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【第二章 魔法少女の責任】3

「……雫九……、雫九……ッ! 無事で良かった……!」

「お、おかあさ、……痛いってば……」

「……! 当たり前でしょっ! こんな、こんな怪我して……心配したんだから……!」

 涙を浮かべながら、怒る。その痛みと、確かに感じる愛に、七海の目にまた涙が込み上げた。

「……、うん、ごめ……ごめん、なさい……!」

 七海も抱きしめ返す。包帯に包まれ覚束無い手でも、その体の温もりはしっかり感じられた。

 そんな母娘の姿を見ながら六城は微笑むと、すっかりぬいぐるみのように黙りこくったベポリスを抱える。

「……五火。今日はもう帰ろう。邪魔しちゃ悪い」

「そっ、そうだな! うっし!」

「……あら? お友達? ごめんなさい、私、気付かなくて……」

 そう言って七海の母が涙を拭い謝ると、

「ああいえ、あたしら、もう帰るとこだったんで! お邪魔しました!」

 そう元気に返した二子澤の顔は、少し泣いていたように見えた。

「行っちゃった……」

 しんと静まり返った病室で、母娘二人。抱き合いながら、言葉を交わした。

「……雫九、いいお友達を持ったわね……」

「……、……うん」

 まだ止まらぬ涙を、浮かべつつ。


     ◇


「……うん、そう。だからこの時、この公式を使えば……」

「お、おぉー……すごい! あたしでも解けたぞ!」

 二子澤のにかっとした笑みが、病室の殺風景な物悲しさを一気に明るくする。七海はそんな二子澤に微笑みを返した。

「ねぇ五火。私たち見舞い客だよね」

「ん? おー、遅かったな八夜ー」

 遅れてやってきた六城は、二子澤の態度にため息をついていた。

「お世話する側が逆にお世話になってどうするの」

「いやぁ、たはは……」

「え、えっとね、私が頼んだの……入院して授業が遅れてるから教えて欲しいって……。結果的に、何故か教えることになっちゃったけど」

 あれから定期的にお見舞いに来ることにしたようで、二子澤と六城はちょくちょくこの病室に遊びに来ていた。

 七海は、先に着いた二子澤に授業内容を聞いたのだが、さっぱりという顔を浮かべ、はてなマークが飛んでいたのである。「あたし、むずかしいことわかんない」とカタコトのように話していた辺り、彼女は勉強が不得意なようだ。

「それにしてもびっくりだよ。二人も私と同じ学校通ってるなんて」

 一度開いていたテキストを閉じ、七海から話しかける。

「それな! って言いたいけど、実はあたし七海のことちょっと知ってたんだよな」

「え、そうなの?」

「昼休み、いっつも体育館の裏行ってこそこそしてるだろ? あれ、意外と見られてんだぜ?」

「え」

「……気付かれてないと思ってた?」

 こくりと頷く。恥ずかしさから少し頬が紅潮する。

 実のところ七海は、昼休みでさえも一人の時間を作って、少しでも気を紛らわせていた。

 あの日の昼休みも、少し贅沢(ぜいたく)な気分を味わおうとメロンパンをひとりひっそり食べ、満足そうにしていたのである。

「っつっても、何してんのかなーって見てただけなんだけどさ。クラスも名前もわかんなかったし」

「どうせなら。ちゃんと話しかけてあげればよかったかもね」

「だな。っつー訳で、次からはあたしらと一緒に行動な? その方が楽しいし!」

「あー……」

 見られていた。その恥ずかしさというのもあるが、七海はそれ以上に、あの場所、あの時間になんだかんだ愛着を持っており、手放したくないという感情の方が上回っていた。

「……嫌か?」

「あ、いや、その、えっと……時々、なら、大丈夫……かも」

 選択を迫られ、七海は慌てて少し嘘を吐いた。愛想笑いもぎこちない。

「そっか! へへっ」

 にかっと笑う二子澤に社交辞令は通じない、と観念した七海だった。「まぁでも。無理しないでいいから」と六城の優しい一言が染みるようだった。

「……さて。話が一段落したところで、本題に入ろっか」

「っと、今日はその話しに来たんだったな」

「話……?」

「魔法少女のことだよ」

「……!」

 七海の表情が真剣な顔つきへと変わる。思えばあれ以来、魔法少女に関する話題をしていなかった。

「ベポリス。いるんでしょ、出てきなさい」

 すると、六城の声に反応したベポリスがベッドのそばから現れる。

「……いやぁ、八夜には隠し事出来ないベポね」

「え、いつの間に」

「二人が勉強に集中してる間、ずっと隠れてたベポ。でも全然気付かないから退屈してたベポ」

「言ってくれりゃいいのに」

「寝てたベポね」

「あそう……」

 暢気(のんき)なものである。

「こほん。話を戻すけど、まずは皆。これ、取り出してくれる?」

 そう言うと、六城は例のペンダントを取り出す。言われるがまま、七海もペンダントをそばに置いた鞄から取り出した。

「これ……だよね」

「そう。レゾナストーン。思いの力に呼応するって触れ込みのマジックアイテム」

「触れ込みじゃなくマジモンの、ベポ」

「これがあることで。私たちは魔法少女になれる。ここまではいいよね」

 頷く一同。無視されたベポリスは少し悲しそうだった。

「……レゾナストーンは、キミたちが魔法少女でいる証であり、その力の源ベポ。願えばいつでも、魔法少女になれるベポ」

「……ちなみに失くしちゃったらどうなるの?」

「心配には及ばないベポ。一度契約を交わしたレゾナストーンはどこにあっても、必ずキミたちの元へと辿り着くベポ!」

「……すっごい便利アイテムっぽいけど、呪いみたいで複雑……」

「実際。呪いみたいなものだよ」

「失礼なっ!」

 ベポリスは憤慨していた。飛び上がり、講釈を垂らし始める。

「レゾナストーンは魔法少女のためのアイテムベポ! 変身すればイメージ次第で飛行も能力向上も、魔法も使えて、言ってみれば奇跡の力を得たも同然ベポよ⁉」

「う、そう言われると、ちょっと魅力はあるかも……」

 奇跡の力と言われると弱い、と七海はたじろいだ。ベポリスは満足げである。

「ともかく。魔法少女になることで。私たちは魔物と戦う力を持つことが出来る。じゃあ七海さん、質問」

「え、は、はい!」

 急な質問につい背筋がぴんとなる。

「魔法少女の活動とはなんでしょう」

「え、えっと、魔物退治?」

「うん。魔物を倒して、あるいは魔物から皆を守るのが、私たちの役目。それはわかるよね。じゃあどうして。魔物は発生すると思う?」

「え……?」

 考えたこともなかった。七海は困惑するも、

「……自然発生?」

 と、今まで見てきた魔物被害の状況から推測した、一つの答えを出した。

 魔物は、ある日不意に登場する。時には朝方過ぎに、時には夜半に。時間や場所に限らず、あらゆる場面で自然発生的に現れ、人々に襲いかかっていた。また、魔物の姿はその時々で大きく異なり、小さな動物のような姿の魔物から、巨大生物──この間のゴーレムのような姿まで、千差万別である。

 テレビで流れるようなニュースでも、そのことは度々告知され、避難行動を促すメッセージがその都度流される。それが日常だった。

「半分正解」

 しかし六城の答えは、七海の考えを覆した。

「半分?」

「魔物が発生するのは。ごく自然なこと。今にだってこの病院に現れたっておかしくないくらいにはね」

「……まぁ、そうなったらめちゃくちゃヤバいけどな」

 笑えない冗談である。

「だけど。もう一つあるの、魔物が発生する条件が。それはね」

「それは……?」

 六城はもったいぶるように、渋るように、言葉を絞り出した。

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