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【第一章 魔法少女の覚醒】6

 ガキイイィンッッッ‼ と。耳を引き裂くような痛烈な高音が響き渡った。


「……⁉ 何が……」

「キミのその思い、確かに聴き届けたベポ」

 目を開けるより早く、その声を聞いた。七海が見上げると、そこには今朝に見た、あの不思議生物、ベポリスの姿。

「な……なんだ、コイツ、浮いて……? いや、まず、なんだこれ……」

 二上の困惑も無理はない。

 宝石のように眩い輝きを放ちながら、彼を中心に広がった周囲を取り囲む結界。ゴーレムの剛腕さえものともしない、その異様な光景は、あまりにも非日常が過ぎていた。

「いやぁ、念のため隠しておいて正解だったベポ。やはりボクの目に狂いはなかったベポね!」

 その結界の中彼は、今朝と変わらず明るい口調で、七海に話しかける。

「あ、アンタ……何でここに……。それに、これって……?」

 七海は手元の小さなペンダントをベポリスに問う。依然光を放ち続け、眩しさに目が眩みそうになる。

「それは、思いに共鳴する、魔法少女の変身アイテム『レゾナストーン』。キミのその強い思いにそのペンダントは応えたんだベポ!」

 急激な展開に、七海は戸惑いを隠せない。二上は二上で、何が起きているのか状況を整理するので精一杯だった。

「な、なにそれ……⁉ そんなの聞いてない、無理だよ! 出来る訳ない! 返す、返すから……!」

「キミは選ばれたベポ。魔法少女として、その力を振るうことを」

「だ、だからそんなの……いらないって言って……! 勝手なことばかり言わないでっ!」

 感情の整理が追いついていない七海。焦りや困惑が入り乱れる。

「……一つ謝っておくよ」

「……え?」

 明らかに、雰囲気の変わったベポリスを見て、七海は動揺した。ベポリスは構わず、七海にぺこりと頭を下げていた。

「ごめんベポ。ここまでは、ボクのわがままベポ。キミが選ばれることは始めからわかっていた。キミの潜在的なその力は、ボクらにはとてもわかりやすいからね」

「……?」

「だけど、キミの選択をボクは尊重したい。キミはとても強い人ベポ、人の痛みがよくわかって、誰かを助けることに、臆することなく向かっていける」

 ボクの時は少し躊躇いがあった気がするけど、と苦笑するベポリス。

 ベポリスは、七海をまっすぐ捉え、こう言い放つ。

「──キミに、選んでほしいベポ。現状維持を選ぶか、変化を望むか」

 真剣な彼の表情。七海は目を逸らし、俯いてしまう。

「そんなの、急に言われたって、選べる訳……」

「そうベポ? ボクには、キミのその意志、ちゃあんと伝わっているつもりベポよ? ……魔法少女への憧れを捨てきれずにいる、キミのその意志が」

 挑発するようなその態度。つい、拒否反応を示してしまう七海。

「……ちが、あの子たちみたいになりたいって、そういう、意味じゃ……」

 言いかけて、やめた。嘘だ、本当は正真正銘、彼女たちのようになりたいと願っていた。今しがた、自分が叫んだ思いのままだ。

「とはいえ。流石にこの結界も長くは続かないベポ。なるべく早い結論を期待してるベポ」

 そう言われ、気付く。結界がピシピシと音を立てて、崩れ始めていることに。このままでは、彼自身も危ない。

 数十秒もの沈黙。七海は考えていた。

 ──……本当は。ずっと迷っていた。今私がなにをしたいのか、何が出来るのか。

 こんな無力な私でも、出来ることがあるのかって。

 怖い。……だけど。

 ふと、二上の方を向く。未だ瓦礫の下に囚われている彼女のことを思うと、七海は、自然と笑みが零れていた。

 ああ──そうか、と。心に抱いていた靄の正体を、やっと掴んだ気がした。

 そして、自分自身に問いかける。


 ──力がないだとか、知ったことか。私が今、出来ることは、したいことは何だ?

 答えなんて『その声』を聴いたときから、走り出したときから、決まってたんでしょ?


 七海は。

「……、本当に助かるんだよね。私たち」

「保証するベポ、ボクの命に代えても」

「……いらないよ。そんなもの」

 頭を振り、まだ傷の痛む手を握りしめ、決意に変えた。

 ──助けて。

 その声に、迷いなく進め。


「私が、今この瞬間の、困ってる人たちを助けられるなら、やってやる。魔法少女にだってなってやる‼ お願い、力を貸して‼」


 固い固い決意の言葉を、思いの丈を、ぶつけるように七海は叫んだ。

 ベポリスは彼女の言葉を聴き、口の端を(わず)かに持ち上げた。

「──契約成立(リージョンリリース)

 ベポリスの一言で、そのペンダントの輝きが収束していき、七海の体へと、吸収されていった。

「……! 今のって……」

「ペンダントとの契約を結んだベポ。今、キミの体には、魔法の力が埋め込まれた。試しに、変身してみるといいベポ。魔法は、イメージベポ!」

「魔法はイメージ……?」

「目を閉じて、呪文を唱えるベポ。なんでもいいベポ、キミの思う言葉で。『変身』でも、それ以外でも。とにかく呪文を唱えて、その力を顕現させるベポ!」

「う、うん……」

 七海は目を閉じ、呼吸を整える。自然とペンダントを胸に当て、


「……、マジック。メタモルフォーゼ‼」


 簡素にも思える呪文を唱えた。

 すると、ペンダントから彼女を包み込むような光が広がり、全身を覆う。

 今まで着ていたはずの服が消え、代わりに別の感覚が伝わってくる。力の奔流(ほんりゅう)とでも言うのだろうか、それに包まれているだけで全身に何か大きな力が込められていく。

 やがて光の束が密着するように、彼女の体を這い回り、フィットしていく。肩までかかる黒髪は白い光に、頭の後ろでリボン調に結ばれた。

 光から解き放たれた時、黒を基調としたドレススカートがひらりと揺れた。レースやリボンがふんだんにあしらわれたゴシックスタイルの衣装が、彼女を彩っていた。

「これが……私……」

 それは、いつか夢見た、魔法少女の姿そのもの。

「キレイ……」

 その煌きに、二上すら息を呑んで呟いた。

「おめでとうベポ。これでキミも立派に、魔法少女ベポ!」

 小さな手で拍手をし、称賛するベポリス。

「……うん、ありがと」

 七海は胸に手を当てた。確かな、力を感じる。

 希望の力。そう感じた。

「さて。それじゃあひとまず、ここから脱出するベポ! ゴーレムはまだボクが抑えていられるから、早くその子を安全な所へ連れていくベポよ!」

「うん……!」


 そして。

「ふっ……ぐうう……!」

 ガラガラと、人一人分の隙間を、瓦礫の重みが埋めていく。粉塵が舞って、鼻につんとくる違和感に思わず咳き込んだ。

「……二上さん!」

 七海は、瓦礫を直接、軽々と持ち上げ、さっきまでの苦労が嘘のように、二上を助け出してみせた。黒い衣装に包まれた少女は、まるで別人のような輝きを放っているように見え、二上は目を奪われていた。

「行こう、早くここから逃げなきゃ」

「あ……あぁ」

 二上は、嫌悪感もなく、気付いたら手を伸ばしていた。

 彼女はその手を掴んで、一緒に脱出しようと、二上を抱えて駆け出していく。

 逃げる間、二上は何も言わなかった。

 七海もまた、何も言わなかった。

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