第79話 記録選挙スタート! ログで選ばれる“次期王候補”
記録庁長官の座から、まさかの“王位候補”へ──。そんな未来予測ログが出た日から、俺の生活は一変した。
「ついにこの日が来ましたね、一朗さん」
葵が満面の笑みで“王位選挙スケジュール表”を掲げた。書かれていたのは、記録庁主催の市民ログ集計スケジュールと、王国規定に基づく選挙方式ログの一覧。
「いや、来てほしくなかった日だよ!? 俺、王になる気なんてないからね!? お味噌汁で予算計算してるくらいがちょうどいいの!」
だが、現実は非情。王都全域で“記録王選挙”の民意ログが急速に広がり、議会も「記録庁からの候補者受け入れ」を正式に承認。
「選挙、始まっちゃったね」
ユグがふわりと庁内に漂いながら、未来ログを読み上げる。
「未来予測ログ:“もちもち王国”建国、王・一朗。支持率78.4%。建国記念菓子:豆餅」
「そこまで具体的になってるの!? ていうか餅で国の未来が決まるなよ!」
クラヴィスも淡々とした口調で言う。
「市民ログにより、王位候補としてふさわしい人物は“記録を扱い、鍋に強く、餅に寛容な者”であると記録されています」
「最後の餅に寛容って何!? 俺、餅に特別な感情ないよ!? ノーマル餅派だよ!?」
選挙戦は、なんと「記録閲覧型選挙方式」。つまり、候補者の過去のログが全て公開され、市民がそれを閲覧・投票する形。
ちなみに、他の候補者たちは──
一人目:王族の従姉妹、特技は農業と八百屋の経営(モットーは“白菜の気持ちになる”)
二人目:宴会魔族の若手リーダー、政策は“週2の乾杯制度”導入
三人目:俺──記録庁長官(仮)、趣味は家計簿と庁舎整頓
地味だ。俺、めちゃくちゃ地味だ。
だが、ログ上の民意は異常なほど俺に集まっていた。
『記録官様ならきっとちゃんと帳簿をつけてくれる』
『餅に無関心=寛容、これは王の器』
『義理チョコへの平等対応、まさに公平の体現』
さらに──
『誰よりも地道に記録を重ねてきたその誠実さが信頼できる』
『鍋の食材までログ管理されてたの、今思えばすごかった』
『選挙前のログ閲覧で、地味に一朗さんが過去ずっと記録していた“落し物返却率”が97%超えなのを見て泣いた』
『定期点検報告や庁舎掃除の記録が数百件あって、逆に感動した』
地味で目立たない仕事でも、ちゃんと見ていた人がいたんだ。地道に積み重ねた記録が、いつの間にか信頼と評価につながっていた。それが──今、投票という形で返ってきている。
「なんだその理屈!? 無理やりすぎるでしょ!」
選挙公報のため、庁内には即席で“記録選挙準備室”が設置され、葵が選挙スローガンを読み上げる。
「キャッチコピー案:『あなたのログで未来を変える! 記録庁長官、一朗を王に!』」
「待って!? 俺は別に変えたくない! 未来は安定しててほしい!」
「市民は変化を望んでいます」
と葵がきっぱり言い切ると、ログ室からまたもユグの声が飛んだ。
「最新ログ:選挙演説予定地で“湯たんぽ王”と叫んだ者、支持率上昇」
「誰だよ湯たんぽ王って!? 俺じゃないよな!?」
クラヴィスがすっと手を挙げた。
「庁長の冬の装備記録から派生した異名です。民のログはすべて拾われます」
「拾わなくていいログってあると思うんだ!」
その日の午後、ついに第一回公開演説が実施された。
場所は王都中心広場。観客は数千人。記録端末がライブ中継される中、俺は壇上に立たされ、演説原稿(クラヴィス謹製)を渡された。
「ええと……皆さん、こんにちは。わたくし……高野一朗は……えー、記録を……あの……鍋を……」
噛みすぎだ俺!
しかしその様子を見ていた市民たちはむしろ感動していたらしい。
『飾らない言葉、好印象』『記録庁らしい素朴さ』『鍋のある政治を』
どんどんログの支持率が上昇していく……!
そして夜、記録庁に戻ると──
「速報:第一選挙集計により、庁長支持率82%で暫定1位です」
「うわああああああ!!!」
葵が満面の笑みで言う。
「おめでとうございます、一朗さん。記録王、目前ですね」
「やめて! まだ“王の椅子”とか発注しないで!!」
クラヴィスが控えめに提案する。
「予算案に“王位就任記念もちもち式典費”を追加してもよろしいでしょうか?」
「やめて! もちが正式になるのやめて!!」
こうして記録をめぐる“王選挙戦”は、予想を遥かに上回る盛り上がりを見せ──




