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第15話「え、俺たち婚約したってことになってるんですか!?※王都新聞による誤報です」

「……は?」


 朝、まだ眠気の残る目をこすりながら王都のパン屋で買った焼きたてのクロワッサンをかじっていた俺・高野一朗たかの いちろう・元派遣・現異世界農業革命家は、その新聞の一面を見て固まった。


《王都農務省新星カップル誕生!? 篠崎聖女と“無農薬の貴公子”高野氏、婚約との噂!》


……なんだこれ。


「ちょ、ちょっと篠崎さん!? これ見ました!? 見てくださいこれッ!」


 俺は畑の収穫準備をしていた篠崎さんを呼び止め、震える手で新聞を突き出した。


「はい? あら……あらら?」


 篠崎さんは新聞に目を通すと、ぱちぱちと瞬きをしてから、くすっと微笑んだ。


「……ふふ。まぁ、否定するのも手間ですし、いっそ乗っかってみます?」


「乗っかるって何!? 乗っかっちゃダメなやつでしょこれ!? だって俺たち、まだ! ただの! 仲間だよね!?」


「“まだ”って言いました?」


「えっ、いやいやいや、それは誤読、というか言葉のアヤ、っていうかそのですね……」


 完全に動揺していた。

 俺の口から飛び出す言葉は、焦げたクロワッサンの欠片みたいにポロポロと崩れ落ちていく。



 ことの発端は昨日の農務省での会談の後、俺たちが仲良さげに話しているところを、王都新聞の記者に盗み聞きされたことに始まる。


 あの時、俺が「これからも一緒に頑張っていきましょう」って言ったのを、どうも「生涯を共にしましょう」的なフレーズに誇大解釈されたらしい。


 それに篠崎さんが微笑んで「はい」と返したもんだから、完全に「公開プロポーズ成立」的な記事にされちまったんだ。


 しかも写真付きで──


 俺が汗だくの農業作業着で、篠崎さんが笑顔で隣に立ってるだけの写真なのに、キャプションがこうだ。


《農園のプリンスと聖女の恋、土から花が咲く未来へ》


 やかましいわ!!



「で、どうするんですか? ねぇ、“プリンス”」


「やめて!? 今後そう呼ばれたら生きていけない気がする!!」


「わたしは別に、気にしてませんけど?」


「え? ……本当に?」


「えぇ。だって高野さん、信頼できるし。一緒に農業やってて楽しいし、正直、婚約の噂くらいで動じるような間柄じゃないですよね?」


「う、うん……そうだよね……うん……(※でも正直ちょっとドキッとしました)」


 俺の中で、クロワッサンより甘くて扱いが難しい感情がじわじわと芽生えていた。


 だがその時、さらに追い討ちをかけるように、小屋の扉がバンッと開いて、村の少年が血相変えて飛び込んできた。


「た、高野さんっ! 王都からの使者が来てるって! 婚約祝いの使者だって!」


「はああああああああ!?!?!?」


 完全に話が一人歩きしてるッ!



 結局、俺たちは王都に呼び出され、形式上「誤報でした」と訂正させることに成功した。


 だが、その訂正文もまたなかなかにパンチが効いていた。


《正式な婚約ではなかったものの、両者は強い信頼関係で結ばれているとのこと。今後の進展に期待したい》


 だからやめてくれぇええええええ!!


 結論:異世界でも、マスコミの暴走は止められない。


 そして、何よりも止められないのは──俺のドキドキの鼓動だった。


…って、やかましいわ。



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