表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/8

第4話 王女様の成長速度が凄まじいんだが②

「鎧?」


 急に何を言い出すんだと怪訝そうな顔をするナディア王女殿下の言葉に俺は頷く。


「だって、せめて頑丈さがあればもう少し積極的に攻められそうじゃないですか」

「あのねぇ、鎧なんかで龍の攻撃が防げるわけがないでしょう」

「た、確かに。全身を鋼鉄で包んだってそれ以上の威力を持つ攻撃を受ければひとたまりもないし……そうでなくとも間接なんかの可動部までは守りきれませんし」

「そういうこと…………ちょっと待って」


 同意を示す俺の言葉に首を縦に振った王女殿下はすぐに何かに気付いたように息を呑んだ。

 やはり彼女は聡明だ。

 切迫した状況下でも考えを巡らせられる冷静さは戦士にとって必要なものでもある。


(やっぱ、素質は充分だな)


 ほくそ笑む俺の心情など露知らず、ナディア王女殿下は龍を見上げる。

 そしてやがて何かに思い至った彼女は口角を持ち上げた。


「……いけるかもしれない」

「ええっ!?」

「試してみる価値はある」

「お、王女殿下? 一体何をしようと」

「今の鎧の話、龍にも当てはめることができると思わない?」

「鎧の話……あ!」

「そう。龍の鱗は確かに頑丈で刃は通らない……けど、鱗は龍の全身を満遍なく守っているわけではない」


 水龍の関節は鎧の構造同じく耐久性はない事をナディア王女殿下は見抜いた。


「龍の耐久性の偏り方は鎧よりよっぽど大きいわ。関節以外にも首の正面から腹にかけても鱗は存在しない」

(あとは任せて問題なさそうだな)


 剣を構える王女殿下の背中を見ながら俺は満足していた。


「……殿下は攻撃に専念してください。守備は僕が」


 なんとも心許なく、信用に欠ける言葉だったろう。

 だが彼女は目を丸くしたあと、柔く微笑んだ。


「ええ。お願い」


 ナディア王女殿下はそのまま地を蹴る。

 グレイアム殿下らの傍をすり抜けて龍の足元へと向かう。

 俺もまた、その後に続いた。


 ナディア王女殿下は俊敏性に長けている。

 彼女は素早く龍の右前足まで潜り込むとその膝裏に剣を突き立てた。

 関節へ突き刺さった剣は彼女の思惑通り、奥深くまで潜り込む。

 力を込め、肉を穿つ。

 鮮血を浴びながら剣を抜き取った彼女はすぐに後退した。


 右前足の機能を失った龍が体勢を崩す。

 傾く体に巻き込まれないよう龍の下から抜け出した王女殿下は更にもう一本の前足へと向かう。


 だがそんな彼女の姿を龍が視界に留める。彼女を脅威と感じたらしい奴は口を大きく開け、水流を吐き出そうとした。

 だがその機を奪うように俺は鞘を投げつけ、龍の瞳へ命中させる。


 呻き声を上げた龍の狙いは俺へと切り替わり、奴は俺目掛けて魔法を発動させた。

 それを半身で避けると、俺の視界の先で仲間の身を案じるように振り返るナディア王女殿下の姿がある。


 俺は彼女と視線を交え、問題ないと頷いた。

 王女殿下もまた頷きを返すと龍の左前足へと潜り込む。

 そして彼女の剣が再び龍の足を穿った。


 前方の支えを失い、崩れ落ちる龍。その首が前に垂れる。

 首はどの生物であっても急所となり得る。それをわざわざ人間が触れられる距離へ差し出したのだ。

 それを好機と悟った王女殿下は水龍へ距離を詰める。


 だが後少しで剣が届くという位置まで来た時。

 王女殿下へ向けて凄まじい質量の水が放たれる。


「――っ!」


 避けきれないと悟った王女殿下が顔を強張らせる。

 だがその時。

 瞬時に彼女の傍まで駆けつけた俺はその勢いを殺す事なく彼女へぶつかる。

 水は揃って転倒した俺たちの頭上を通過した。


「っ、殿下!」


 驚いて動きを止めるナディア王女殿下の背中を押すように俺は叫ぶ。

 ハッと我に返った彼女は頷きを返すと立ち上がり、再び走り出した。


「う……ぁぁぁぁあああっ!!」


 勇ましい声と共に放たれる剣技。

 それは次々と龍の首を斬り裂き、多量の血が噴き出した。

 やがて龍の瞳から光が消える。


 水龍の絶命を確認したナディア王女殿下は警戒から構え続けていた剣をゆっくりと下ろし、長く息を吐いた。


 勝敗が決した、その瞬間。ワッと学園中から歓声が上がる。

 恐らくは安全な場所で身を隠しながら、固唾を呑んで見守っていたのだろう。 

 俺たちの周囲には大勢の生徒の姿があった。


 大きな賞賛を浴びることも、剣の腕が認められることも初めてだったのだろう。

 喜びの声が全て自分に向けられたものだと自覚するのにナディア王女殿下はやや時間が掛かったようだ。


 暫くは呆然と周囲を見回していた彼女だったが、やがてその瞳は潤みだし、彼女は溢れそうになる感情をなんとか抑えるように唇を噛んだのだった。


(さて、役目は充分果たしただろ)


 民が納得出来る程の功績。それを得られる程の強さをナディア王女殿下に与えることが俺の仕事だった。

 よって役目を全うした俺はこれ以上学園に留まる理由もないと判断し、こっそり身を引こうとする。


 だがその時。学園の敷地の端、木々の影から放たれた銀色の光に俺は気付いた。

 俺は剣を握り直すとナディア王女殿下の背後まで駆け寄る。

 その動きを目で追えた者はこの場に一人もいなかったことだろう。


 俺が構えた剣の上を一つのナイフが滑り、本来の軌道が狂う。

 それを確認した俺はナイフが放たれる前に自分が立っていた場所まですぐさま戻る。


 ナイフはナディア王女殿下の足元に突き刺さる。

 だが命を狙われた当の本人は自身の背後で突如発生した風が気になり背後を見やった事で、その存在には気付かなかった。


「ナディア王女殿下ー!」

「エル……!」


 俺は更に彼女の気を逸らさせるべく手を振って声をかける。

 俺の元へ駆け寄るナディア王女殿下。


「すごいですよ殿下! やっぱりナディア王女殿下はすごく強い剣士です!」

「貴方がいてくれたからよ。支援ありがとう……どれも剣によるものではなかったけど」

「いやぁ、ははは」


 苦く笑って頭を掻きながらも、俺の視線はナディア王女殿下の背後へ向けられる。

 俺たちから離れた場所では、地面に突き刺さったナイフを睨みながら舌打ちする者の姿があった。


(ったく、暗殺まで根回ししてやがったか。親父さんに言いつけてやろう)


 グレイアム殿下の歪んだ顔を見ながら俺は内心やれやれと肩を竦めるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ