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第2話 弱者のフリをしていたら王女様がやって来たんだが②

「編入生が何も知らないのをいい事に利用しようだなんて、恥ずかしいわ」


 生徒達は面倒なのが来たとでも言いたげに顔を歪ませる。

 仮にも王族。彼女の気分を損ねれば高貴な身分の方々の耳まで話が入る事も、自分達の立場が危なくなる事も考え得るというのに、随分な態度である。


(ああ、なるほどな)


 そんな生徒達の反抗的な態度からナディア王女がどう思われているのか、そして彼女自身がどんな人間であるのかを俺は察する。

 率直に述べるならば、彼女は精神面が王族として未熟なのだろう。


(彼女は権威を振るったりするようなタイプではない。圧倒的な権力があってもそれを振り翳すような人間ではない……謙虚で、聡明な人間だ。だが……恐らくは敢えてそうしないのではなく、『できない』と言った方が正しいんだろう。そしてそれが他者に勘付かれてしまっている)


 グレイアム殿下に比べれば適性があるかもしれないが、それでも王の器としては些か物足りない。

 そんな評価を下す俺の前で、ナディア王女と対峙していた生徒が肩を竦めた。


「いやいや、経験を積む事で切磋琢磨しようって話をしていただけでしょう」

「編入試験を通過した相手とはいえ、彼は今日初めて剣術の授業を受けたのよ。これまで毎日学んで来た私達と手合わせするには慣れも経験も充分ではないはず。それに、初めての環境では緊張して存分に剣を振るう事だってできないでしょう」


 俺では相手にならないとか、実力不足だとか、そういう言葉を使わなかったのは彼女なりの配慮だろう。


「練習相手が欲しいというのなら、私が付き合うわ。ただし、交換条件だとかそういうくだらないものは抜きでね。……実力向上の為の練習なんでしょう? 見返りは試合で得られる経験だけで充分のはずよ」


 どうするのかという視線を取り巻きから受けた生徒は鼻で笑うと俺達から背を向ける。


「いやいやいや。そんな事してしまえば仮にも王女サマである貴女様にお怪我をさせてしまうでしょう? 女性じゃ男に勝てっこないんですから。体格も、身体能力も、剣術もね」


 ナディアは何も言わない。侮辱とも取れる言葉を受けても尚真剣な面持ちが曇ることはなかった。

 だが、彼女が静かに作った二つの拳が強く握りしめられ、小さく震えている事に俺は気付いた。


「それじゃあ、失礼しますね。王女サマ?」


 生徒達が去っていく。

 その背中が遠ざかるとナディアは一つ溜息を落としてから俺へ向き直った。


「ごめんなさいね。編入早々嫌なものを見せてしまって」

「あ、いえ! その……何も知らない僕を庇ってくださったんですよね。ありがとうございます、ナディア王女殿下」

「……私の事は知っているのね」

「それは勿論! 殿下が剣術科に通われているというお話は有名ですし、剣術科には女性が少ないですから」

「……そうね」


 女性が少ない。その言葉にナディア王女殿下は苦く笑う。

 性別差が齎す問題。軽視される女性剣士という立場。

 それらを思い出してしまったのだろう。


「ナディアでいいわ。ここでは私も一生徒でしかないし……気付いたと思うけれど、周りから敬われるような実力もないもの」

「そんな。座学の成績は常にトップだと噂されて……」

「いくら勉強ができようと意味ないわ。……この国では」


 気まずい沈黙が訪れる。

 自虐的な言葉を吐き、空気を悪くしたと感じたのだろう。

 ナディアはハッと我に返るとぎこちなく笑みを浮かべた。


「それじゃ、行くわね。さっきみたいな誘いには気を付けて」


 俺に背を向け、その場を離れようとする王女殿下。


「あ、あの!」


 そこへ俺は声を投げた。

 足を止めて振り返るナディア王女殿下へ続けて話しをする。


「ぼ、僕は、その……ナディア王女殿下の剣術の腕をまだ知りません。だから、その、王女殿下の仰った事もあまりピンと来ていなくて」

「剣術だけの話じゃない。私は女なのよ。言いたい事、わかるでしょ」

「わ、わかりません……っ」

「っ、貴方ねぇ……!」


 煽られているとでも思ったのだろうか。それとも触れたくない話題を掘り下げられて苛立ちを覚えたのだろうか。

 彼女は怒りを滲ませた。

 だがそれも、次いで出た俺の言葉によって収められる。


「だ、だから……手合わせして欲しいんです!」

「は……はぁ!?」

「僕は女性だからというだけで絶対に弱いなんて、どうしても思えませんし納得もできません。もし王女殿下がそう思い込んでいるだけで、すごく強い人だとしたら……そんなの、勿体無いです。だから……」


 お前と戦ったところで結果は見えているし、実力の証明にはならないと、ナディア王女殿下の顔には書いてあった。

 まあごもっともではある。


「っ、じゃあ、練習! 試合で得られる経験は見返りとして充分だと仰っていたではないですか!」


 俺のしつこさに負けたのだろう。

 王女殿下は少し躊躇いを見せた後、溜息を吐いた。


「……わかったわ」



***



 剣が交わる音が響き渡る。

 目の前に迫る剣を弾き返したナディアは手を滑らせて武器を落としてしまった相手を見る。


「うわぁっ」


 体勢が崩れ、彼は尻餅を付く。

 同じような光景をもう十回は繰り返したナディアはエルへ剣先を向けながら唖然とした。


(よ…………弱過ぎる……っ!)

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