第8話「地味すぎる畑修行。でも俺の《記録》スキルが超覚醒した件」
異世界の朝は早い。
というか、俺が早く起きすぎてる。
おっさんの体内時計、完全に農民モードだ。
「はい、課長、鍬逆ですよ」
「えっ!? ……あっほんとだ。これ柄でした!」
「佐藤、お前、種まく方向逆。そこは昨日やった列」
「ええっ!? てかもう区画わかんないっす!」
「……このポンコツ共」
勇者パーティ(笑)改め「残念な正社員隊(仮)」は、今日も朝から畑修行中である。
ちなみに、“仮”は外れそうにない。
「でも高野さん、俺たちって、なんで畑やってるんですか? この異世界、もっと冒険とかモンスターとか……」
「お前な、基本をナメるやつほど成長しねえんだよ」
「えっ」
「冒険? モンスター? そんなもん、まず“飯”がなきゃ生きてけねえだろがい!」
どや顔で鍬を振るう俺。
転生前のサバイバルスキルが、異世界で超生きてる。
というか、**前職(野外イベント会社の派遣バイト)**が地味に役立ってる。
「……つーか、なあ」
「はい?」
「俺の《記録》スキル、最近ちょっとおかしいんだよ」
「え、壊れたんですか!?」
「いや、逆。覚醒してる感がある」
実はここ数日、妙なことが起きていた。
・畑に水やり→水の浸透速度や栄養効果が自動で数値化される
・鍬をふるう→角度、深さ、抵抗値が詳細に記録される
・作物の種→気候条件・発芽確率・交配予測まで表示される
「……お前のスキル、もはや“農業AI”じゃないすか」
「これ、下手なギルドよりデータ持ってる自信ある」
「え、農業ギルドも倒産じゃん……」
いやマジで、なんかもう《記録》ってレベルじゃなくなってきてる。
俺が見る画面(※脳内HUD的なやつ)には、
もう“戦闘ログ”とか“スキル分析”とかだけじゃなく──
《環境シミュレーション:土壌モデルβ》
みたいな、やたら開発者っぽいインターフェースが表示されてきた。
「もしかして高野さんのスキルって、“学べば学ぶほど強くなる”タイプですかね?」
「そうかも。しかも“地味な行動”ほど効くっぽい」
「え、じゃあ畑仕事、最強のトレーニングじゃないすか……?」
「いや、最強に地味なトレーニングなだけだ。苦行だぞ」
……でも確かに、これはでかい。
単なる“記録”から、“解析”“応用”“予測”に進化しつつある。
まさかのスキル成長型。
このゲーム(?)バランス、大丈夫か?
ゲームな訳ないか(笑)
「ていうかお前ら、耕し方もだけど、今日の目標は“栄養配合”だからな」
「えっ、なにそれ難しそう!」
「土壌に、動物の骨粉、魔獣の糞、灰、あと発酵液体混ぜて耕す。やれ」
「うぇえええ!? それ臭いやつじゃん!」
「お前らの臭さに比べたらマシだろ」
「人として扱われてない気がします……!」
でも、やらせた。
残念な正社員どもに、人の温かみはまだ不要。
まずは汗と泥で反省しろ。
「高野さーん! なんか畑から青い芽が出てます!」
「おっ、ついに……!」
俺が記録・検証・再検証した結果、
ついに“異世界最適化農法”により、発芽成功した作物──その名も!
《青煌草》
俺が自ら命名した。自分の名前も掛けてある。
おっさん、こういうのだけはセンスある。
「この青煌草、どうやら“疲労回復&MP微回復”の効果があるらしい」
「え、回復薬の素材じゃん!?」
「そう。これ、ギルドに持ってったら普通に金になるレベル」
「異世界で農家やってんのに、冒険者より稼いでません?」
「副業禁止の社内規定がないのが異世界のいいところだな」
「現代日本、ほんときつかったなあ……」
──その夜。
俺は青煌草の成分を記録しながら、
鍋に刻んで入れてみた。味はミント風、清涼感がある。美味。
「あ〜〜〜、これは商売になるわ」
《記録》スキルが解析したレシピを自動保存し、
“調理時間”や“味評価”まで表示されたのを見て、思った。
……これもう、記録じゃなくて“人生まるごと攻略”スキルだな。
でも、俺はまだまだ地味にいく。
どれだけスキルがチート化しても、コツコツ地道にやっていく。
なぜなら、派遣のおっさんは知っている。
「派遣先の評価ってのは、地味な努力の積み重ねで勝ち取るもんだ」
だから俺は、明日も畑を耕す。
そして──スキルを育て、正社員どもを指導し、
その先にある、まだ見ぬ“異世界の企業社会”を、攻略するために!
(第9話へつづく)