クソ脱出劇
「ジャック! ははは! あそこだ! あの穴から外へ出られるぞ、ジャック!」
おれは振り返った――その瞬間、ぞっとした。さっきまですぐ後ろで一緒に走っていたはずのジャックが、地面に膝をついてやがる。
慌てて駆け寄ると、奴は顔を上げ、うっすらと笑った。その顔は死人みてえに青白く、汗とともに生気が抜け落ちていってるみてえだった。
「俺は……ここまでのようだ……」
「馬鹿言うな。もう少しであのクソどもの巣から抜け出せるんだぞ。ほら、立てよ!」
おれはジャックの腕を掴んで引っ張った。だが、ジャックの体はビール樽みてえにクソ重くて、びくともしねえ。
「見ろよ、この足……刺されちまった。もう感覚がねえんだ」
ジャックが指さしたふくらはぎには、葉巻を押しつけたみてえなでけえ黒い穴があいていた。そこからニキビを潰したときみてえに、ブシュッ、ブシュッと血が噴き出してやがる。
「あのときか……ちくしょう! あのクソッタレのエイリアンどもが!」
「馬鹿野郎。でかい声出すなよ……。せっかく抜け出したのに、また見つかっちまうだろ」
数日前、建設作業の最中にエイリアンどもの襲撃に遭い、おれたち作業員は全員さらわれちまった。抵抗する間もなくぶちのめされ、気がついたときには山奥に密かに築かれた『巣』に運び込まれていた。
奴らはおれたちを裸にし、檻にぶち込みやがった。まるで家畜扱いだ。解剖か、食料か、人質か、それともケツにぶち込む気か知らねえが、ろくな末路じゃねえことは確かだった。
だからおれは檻で出会ったジャックと協力し、見張りをぶっ倒して逃げ出した。だが、そのときにジャックは奴らに刺されちまったらしい。クソッタレ!
「ほら、行けよ。お前だけでも生き延びろ。もう時間がねえ……」
「それこそ馬鹿野郎だ。捨てていけるわけねえだろ……相棒じゃねえか」
「へっ、会ったばかりだってのによ……しょうがねえな」
「だから早く――お、おい、ジャック! お前なにしてんだよ! キチガイになっちまったのか!?」
ジャックは突然、てめえの手首に噛みついた。皮膚が靴底にこびりついたクソガムみてえにぐにいと伸び、ちぎれた肉が口から赤黒くぶら下がった。まるで洗ってねえペニスみてえに、ぶらんぶらん揺れてやがる。
「やめろ、ジャック! 死ぬ気か、馬鹿野郎!」
「へへっ、いいから……こいつを持って逃げな……」
「てめえの肉片持ってけって、クソ宗教の信者かよ……さすがに引くぜ……」
「馬鹿野郎……そいつはな――」
おれはジャックの血まみれの肉片を口に押し込んだ。歯にぐにぐにと当たる感触とともに、鉄くせえ血が舌に広がり、鼻の奥までくせえ匂いでいっぱいになった。
壁にあいた小せえ穴から外に出て、わずかな出っぱりに手足をかけて下へ降りていく。かなりの高さだ。
やがて、上から奴らの咆哮が轟いた。ジャックが見つかっちまったみてえだ。くそっ、時間がねえ。
おれは思い切って斜面に飛び降りた。着地し、そのまま一気に滑り落ちる。足を取られて転がりながらも、なんとか下にたどり着いた。
振り返ると、穴から顔を出したエイリアンどもがこっちを見ていやがった。ちくしょう、あの数に追われたら逃げ切れねえ。ああ、来る。肛門から糞を捻り出すみてえに、次から次へと――。
ドン!
そのときだった。ミサイルが奴らのクソ汚ねえケツのど真ん中に突き刺さった!
「はっはあ! ざまあみろ! クソエイリアンども!」
爆音で耳がキーンとなる中、おれは声を張り上げた。まあ、どうせ奴らには聞こえちゃいねえ。奴らの耳は、今その辺に飛び散った肉片のどれかだからな。巣の中の連中もまとめてお終いだ。
ドン! ドン! ドーン!
ははは! 空から焦げたクソエイリアンどもが降ってきやがる! まるで空飛ぶハンバーグだぜ! 最高だ!
おれは巣から距離を取り、ジャックの肉片を吐き捨てた。唾と血にまみれた肉の中から、小さな発信機が顔を出した。
――俺は実は潜入捜査員だったんだよ。そいつが奴らの巣の位置を軍に知らせた。持ってりゃ、たぶんお前が撃たれることもねえ。だから行け。行けよ、相棒。
ジャックの死に際の言葉を、おれは一生忘れねえ。
火の粉と断末魔の叫びを背に、おれは叫んだ。
「ファーーック!」
後日、おれは軍から勲章をもらった。勇気ある行動だとかなんとかかんとか、偉そうな連中が並んで拍手してやがる。
そのおかげで、借金まみれのただの建設作業員だったおれは、現場監督に昇進した。まあ、地球でこしらえた借金が消えたわけじゃねえがな。ほんと、クソッタレだぜ。
今回の作戦で、惑星バラブダに生息する知的生命体の九十五パーセントが抹殺されたらしい。
植民地化は順調だとよ。知ったこっちゃねえけどな。




