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【エピローグ ~やっぱり、無理~】

 リリィ、シスターとの共闘による魔物退治から、数日が経った。

 あれから七海は、例の三峰病院にて治療を受けた。先の知り合い看護士に「あれだけ言ったのに」とお叱りを受けたのは言うまでもないが、シスター──三峰九怜愛による仲裁で、その難を軽めに済ませることが出来たのは運が味方したと言っていいだろう。

「まぁですが。わたくしからもいろいろ言いたいことはありますけれど、ね?」

 と、今度は三峰からも糾弾を受ける羽目になっていた。

「大体なんですか、最後に使ったあの魔法は。咄嗟に思い付いたものなのでしょうけれど、博打(ばくち)が過ぎますわ、もし上手く行かなかったらどうするつもりだったんですの?」

「そ、それは悪かったって思ってるよ……自分でも無茶してる自覚はあるけど……け、結果的に、助かったからモーマンタイ? なんて……」

「七海さん?」

「はい、ごめんなさい……」

 下手に言い訳しなければよかった、そう心から思った。


 魔物による被害報告は、変わらずあちらこちらで悲鳴のように上がり続ける。しかしそれに輪をかけるように七海たちの活動頻度も増加していった。

 知名度としてはまだまだ低いものだが、『ゴシック』という名も少しばかり広まり始めたようであった。それでも、リリィの影響力には到底及ばないのは周知の事実であったが。

 また、魔人についての情報も二子澤たちと共有した。〝宣戦布告〟を受け、これまで以上に戦いが激化することが予想されると不安を込めて七海は伝えたが、「あんな魔物を退けたんだ、訳ないよ」と二子澤は楽観視。無論、六城には(とが)められていた。

「いい? 七海さん。これからはどんな些細な違和感でも私たちに告げること。……それと。あなたはもう少し、自分を大切にすること」

「……なんか、ずっと同じこと言われてる気が……」

「自覚ないからじゃない?」

 珍しく二子澤のツッコミが光っていた。


 それから七海は、自分の名が世間に知られ始めたのを嬉しくも思っていたし、同時に気恥ずかしさも抱えていた。日頃からあまり目立つのが好きではない七海としては、このまま穏便に過ごせることを願っていた。

「ホント、久しぶりにすごい戦いだったよねー、あの魔物の戦い」

 とは、八坂の言い分。魔法少女好きと公言する彼女だが、一体どこで情報を仕入れているんだろうと七海は怪訝な顔をしていた。

「それと、七海さん。あまり目立つようなこと、しない方がいいかもね?」

「? それってどういう……」

「私、見ちゃったの」

 八坂が耳打ちし、告げた。

(七海さんが、……変身してるとこ)

(ッ!! ……、あ、その、えっと)

(大丈夫。私は誰にも言うつもりはないよ。だって、私、魔法少女大好きだもん)

(そ、そう……理由になってるの? それ)

「……、どうかなー?」

「な、なにそれ……?」

 戸惑う七海の反応をからかう八坂。温かみの笑みであるとともに、どこか不思議な印象を感じる七海だった。


 そんな彼女が今、何をしているかというと。



「……」

 ぶちっ、ぽーい。ぶちっ、ぽーい。

 どんより沈んだ顔で、公園でひとり、パンの耳をちぎっては、投げていた。

 ……いや、彼女も遊んでいる訳ではない。まして、鳩に餌をやって承認欲求を満たしている訳でもない。もしそうなら、もう少し嬉しそうな顔をするものだ。

「……これ、いつまで続くベポ?」

 しびれを切らしたベポリスが隣で話しかける。

「……、目の前の、タワーがなくなるまでかなぁ」

 細めた目で、見上げる。

 目の前には、青いぷよぷよした水玉のような塊がうず高く積みあがる。それも一つではなく、幾つも。

「ピ、ピ」

「ピギーッ!」

 などと鳥のような声をあげ、タワーへと登るそれは、およそ昨今のスライムと呼ばれる雑魚の象徴と呼ぶに値するだろう。しかし、それにしても数が多い。

 公園を埋め尽くすほどに増殖したスライムは、やがて町へ繰り出し暴れ出すかもしれない。一匹一匹は攻撃力もなく非力なものだったが、数の暴力で襲われれば窒息しかねない。

 現に、ゴシックも一発矢を打ち込んだところ、見事に二つに分裂し、増殖したのだ。物理攻撃が通用せず、太刀打ち出来ない。

「ピ、ピ、ピ、ピギー……ッ!?」

 と、パンの耳を追いかけ、こちらへ向かってくるスライム。悲鳴をあげ落下していく。

 何故か?


 ゴシックの影の魔法による落とし穴に、まんまとはまっているのである。


「ピギー! ……ピ?」

 コントのように見事落下を遂げていくスライムたちを死んだような目で見つめ続ける。その間も、パンの耳をちぎって投げてを繰り返す。どうしてパンの耳に反応しおびき寄せることが出来るのかも謎だったが、もうこの際そんな疑問は投げ捨ててもいい。

「うぅ、やっぱり私、魔法少女向いてないかも……」

 とうとう泣き崩れ、ゴシックは膝を抱え始めた。限界である。せっかく大変な思いまでして習得した影の魔法を、まさかこんな使い方をするだなんて、自分でも思っていなかった。

「……それ、もう何度目ベポ? 聞き飽きたベポよ……」

「だってさぁ! こんな! こんな無力な子たちを倒さなきゃいけないってさぁ! 私無理だよぉ! かわいそうだもん!」

「落とし穴にはめるのはいいベポ?」

 そう。ゴシックは、このスライムの愛くるしさにすっかりほだされていた。ぷよぷよした体でばねのように伸び縮みしながら、つぶらな黒い眼がゴシックを見つめていた。

「ピギ?」

「見てよ、この足のない体で必死によじってくるとことか……! 鳴き声とか! 力だってそう、全然痛くないし! このタワーだって……何このかわいい威嚇」

「ピギーッ!」

 必死な顔をして、タワーのてっぺんスライムが精一杯鳴いていた。攻撃手段もへったくれもない。

「これが“救う”ってことなら、私、間違ってる気がしてきた……」

「間違ってないから安心してほしいベポ……というか流してたけど、何でパンの耳なんて持ってたベポ……?」

 ベポリスの冷静なツッコミも今のゴシックには届かない。

 ちらと、スライムの動向を流し見る。視線の先では、日向ぼっこまでしているスライムがいた。ぽけ~と間抜けな眼が愛らしい。

「ピィ〜ギィ〜……」

「……、一匹ぐらい持って帰っても怒られないんじゃ……」

「見た目が良くても所詮魔物ベポ。目を離した隙に電線にでも登られてショートしたら街全体が停電ベポ」

「やってることに反して実害がデカすぎる!」

「全身水の塊みたいなものだから人の顔に襲い掛かったら溺死もあり得るベポね」

「ふり幅が両極端! 普通にヤバい生命体だ!」

「だから早く退治するベポ……日が暮れちゃうベポよ……」

「うぐぅ……!」

 頭を抱えじたばたするも、事態は思うように好転しない。

「やっぱり私に魔法少女なんて無理だったんだ……。あんな、リリィにあんな啖呵(たんか)まで切ったのにこのざまで……」

 その後も、無様に落ちていくスライムをただ呆然と眺め続けるゴシックとベポリス。

「うぅ、六城さんも二子澤さんも、今の私なら一人でも大丈夫って言ってくれたけど……」

 フタを開ければ、こんなものだった。

 帰りたい。今の思いは、ただそれだけだった。

「こんなの、私が願った魔法少女の姿じゃない……」

「……」



 その後。


「えぇっとぉ……、す、すっごく、コミカルな感じだね……?」

「……え?」


 落ち込み膝を抱えたゴシックの元へ、精一杯言葉を選んだリリィが、困惑顔でやってくるのだが。

 ……それはまた、次のお話だ。

ご愛読、ありがとうございます!

次章の投稿まで、しばらくお待ちくださいませ!

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