第2話「勇者パーティ(笑)に選ばれなかった俺」
「……あれ、腰痛が……ない……?」
目を覚ました俺は、草原のど真ん中で寝転がっていた。
空は青く澄み、風は爽やか。
耳を澄ませば、小鳥のさえずりと──正社員どもの悲鳴が聞こえてくる。
「えええ!? 俺、火出せるんだけど!? 魔法!? これ魔法!?」
「俺、“雷の剣”とか出てんだけど! これチート武器じゃね!?」
「おいおい、俺は“勇者”って書いてあるぞ! 勇者ってことは、主役だよな!?」
うるせぇよ。朝からテンションがうっとおしい。
だがまあ、異世界転生ってのは本当だったらしい。
俺自身の身体も、なにやら異変が起きていた。
肩こりもなければ、腰痛も消え、膝の痛みもどこへやら。
「……あれ?」
おそるおそる、自分の手を見てみた。
ゴツゴツしていたはずの中年の手が、すべすべの白肌に。
試しに近くの泉で顔を覗いてみると──
「……誰だ、コイツ」
そこには、中性的な雰囲気をまとったイケメンおっさん(43)の姿が映っていた。
髪は艶のある黒。
目元はキリッと涼しげで、肌にはシミも皺もひとつもない。
──いや、これ……俺?
どうやらこの世界は、「現世での苦労」に応じて、外見を“上方修正”する仕様らしい。
「おっさん、なに鏡見てにやけてんすか? 顔変わってもスキル無しなんすよね〜?」
声の主は、俺をやたらとマウントしてくる営業の若造・山田だった。
「おい皆〜、こいつ見ろよ! 見た目イケメンだけど、スキル欄スッカスカだから!」
「マジ? やばくね? 勇者パーティにはいらねーだろそれ」
「てか“無職”じゃん。は? ニートかよ」
──その通りだ。
表示されていた俺のステータスは、こうだった。
【名前】タカノ・イチロウ
【年齢】43
【職業】無職
【スキル】なし(?)
(※実際は《記録》が裏で発現していたが、この時点では他人からは“なし”扱い)
「おっさん、いったん町に戻るけど、どうする? 一緒に来る? まあ来ても役に立たんだろうけど!」
「いやいや、さすがに戦力外でしょ。あっちの小屋にでも住んどけよ。モンスター来るけど(笑)」
「記念に写真撮っとこーぜ! “異世界で即戦力外通告されたおっさん”ってタイトルでアップしようぜ!」
「ハイ、チーズ☆」
地獄は異世界にも存在した。
──だが、心のどこかでわかっていた。
こいつら、転生した途端に“選ばれし俺たち!”みたいなノリで完全に舞い上がっている。
スキルに頼って、調子に乗って、どこかで痛い目を見るのは、目に見えていた。
そして俺は──
このときすでに、《記録》スキルが、無音のまま世界のあらゆるものを自動で記録し続けていたことに気づく。
>《対象:炎熱魔法・基礎術式》を記録しました。
>《対象:雷剣・振動エネルギー変換》を記録しました。
>《対象:パーティ編成時のリーダー権限》を記録しました。
>《対象:モンスター・ゴブリンの気配察知方法》を記録しました。
──なんだこれ。
見てるだけで全部記録してんのか?
「はっ……なにが無職だよ」
思わず笑いが漏れた。
記録できるってことは、いつか再現できるってことじゃないか。
“無職”ってのは、今だけだ。
見てろよ、正社員ども。
俺がどこまで這い上がるか、記録してやるからな。
そうして、俺は勇者パーティから選ばれなかったおっさんとして、
ひとり、異世界での一歩を踏み出した。
──すべてを“記録”し、そして“ひっくり返す”ために。
(第3話へつづく)
本作『氷河期世代の派遣おっさん、会社の親睦会ごと異世界転生したら俺だけ“スキルなし無職”で即追放されたけど、実は“なんでも記録する無敵スキル”持ちでした〜地味にコツコツ成り上がってたら正社員どもをざまぁして国まで乗っ取ってましたの件について〜』をお読みいただき、感謝申し上げます。
この物語は、社会の片隅でくすぶっていた氷河期おっさんが、まさかの異世界で“農業革命”を起こしながら、同僚たちに一泡吹かせていく【ざまぁ×農業×お仕事×ちょっと恋】な異世界スロー成り上がりコメディです。
もし少しでも「面白かった!」「クスッときた!」「こんなおっさん、推せる……!」と思っていただけましたら――
どうか!
**ブックマーク(栄養)と感想(水やり)**をいただけると、作者のやる気が光合成しながら急成長します
ご感想は一言でも大歓迎です!
「草」「農業つよい」「篠崎さんかわいい」など、読者さんの言葉一つひとつが、連載の命綱となっております。
今後も毎話更新で、笑いとスカッとと癒しをお届けできるよう精進してまいります!
応援よろしくお願いいたします。