表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/86

第8話「地味すぎる畑修行。でも俺の《記録》スキルが超覚醒した件」

挿絵(By みてみん) 

 異世界の朝は早い。


 というか、俺が早く起きすぎてる。

 おっさんの体内時計、完全に農民モードだ。


 


「はい、課長、くわ逆ですよ」


「えっ!? ……あっほんとだ。これ柄でした!」


「佐藤、お前、種まく方向逆。そこは昨日やった列」


「ええっ!? てかもう区画わかんないっす!」


「……このポンコツ共」


 


 勇者パーティ(笑)改め「残念な正社員隊(仮)」は、今日も朝から畑修行中である。

ちなみに、“仮”は外れそうにない。


 


「でも高野さん、俺たちって、なんで畑やってるんですか? この異世界、もっと冒険とかモンスターとか……」


「お前な、基本をナメるやつほど成長しねえんだよ」


「えっ」


「冒険? モンスター? そんなもん、まず“飯”がなきゃ生きてけねえだろがい!」


 


 どや顔で鍬を振るう俺。

 転生前のサバイバルスキルが、異世界で超生きてる。

 というか、**前職(野外イベント会社の派遣バイト)**が地味に役立ってる。


 


「……つーか、なあ」


「はい?」


「俺の《記録》スキル、最近ちょっとおかしいんだよ」


「え、壊れたんですか!?」


「いや、逆。覚醒してる感がある」


 


 実はここ数日、妙なことが起きていた。


・畑に水やり→水の浸透速度や栄養効果が自動で数値化される

・鍬をふるう→角度、深さ、抵抗値が詳細に記録される

・作物の種→気候条件・発芽確率・交配予測まで表示される


 


「……お前のスキル、もはや“農業AI”じゃないすか」


「これ、下手なギルドよりデータ持ってる自信ある」


「え、農業ギルドも倒産じゃん……」


 


 いやマジで、なんかもう《記録》ってレベルじゃなくなってきてる。


 俺が見る画面(※脳内HUD的なやつ)には、

 もう“戦闘ログ”とか“スキル分析”とかだけじゃなく──


《環境シミュレーション:土壌モデルβ》


 みたいな、やたら開発者っぽいインターフェースが表示されてきた。


 


「もしかして高野さんのスキルって、“学べば学ぶほど強くなる”タイプですかね?」


「そうかも。しかも“地味な行動”ほど効くっぽい」


「え、じゃあ畑仕事、最強のトレーニングじゃないすか……?」


「いや、最強に地味なトレーニングなだけだ。苦行だぞ」


 


……でも確かに、これはでかい。

 単なる“記録”から、“解析”“応用”“予測”に進化しつつある。


 まさかのスキル成長型。

 このゲーム(?)バランス、大丈夫か?

 ゲームな訳ないか(笑)


 


「ていうかお前ら、耕し方もだけど、今日の目標は“栄養配合”だからな」


「えっ、なにそれ難しそう!」


「土壌に、動物の骨粉、魔獣の糞、灰、あと発酵液体混ぜて耕す。やれ」


「うぇえええ!? それ臭いやつじゃん!」


「お前らの臭さに比べたらマシだろ」


「人として扱われてない気がします……!」


 


でも、やらせた。


残念な正社員どもに、人の温かみはまだ不要。

まずは汗と泥で反省しろ。


 


「高野さーん! なんか畑から青い芽が出てます!」


「おっ、ついに……!」


 


 俺が記録・検証・再検証した結果、

 ついに“異世界最適化農法”により、発芽成功した作物──その名も!


青煌草せいこうそう


 俺が自ら命名した。自分の名前も掛けてある。

 おっさん、こういうのだけはセンスある。


 


「この青煌草、どうやら“疲労回復&MP微回復”の効果があるらしい」


「え、回復薬の素材じゃん!?」


「そう。これ、ギルドに持ってったら普通に金になるレベル」


「異世界で農家やってんのに、冒険者より稼いでません?」


「副業禁止の社内規定がないのが異世界のいいところだな」


「現代日本、ほんときつかったなあ……」


 


──その夜。


 俺は青煌草の成分を記録しながら、

 鍋に刻んで入れてみた。味はミント風、清涼感がある。美味。


「あ〜〜〜、これは商売になるわ」


 


《記録》スキルが解析したレシピを自動保存し、

 “調理時間”や“味評価”まで表示されたのを見て、思った。


……これもう、記録じゃなくて“人生まるごと攻略”スキルだな。


 


 でも、俺はまだまだ地味にいく。


 どれだけスキルがチート化しても、コツコツ地道にやっていく。

 なぜなら、派遣のおっさんは知っている。


 


「派遣先の評価ってのは、地味な努力の積み重ねで勝ち取るもんだ」


 


 だから俺は、明日も畑を耕す。

 そして──スキルを育て、正社員どもを指導し、

 その先にある、まだ見ぬ“異世界の企業社会”を、攻略するために!


(第9話へつづく)



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ