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第2話 弱者のフリをしていたら王女様がやって来たんだが①

 日の光を反射する金髪。

 長く真っ直ぐとした髪を揺らす少女は腰に剣を携えている。

 学園の外廊下を足早に進む彼女は胸を張り、凛とした姿をしていた。


 しかしそんな彼女の耳へ密かに呟かれる声がある。


「ほら、場違いの王女サマだぜ」


 囁かれる声と嘲笑。

 その持ち主の視線を横切る彼女は憂いるように青い瞳を細めるのだった。



***



 王立学園は勉学の他、将来魔王軍の残党と立ち向かう事を志す者達の戦力向上を目的とした教育機関だ。

 生徒の希望や持っている特性を参考に学科が振り分けられ、それぞれの学科に特化した専門知識や技術を積み重ねていく。

 また近隣に住む者を除いた八割が学生寮で生活をしており、ナディア王女も大半の生徒達と同様の生活を送っている。


 そんな彼女の剣の腕を上げる為に学園へ編入した俺は、編入初日から――


「すみません、遅刻しましたぁっ!!」


 ――遅刻した。


 教室へ飛び込んだ俺へ教師や生徒の視線が注がれる。

 黒板の前に立っていた教師は怒りと呆れが混じったような複雑な顔で俺を見る。


「君が編入生か。時間は事前に連絡されていたはずだが」

「すみません」

「……まあいい。名乗りなさい」


 制服に身を包んだ俺は教壇の前に立ち、頭を下げる。


「エルっていいます。よろしくお願いします……っ」


 短い自己紹介を終えた俺は空いていた席へ座るよう促されて移動する。

 周囲からは未だ好奇の視線に晒され、居心地が悪かった。

 始まった授業を聞き流しながら俺は教室の中――他の生徒達の顔を観察する。


 剣術科の男女比の偏りは大きい。

 体格や体力などの問題、そしてそもそも体を張る立場は男の役割だという世間的な常識もあり、女性の希望者は殆どいないのだ。

 だからこそナディア王女の存在はすぐに分かった。


 数少ない女子生徒。その中でも高い品格を滲ませたような姿勢や所作。

 陛下から伺っていた容姿とも一致していた彼女は真剣に授業へ取り組んでいる。


(ナディア王女の姿は確認した。けど問題なのは……どうやって彼女と接触するか、か)

『初日早々遅刻で悪目立ちとはねぇ』


 ナディア王女と接点を作る方法を考えていると肩に留まっていたアガサ(ぬいぐるみ)が囁く。


「お前のせいだろ。勝手に俺から離れたと思ったら迷子になりやがって」

『いやぁ、珍しい植物を見つけちゃって』

「その姿じゃ採取も出来ねーってこと、忘れんなよな」


 小声で文句をぶつければ面目ない~と上っ面だけの謝罪が返された。




 さて、時間は過ぎていき、剣術実践の授業だ。

 剣を握る俺にはいくつもの視線が向けられていた。

 実践担当の教師もまた、顔を強張らせて俺を見守る。


「や、やぁ……っ!」


 俺は相手の生徒へ剣を振るう。

 のろのろとした動き、隙だらけの姿勢。

 それを相手は見逃さず、俺の剣はあっさりと弾かれる。

 更にその勢いで剣は俺の手を離れ、遠くへと飛んでいった。


「お、おい」

「ああ……」

「よ、弱すぎないか……!?」


 相手の剣先が丸腰の俺へ突き出され、試合終了の合図を教師が出す。

 何故こんな奴が剣術科へ編入したのか。教師はそんな顔をしていた。

 周りの生徒がざわつく中、俺は素知らぬ顔で相手の生徒へ声を掛ける。


「ありがとうございました! すっごく強いんですね! 勉強になりました!」

「あ、ああ……」


 苦い顔を見せる相手生徒。

 その後方では他の生徒と同様に試合を見学していたナディア王女の姿がある。

 彼女もまた、信じられないようなものを見るような顔を俺に向けていた。


(まあ、そうなるよなぁ。けど、中途半端に手を抜くよりも明らかな弱者を演じる方が楽なんだよな。最初は多少目立つだろうけど、大体こういうのは時間が経つにつれて皆飽きるもんだ)


「で、では本日の授業はここまで!」


 教師が咳払いをし、授業の終わりを告げる。

 生徒の大半が休憩を取る為にその場を離れ始めたその時。

 

「なぁ編入生」


 俺も校舎へ戻ろうとしたところで声を掛けられる。

 振り返った俺は背後に立っていた数名の生徒の顔を見てこの後の展開を何となく悟る。


「はい。僕に何か御用ですか?」


 俺の本来の口調から大きく離れた話し方が愉快なのか、肩からは必死に笑いを堪えるアガサの息遣いが聞こえていた。


「試合しようぜ。買った方が負けた方の話聞くってのでよ」

(お決まりすぎるな)

「え、でも僕、剣はまだまだ未熟で」

「んなもん皆そーだろ。ちょっとしたゲームみたいな感覚でいーんだよ。遊びながら強くなれりゃあウィンウィンだろ?」

「……確かに!」


 あっさり納得した様子を見せれば生徒達は意地の悪そうな笑みを深めた。

 こいつらの魂胆はわかっている。明らかに弱そうな俺をいたぶって、事前に取り決めた約束と暴力という恐怖心を利用して下僕か何かにでもしてやろうといった考えだろう。

 ここで断っても面白く思わないこいつらは何かとかこつけて絡んでくるようになるだけだ。ならば先に面倒事を片付けて従順な下僕のフリでもしてやればいい。


 そう考えた俺は剣に手を掛ける。

 複数人の生徒、その真ん中に立っていた男――恐らくはこのグループで実権を握る人間だろう。

 彼もまた剣を抜いた。

 その時だ。


「待ちなさい」


 俺と男子生徒の間に割り込む影があった。

 ナディア王女だ。

 彼女は俺を背中に庇い、目の前の生徒達を睨みつけていた。

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