第6話「課長(パーティのリーダー)が土下座にくる話」
異世界に来てから、早いもので一週間。
元職場の正社員連中が“勇者パーティ(笑)”として神にチヤホヤされてる中、俺一人だけ追放されて、野宿スタートだった。
だが今、俺は──
「薪もある。鍋もある。冷や奴(風)もある。……そして、佐藤(元同僚・勇者)が土間で正座してる」
「……あの、ずっと座ってるんですけど、もう動いていいですか……?」
「だめ。おっさんが“許可”って言うまで正座継続な」
「はい……すみませんでした……」
ふふん。ついに来た。
あの勇者パーティのリーダー、田島課長(中間管理職・転生後は聖騎士)が俺の元へ──土下座しに来る日が。
きっかけは単純だった。
例の盗賊団事件でボロボロになった佐藤を、俺がなんやかんやで助けた噂が広がり、
さらに「追放された元派遣のおっさん、実はヤバいスキル持ち」という都市伝説化が進み──
ついには、奴が来た。
「……失礼します、高野くん……いや、“高野さん”……いや、“高野様”……」
「どれだよ」
「ひとまず、おひざ、拝借──!」
ズシャアッ!
俺の目の前で、あの田島課長が、勢いよく土下座をキメた。
地面に額を擦りつけすぎて、煙が出た(※誇張ではない)。
「ま、まことに申し訳ございませんでしたああああああ!!」
「うるさい。近所迷惑だろ」
「ち、近所って森のリスとフクロウしかいませんよね……?」
「静かにしろ。フクロウにだってプライバシーはある」
「す、すみませんッ!!」
ふう、とりあえずお茶を淹れる。
異世界でも茶葉を見つけた俺のサバイバル能力、マジでパない。
「……で? 今日はなんのご用で?」
「我々勇者パーティ、……崩壊の危機でして……!」
「あーはいはい、ざまぁ」
「本当にすみません!!!!!」
課長の話によると──
俺を追放した後、勇者パーティは天狗になりすぎた
他のパーティやギルドとトラブル続出
神からの支援も減額(どうやら信用評価システムがあるらしい)
結果、モンスター討伐すらままならず、評判ガタ落ち
そして今、かつての派遣社員、つまり俺が活躍してるという噂に、
仲間内が「なんであんな優秀な奴を追放したんだ」と課長を責めはじめ、
ついに──
「高野さんを正式に、我々のリーダーに迎えたい……っ!」
とまで言い出したらしい。
「……え、なに? 勇者パーティのリーダーになってほしいの?」
「はい! すべてあなたにお任せします! 俺は……もう……うう……(泣)」
「えっと、なんで俺がそんなゴミ箱みたいなポジション引き受けなきゃいけないの?」
「す、すみません……」
「俺のこと、スキルなしの無能って笑ってたよな?」
「すみません……(泣)」
「異世界でも、課長はやっぱり“責任転嫁スキル・極”の持ち主だったんですね?」
「う……うぅぅぅうう……(土下座継続)」
佐藤が言ってた。
“課長がマジで土下座してくることなんて、会社でもなかった”と。
……なるほど、こいつ、本気で追い詰められてるな。
だが俺は、お人好しじゃない。
「よし、だったら条件付きで協力してやろう」
「ほ、ほんとですか!? 条件ならなんでも!」
「まず一つ目。お前らのこれまでの不正記録、全部提出しろ」
「……え?」
「二つ目。勇者パーティ(笑)っていう名前、変えろ。今すぐ。“残念な正社員隊”とかに」
「えっ、それはちょっとブランディング的に──」
「三つ目。俺に土下座してから『俺たちがバカでした!』って10回叫べ」
「えええええええ!!!??」
だが、課長はやった。
この異世界で、俺は初めて「会社では見られなかった地獄絵図」を目撃した。
勇者(元課長)が泣きながら土下座で懺悔する姿を、
記録スキルでフル音声&フル映像保存済み。
──これ、いつかどっかで配信しようかな?
タイトルは、
『元課長、勇者やめました 〜土下座と涙と泥と草〜』
で決まりだな。
(第7話へつづく)