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第4話 王女様の成長速度が凄まじいんだが①

 学友が巨龍に呆気なく弾き飛ばされた瞬間をナディアは呆然と見つめる。


 近くにいたグレイアムやその仲間たちは焦りを滲ませ、彼の生死を確認しようとするも、そもそも巨龍の攻撃を凌ぐことで手一杯でエルへ近づける者がいない。


(ど、どうしよう。私が止められなかったせいで、エルが、死――)


 頭が真っ白になり震えるナディア。

 彼女の目に涙が溜まる。

 しかしその時。

 瓦礫の中から手が飛び出す。


「……っ!」


 一本、二本……。そしてむくりとエルの上半身が起き上がる。


「ぶはぁっ! し、死ぬかと思ったぁっ」

「な、い、生きてる……!?」

「何て運のいい……!」

「おい君! これは君の手に負える相手じゃない! 今すぐに避難してくれ!」


 何故か目立った外傷のないエルの様子にグレイアムの仲間たちが目を剥く。

 グレイアムもまた驚きを滲ませつつ、エルへ避難の指示を出した。


「っ、いやです!」


 だが何故か立ち上がったエルは未だ背を向ける様子なく剣を構え直している。


「勇者様方にだけ危険を押し付けて逃げるなんてこと、僕にはできません!」

「いい! こちらのことは気にせず――」

「僕だって、この国の剣士だ! 共に戦わせてくださ……うわぁっ!」


 のろのろとしたぎこちない動きで龍へ近づくエル。

 その頭上から滝のような量の水が吐き出され、エルは尻餅をつきながら避ける。

 彼の傍ではあまりの重量に耐えられなかった地面がクレーターを作っていた。


「無理だ! 君では力不足だ!」

「そんなの、やってみなきゃわからないでしょう!」

「わかる! 誰が見ても明らかだッ!」

「やぁぁぁッ!」

「よせ!」


 自分が駆け付けた前線で一般人を死なせたとなれば、己の名声に傷がつく。

 それを危惧したグレイアムの必死の声掛けも虚しくエルはいつ死んでもおかしくない戦場には留まり続けた。


 彼の振るう剣は殆ど当たらない。

 そして彼は何度も吹き飛ばされ、一度でも命中すれば押し潰されるだろう魔法をなんとか避け、数えきれないほど地面に転がってはその度に起き上がる。


「……どう、して?」


 自分よりも明らかに弱い、戦いに向いていない。

 そんな少年が命の危機に立ち向かい続けている。


 歯も立たず、一方自分は数秒後に命を刈り取られるかもしれない。

 そんな状況におかれながらも、彼の心は折れない。


「なんて、情けないの……」


 ナディアは震える自分の両手を見下ろす。

 エルに実力で勝りながら、彼の身を案じながらも動くことができない自分。


 ――僕だって、この国の剣士だ!


 彼の叫びが頭を過ぎる。

 剣の国の剣士であることに誇りを持ち、命を懸けられる少年。


 それに比べて自分は?

 剣の国の、その頂の血を引き、その玉座に近しい自分はどうだ?


(……惨めだ――)

「――ナディア王女殿下!!」


 どんどん湧き立つ暗い感情に押し潰されるナディア。

 そんな彼女の意識を前線へ引き戻したのはエルの声だった。


 彼は肩で息をしながら無理矢理笑顔を作る。


「逃げてください!」

「……え」

「逃げてください! 僕が、絶対お守りしますから……うわ!」


 よそ見をした彼のすぐ傍に魔法が飛ぶ。

 「君も逃げるんだよッ!!」とグレイアムの声が飛んだ。


「逃げる……? 私が……?」


 ナディアは唖然とする。

 あんなに無力な彼に逃亡を促され、あまつさえ守るなどと言われている。

 自分のように前線に立つことができないと、そう思われている。

 刹那。


「………….ふざけるんじゃないわよ」


 プツン、糸が切れるかのように。

 萎んでいたナディアの感情は爆発的に膨れ上がったのであった。

 彼女は剣を抜く。

 そして鋭い眼光で水龍を睨みつけ、地面を蹴り上げるのだった。



***



 目の前に降り注ぐ水に驚いたフリをして、俺は転ぶ。

 その時だ。背後から迫る気配に気付き、俺は静かに笑った。


 体勢を崩した俺目掛けて龍の尻尾が振るわれる。

 だがそれが俺へ激突するよりも先。その軌道に一つの影が飛び込む。


 俺の前に飛び込んだナディア王女殿下は龍の尻尾を剣で受け流した。


「お、王女殿下……っ!」

「私は」


 その場に座り込んだ俺へ、王女殿下は手を差し伸べる。


「剣の国のグラディマーグ第一王女、ナディア・グレタ・グラディマーグ。生憎と、命を懸ける剣士を見捨てるような考えは持ち合わせていないわ」

「……っ!」


 俺は彼女の手を掴んで立ち上がる。

 俺たちは肩を並べ合って立った。


「失礼しました、ナディア王女殿下」

「わかればいいのよ」


(一先ず、前線まで引き摺り出すことはできた)


 俺はナディア王女殿下の横顔を盗み見る。

 彼女の瞳には勇気が宿っているものの、水龍討伐の具体的な手段までは考えついていないようであった。


 だがそれで問題ない。

 敵に立ち向かう勇気さえ持ってくれていれば、あとはこちらでどうとでも後押しはできる。


「僕とは違って王女殿下の剣なら、龍へ当てることもできると思います。けど……」

「……剣が通らないのでは意味がない」

「は、はい……」

「龍の攻撃も、人との体格の違いも恐ろしいけれど、対峙する上で最も厄介なのは体の頑丈さと聞く。無闇に剣をぶつけてもこちらの武器が壊れるだけ」


 俺たちの周りでは今まさに、龍の頑丈な鱗に阻まれて攻撃を通すことのできないグレイアムの王子殿下らの姿がある。

 俺はそれを横目で見てから、どうしたものかと水龍を見上げるナディア王女殿下へと声を投げ掛けるた。


「せめて僕らに鎧でもあればなぁ」

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