第2章 第27話 空白のページ──新章突入!王都と“次なる塔”の噂
──数日後。選別の塔の崩壊から。
「ようやく……日常に戻ってきたなぁ」
王都の宿屋のベッドに全力で倒れ込みながら、俺は深いため息をついた。全身がふにゃふにゃだ。精神的にも体力的にも、まさにフルマラソン後の一杯目レベル。
「でも、よかった……一朗さんが無事で」
そばの椅子でお茶を淹れてくれていた篠崎さんが、ホッと胸を撫でおろすように微笑んだ。
「篠崎さんが支えてくれたおかげだよ。ほんと、あの“記録喰い”とか最初の転生者とか……二度とごめんだわ」
「でも、“深層記録”っていう新スキルは、すごく頼もしかったです。……ねえ、一朗さん?」
「ん?」
彼女が差し出してくれたマグカップには、ハート型のクッキーが添えられていた。
「“甘い記録”も大事にしてね?」
「そ、それは……記録対象が曖昧すぎるって!」
顔が熱くなるのを抑えきれず、お茶を一気に飲み干す。うまい。甘い。恥ずかしい。
そんな穏やかな時間が、久しぶりすぎて。
──そこへ、ドアが乱暴に開け放たれた。
「高野さん! 篠崎さん! 大変です、見てください、これ!」
クラヴィスが血相を変えて飛び込んできた。彼が差し出したのは、王都の地方紙──『王都タイムズ』の号外だった。
『第二の“未記録塔”出現か!? 東方の旧遺跡で観測された“空白の反応”』
─塔の存在すら記録されていない“禁域”にて、選ばれし者のみが干渉できる異常空間が発見された模様──
「未記録……塔?」
「ええ。“記録されない領域”。高野さんのスキルでは感知不能な、完全に因果から外れた空間です」
「ってことは、俺が使えない……?」
「いえ、逆です」
クラヴィスが不敵に笑う。
「あなたの《記録》スキルだからこそ、“空白を埋める”可能性があるとギルドは見てるんです」
ふむむ……スローライフ希望だったのに、どんどん“仕事”が増えていくんだが。
「で、その遺跡ってどこなんだ?」
「……《タナトスの境界》。王都から東へ四日。“死者の記録”が風化する墓標地帯です」
嫌な名前しか出てこない。案の定、篠崎さんが顔を強ばらせる。
「死者の……記録?」
「塔の調査隊がすでに向かっていますが、“記録喪失症”を発症した者が続出しています」
「つまり、“記録”を食う存在がまた出てくるかもしれないってことか」
そんな話をしていると、廊下からガヤガヤとした声が聞こえてくる。
「お、おいあれじゃね!? “塔を突破した派遣の英雄”だよ!」
「うっわ、農業の神って呼ばれてたけど、今や“記録の騎士”らしいぜ!」
──え、なにそれ俺知らない。
「英雄ですもんね。私も、ちょっと誇らしいです」
「褒められてるのは俺なんだけど、篠崎さんの顔のほうが照れてるのな……」
「そ、それは一朗さんが、勝手に……!」
ふたりで顔を赤くしていたら、クラヴィスが咳払いしてきた。
「……というわけで、高野さん。出動の準備を」
「はいはい、了解……」
そうして俺たちは、新たな塔、“未記録の領域”へと旅立つこととなった。
俺の《記録》スキルには、まだまだ“空白”が多すぎる。
だが、それは同時に──可能性でもある。




