これまで付き合った女性たちも、決して悪い人たちではなかった。

ただ、「結婚」の二文字がチラつくと、俺の脳内にある防衛本能がサイレンを鳴らすのだ。

『その選択で、この趣味の時間は守れるのか?』

『誰かと暮らして、このコレクションを維持できるのか?』


答えは、いつだって「No」に近かった。 そうして俺は逃げ続け、気づけば40歳。

親からのプレッシャーも消え、凪のような独身生活を手に入れた。


二幕:突然の帰郷


しかし、平穏とは退屈の裏返しでもある。

ふと、スマホの連絡先リストをスクロールしていた指が止まった。

『実家』

最後に帰ったのはいつだったか。二年前の正月か? いや、法事で帰ったのが最後だから三年前か。

親父もお袋も、もういい歳だ。

以前は顔を合わせれば「孫の顔が見たい」だの「見合い話がある」だのうるさかったが、最近は電話口でも天気の話しかしなくなった。諦められた安堵感と、ほんの少しの寂しさ。


そして、もう一人。

リストをスクロールしても、その名前は出てこない。

『妹』10才下の妹。

昔は俺の後ろを金魚のフンみたいについて回っていたのに、いつからか他人行儀になり、今では何をしているのかさえ知らない。

もう20代後半、あるいは30手前か。 「……生きてるのかね、あいつも」


俺は飲み干したビールの缶をテーブルに置くと、勢いで立ち上がった。

明日の予定は空白だ。ソロキャンプに行こうと思っていたが、たまには行き先を変えるのも悪くない。


「帰ってみるか」


俺は愛車のSUVのキーを手に取った。


三幕:実家の玄関にて


都心から車で二時間。

郊外のベッドタウンにある実家は、記憶の中よりもひと回り小さく、古ぼけて見えた。

庭木の剪定が行き届いていないのが少し気になる。

親父も還暦を過ぎて久しい。体力が落ちているのだろうか。


チャイムを鳴らす前に、ふと玄関脇に停めてある自転車が目に入った。

母親のママチャリではない。かといって親父のものでもない。

ピンク色の、子供用自転車だ。

「……え?」

近所の子が遊びに来ているのか? 俺は首を傾げながら、インターホンを押した。


「はーい、どなたー?」


スピーカーから聞こえてきたのは、聞き覚えのある、けれど随分と大人びた女性の声だった。母親の声ではない。


ガチャリ、と扉が開く。

そこには、エプロン姿で少し疲れた表情の若い女と、その足にしがみつく3歳くらいの女の子が立っていた。


「……お兄ちゃん?」 「……お前、美咲みさきか?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ