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第62話 災厄の前兆──記録スキル、暴走す

 王城──エンリルの消失からおよそ一時間後。


「……で、どういうことですかこれは」


 俺、高野一朗は、玉座の間の隅っこで正座しながら、自分の手帳を両手で持っていた。まるで反省文を書かされてる生徒みたいなポーズだった。


 ページはぺらぺらと自動でめくられ、そこには俺が一度も書いた覚えのない文章が、ものすごい勢いでびっしりと記録されていた。


『目視確認──王都ノヴァリア、構造座標71-AZ。上書き因子“新生体エンリル”出現を記録。記録者:高野一朗。』


「俺、書いてない!絶対書いてないからな!? 文字とか勝手に打ち込まれてるし、これ自走式手帳かよ!」


「またページが増えてます!」


 葵が顔を近づけ、手帳の端をめくると、紙が“にゅっ”と生えるように増えていた。


 ぺらっ、ぺらっ、ぺらっ──と音を立てながら、まるでプリンタのごとく自動生成されるページたち。


「これ、もはや製本して売れるレベルでは?」


「内容が世界崩壊の実況中継なんですけどね……」


「……ふむ、言語構造が並行次元型記録式。しかもこれ、文字の配列が“観測者不在時の現象定義”になってる」


 クラヴィスが難しい顔で言うけど、俺はもう脳がついていかない。というかクラヴィス、さっきからずっと手帳の端っこ嗅いでない? それ、紙の匂いフェチなの?


「もしかして……スキルが勝手に進化してるの?」


 葵が神妙な顔で呟く。俺は頭を抱えながら叫んだ。


「進化っていうより、反抗期通り越して自我に目覚めた系!? もうやだ! うちの子(手帳)、思春期迎えてるぅぅぅぅ!!」


「ねぇこれ、ページって焼いたら香ばしいかな?」


「ユグ、それをおやつにしようとすんな!」


 そのとき、耳元で“キィイィ……”という金属を削るような音が響いた。


「な、なんだ今の!? 俺の鼓膜がファミコンみたいな音出してるぞ!?」


 俺が慌てて手帳を見ると、一ページが淡く光り始めた。


『記録再生──エンリルとの対話ログ──再同期中……』


「えっ、再生!? 録音機能なんて搭載してたの!? なに? 手帳という名の盗聴デバイス? 総務省案件!?」


「しっ! 映像が出るわ」


 その瞬間、手帳の上空に“ホログラム”的な映像がふわりと浮かび上がった。エンリルが空から登場し、「修正が必要だ」と言い放つ、例の恐怖シーン。


「これ、ただの記録じゃない……。スキルが自分でナレーションつき再現映像作ってる……」


 クラヴィスの声は呆れ気味だ。俺も呆れてた。というかナレーションが妙にイケボだ。俺の声じゃないし誰の声だこれ!?


 そして──手帳が突然、心臓みたいに“どっくん”と脈打った。


「うわっ!? あつっ!? なにこれ、魔力? 湯たんぽ!? 手帳があったかくなる機能ついてたっけ!?」


 ぴしぃっ、とページの中心から小さな魔力の渦が湧き上がる。


『転写スキル──第二段階への変質を確認』


「第二段階って……進化段階ポケモンかよ!? 俺、スキルに進化石使ってないぞ!?」


『転写スキル・新機能:予言記述/強制観測/記録干渉』


「いやいや、もはやスキルってレベルじゃねぇぞ!? 予言て何!? 未来視!? 干渉て何!? この手帳、バグって神になろうとしてない!?」


「うわぁ……」


 葵もクラヴィスもユグも、一歩下がる。


「待って待って!? 俺、何もしてないんだから!? ある意味これ、俺の被害者日記だからね!? 書いてるの、俺じゃないからね!?」


 そのとき──手帳のページがひとりでにめくれ、またしても金色のインクで文字が浮かび上がった。


『次に王都が揺れるのは、今から三分後。原因は記録スキルの干渉──』


「……ちょ、ちょっと待って!? その予言、リアルすぎるんだけど!?」


 そして──


「──やばい! 逃げろ!!」


 俺の叫びと同時に、王城全体が“ごごごご……”と嫌な音を立てて揺れ始めた。


 シャンデリアがきしみ、壁のタペストリーが波打ち、なぜかユグがケーキを皿ごと抱えて窓際に避難していた。


「このケーキだけは守る……!」


「そこ!? 命より大事なのケーキ!? ユグ、スイーツ至上主義すぎる!!」


 ……そして俺のスキルは、いよいよ世界の“記録”を改ざんし始めていた。


──まるで、次の物語を書き出す“作者”のように。

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