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【第二章 魔法少女の責任】4

「『魔人』。魔法少女を狙い、暗躍してるって言われてる、私たちの敵」

「……」

 魔人。七海はそんなワード、聞いたこともなかった。しかし響きからして、何か只者ではない空気感だけは伝わってくる。

「具体的な情報は。まだ何も掴めていないの。私たちもまだ一度も会ったことはない。でも、一度魔人を見たっていう魔法少女は……ほとんど消されてる」

「え……!」

 ──魔法少女が、消される?

 現実味のない話が飛び出し、七海は困惑の表情を浮かべた。

「……七海も、覚えないか? 昨日まで普通に活躍してたのに、急にぱったり姿を見なくなった魔法少女のこと」

「あっ……」

 七海は思わず声を漏らした。

 世間では、魔法少女グッズなるものが定期的に売られていることがある。魔法少女をモチーフにしたキャラクター商品や写真集、コラボスイーツにステッカーなどなど。グッズ以外にも、SNSアカウントを運用している者もいるくらいだ。子供から大人まで、ファンの熱量は想像以上に大きい。

 しかし、そんな少女たちの活躍を、ぱたりと聞かなくなることが時々ある。

「グッズ展開が止まったり、姿を見たって声も消えて、運営もだんまりだ。……そういう時って大体〝そう〟なんだよ」

「そうって……」

「消えたんだよ。理由は──色々だけどな」

 二子澤がふっと視線を逸らす。

「でも。大抵は〝魔人〟絡み。アイツらが仕掛けてきたとき、力が及ばなかった魔法少女たちは──」

「……」

「いなくなる。時には、名前ごと消える。まるで最初から存在しなかったかのように」

「そ、そんな……!」

 七海は目を見開き、息を呑んだ。

「もちろん全部がそうってわけじゃない。でも、表向き〝引退〟とか〝負傷による活動休止〟なんて言われても、裏では誰も何も言わない。言えない。……公にすれば、ヤツらの行動が激化しかねない。そうなったら、私たちだけじゃ責任が取れないから」

「……」

 魔物による各地の被害が連日後を絶たないのは、周知の事実だ。魔物によって愛する家族を失い途方に暮れている人のニュース、痛ましい事件の数々。思い起こし、七海の胸がつっかえ、指先は震えていた。

 それに加え、魔法少女たちの失踪。心が、体が震えない理由はなかった。

 すると、これまで口を噤んできたベポリスが、声をあげる。

「魔人は、キミたち魔法少女の力を狙っているべポ」

「……! どうして……」

「簡単な話ベポ。その人智を超えた力を、利用しない手はないからベポ」

 その言葉は、七海だけでなく、六城と二子澤にも響いていた。

「魔人は、キミたちのような魔法少女としての器を持った少女たちを、こよなく欲しているベポ。それが畏敬か、愛か、憎しみかは、わからないけどね」

「……見てきたように言うね、アンタ」

「ボクはキミたち魔法少女の味方ベポ。それに……色んな事例を見てきたからね」

 べポリスはふいっと視線を逸らし、ふよふよ移動して、窓から見える景色を眺めた。

 これまで、どれほどの被害を見てきたのか。窓越しに反射するベポリスの目は、どこか寂しそうに見えた。

「消えた魔法少女たちの行方は……残念ながらボクにもわからないベポ。その奪った力を、何のために使っているのかも」

 ベポリスの一言で、一気に病室の空気が重たくなる。七海は、震え出す手を抑えるので必死だった。

 六城は、そんな七海の様子を見て、付け加えるように言った。

「だけど魔人を止めれば。魔物災害もなくなるかもしれない。消されてしまった魔法少女を見つけ出すことが出来るかもしれない……私たちは、それを信じてる」

「……、魔人を、止めれば…………」

 七海はしばし、考えた。

 ──もしも。

 引き起こされている魔物被害の全てが、その魔人というものによる計画的な犯行であったなら。

 魔法少女たちの失踪は、その彼らによってもたらされた、仕組まれた悲劇だったなら。

 それは食い止めることが出来る。

 魔法少女の活躍によって、全ての悲劇に終止符を打つことが出来る。

 六城たちの目は、そう信じてやまない顔をしていた。

 七海の沈黙をどう受け取ったか、六城は静かに息をつく。

「……焦って考えなくてもいい。そんな簡単に決められるようなことじゃ──」

「……ううん、大丈夫」

 七海は、遮った。始めから答えなど、きっと決まっていた。

「……その魔人っていうのは、悪いヤツなんだよね」

「ああ」

「少なくとも。いいヤツでないのは確か」

 二人は即答する。反応を見て、七海も、次に言う言葉を決めた。

「……うん。だったら止めなきゃね。私も……まだ怪我は治らないけど……」

 震えてくる手のひらを、拳に変える。


「絶対に、そんなヤツ許せない。私たちで、食い止めなきゃ」


 六城は、七海の決意の籠もった眼差しを見つめ、

「……。そう。そう言ってくれて、私も安心した」

 立ち上がる。そして七海に手を差し伸べた。温かく柔らかい手が七海に触れる。

「あなたの覚悟が聞きたかったの。誰のものでもない、あなた自身の、懸ける覚悟を」

「六城さん……」

「かー! カッコいいじゃん七海! うっし、あたしも!」

「わっ……!」

 そう言って二子澤も強引気味に七海の手を取った。

「誓いを立てるの。それと、これからチームとして、活動するためにね。今日来たのはそのため」

「あたしら今『魔法少女連合』って名前でやってんだ。……ってまだ二人だけどな」

「そっか……」

 二人が常に一緒に活動を共にしているのは、チームを組んでいたからだったのだと知り、それが少し微笑ましく、嬉しかった。

「うん、二人が一緒なら、私も頑張れそう……。私も、入っていいん……だよね」

「もちろん」

「大歓迎だ!」

 にこやかな二人の表情に頬を紅潮させつつも、

「うん! これから、よろしくねっ!」

 と、これまでにない笑みを振りまく。

 七海は、二人の優しくも温かい手の温もりが、じんわり染み込んでいくのを感じていた。

「……それとベポリス」

 二子澤が静かに口を開く。

「何ベポか?」

「ビビらせすぎだ、七海、泣きそうだったぞ」

「ぼ、ボクは事実を言っただけで……!」

「んー?」

「ど、どうどう、二子澤さん、落ち着いて……」

 少し語気の強い二子澤に怯えるベポリスと、そんな二人を宥める七海なのだった。


     ◇


 その決意の日から、約ひと月が経ち、七海は無事に退院する運びとなった。

 ある女医は七海にこう言っていた。

「にしても、あんな大怪我だったのにすごい回復力ねぇ、やっぱり若いからかしらぁ」

「あ、あはは……どうも……」

 絶対にそんな訳ない、しかしその理由など明かせる訳もなく、愛想笑いを浮かべることしか出来なかった。ちらと横目で、すっかり顔見知りになった看護士の顔を見る。やれやれと首を振り、こちらも苦笑いである。

(……ま、ちゃんと秘密は守るわよ。ナースにだって守秘義務ってもんがあるからね)

 耳打ちし、看護士は、

「って訳で、これからもお大事にね。七海さん」

 と七海に笑顔を向ける。

 そんな出来事があった数日後、彼女は学校に戻った。そして──。


「──七海さん。まずは私たちに謝ることがあるでしょう」

「え、えっと、一体何のことで……」

「〝シスター〟から聞いたぞ、また無茶をしてたってな」

「うっ……、……やっぱり話、行ってるよね……ごめんなさい」

 登校して早々、怒られた七海だった。しゅんと、すぐに罪を認めていた。まさか廊下でばったりでくわすなんて思わなかった。

「まったく。けど、まさか病院内で魔物が出現するなんてね。……しかも七海さん。あなたが無茶な変身までして民間人を助けるなんて、流石に想定外」

「はい、おっしゃる通りです……全部私が悪いです……」

「いやまぁ全部ってほどじゃないけど。助けられたのは事実だから、そこは、な?」

「だけど、そのせいで逆に心配も迷惑もかけたから……」

「だーもう、過ぎたことなんだし気にすんなってば!」

「私は気にするよ」

「おい八夜っ」

「シスターにも、今度ちゃんと謝らないとね……」

 そう。

 七海が入院している間、なんと病院内に魔物が入り込むという、最悪のアクシデントが、巻き起こっていたのである。



 病室の白い天井をぼんやり眺めながら、七海はぼーっとする。

 怪我の容態は、包帯の面積がかなり減り、自力で立てるほどには回復していた。しかしまだ、補助なしで歩くのは難しく病院内の手すりに掴まりながらの歩行で精一杯だった。

 ベッドに横になり、窓を見る。清々しいほど快晴で、思わず欠伸(あくび)が出てしまう。

「……暇だなぁ」

 退屈だ。動けるようになったとはいえ、積極的に動くことを許されている訳ではない。見舞い客でも来なければ誰かと話す機会もほとんどないし、とにかく暇を持て余していた。

「……」

 ふと、ある考えがよぎる。七海は、まとめてあった荷物の中からある物を取り出すと、

「……よし」

 と意を決し、病室をこっそり抜け出した。

 そそくさと、隠れながら多目的トイレへと駆け込み、鍵をかける。ここなら、広いし誰にもバレないだろうと、隠した物をゆっくりと開く。

 星形のペンダント。魔法少女の変身アイテム、レゾナストーンだ。

 そっと、胸に当て、祈る。

「……マジック。メタモルフォーゼ」

 ……しかし。

「あれ?」

 変身することは、叶わなかった。


「……何してるベポ」


「うわあっ⁉」

 突如、聞き慣れた声がして焦った七海は危うく、ペンダントを落としそうになる。振り向くと、確かにベポリスがそこにいた。

 困惑というより、怒りや恥ずかしさが勝って、

「……アンタ、それはない、流石にこれはないよ。ここトイレなんですけど⁉」

 顔を真っ赤にして怒り心頭の七海。

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