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【第二章 魔法少女の責任】2

「……それで、リリィのこと……なんだけど」

 七海が気がかりになっていたのは、あの魔物──ひいては、最後に目撃したリリィのことについてだった。

 あの爆発にも似た痛烈な衝撃とハンマー。そして、ピンクのツインテール。間違えるはずもない。

「あー……それな? あの後、またすぐどっか行っちゃったんだよ。魔物の反応が近いとかなんとか」

「だから私たちが代わりにあなたを救護したの」

「……、……そっ、か……」

 顔を俯かせ、落ち込んだ様子を見せる七海。また、お礼言えなかったな……。

 そんな様子を見た六城は、口角を上げ薄く笑った。

「リリィからは。伝言を預かってる。『時間を稼いでくれてありがとう』だって」

「……!」

 リリィからの感謝というこれ以上ない感動に、七海は胸が熱くなる。

「あたしらもリリィと同じ気持ちだ。すぐに向かえなくて、ごめんな」

「え、いや、二子澤さんたちが謝るようなことじゃ……! 確かに、魔物が暴れてる間、ずっと不安だったけど、でもこうして今助かって……私こそ、ありがとうだよ……!」

 七海がそう言うと、無表情ながらも笑みを浮かべる六城。

「……だけど、結果的に皆に迷惑、かけたんじゃ……。今だって、私──」

 あの時、私に何が出来たというのか。魔物を倒しきれず、助けるはずが助けられ、今もこうして、二人の時間を取っていることに気付いて七海は目を伏せた。

「そんなことない」

 六城が七海の手を包むように握る。また俯きそうになる顔が自然と上がった。

「あなたがいてくれたおかげで、皆助かった。それは誇りに思っていい」

「あのデカいの相手に、一人でよく頑張ったよ! 凄いことだって!」

「そ、そう、なのかな。……私、ちゃんと、魔法少女、やれたのかな……何もかも、初めてすぎて、夢中だったから……」

「……ちょっと待って、……初めて?」

 二人の表情が硬くなったように感じた。

「え……うん。あの時、初めて魔法少女になって、怖かったけど……今の私に出来る精一杯を思って頑張ったっていうか……」

「……なるほど」

「……?」

 六城の顔に影が差したように見え、七海は困惑していた。

 と、そこへ。

「雫九~」

「ん?」

 そういえばこんなのもいたな、と、やってきた白い毛玉を見る。ベポリスだ。

「いやー元気になってよかっ──ベポ?」

 その時、ガシッと、六城がベポリスの頭を掴んで、

「ベストタイミング。ちょうどあなたに話があったの」

 冷静に、されど冷酷に、ベポリスを見つめる。目が全く笑っていない。

「な、何ベポか?」

「あなた。七海さんに何を吹き込んだの」

「ふ、吹き込んだだなんて、そんなこと。雫九は望んで魔法少女に、ベポね?」

 ベポリスが焦りを見せあたふたしていた。しかし掴まれたままでは動けない様子だ。

「また。魔法少女の素質だとかで、関係ない一般人を巻き込んだのかって聞いてるの」

「いやいや、雫九はちゃんと魔法少女の適性がうにゃにゃにゃにゃ⁉」

 顔をぐにーっと引っ張られる。わたわたと手を振るベポリスだが、(むな)しい抵抗だった。

「うん、まぁ、そうなるわな。七海、気にしなくていいぞ」

「え、うん……」

 逃げるように、二子澤は七海の方へ寄り、声をかける。

「す、少し話を聞いて、聞いてほしいベポ!」

「聞こうじゃない」

 六城はベポリスを責める手を緩める。

「ふー。まず一つ。ボクは魔法少女の適性を持つ者を見定める力があるベポ。レゾナストーンにも反応があったのが、雫九だった訳ベポ」

「うん。それで? どうして彼女はボロボロなの?」

「それは……最初魔法少女にならないかって誘ったベポね、でも一度断られちゃって、その後で魔物に襲われちゃったベポ……」

「だったら。彼女たちを逃がすのが先決。そう思わない?」

「それも、色々と事情があるベポ。雫九はあの時二上という子を守るために奮闘してたベポ。その時、隠していたレゾナストーンに大きな反応が──」

「そうだよ。いつの間にあんなの仕込んだの?」

 七海の制服に入っていた例のペンダント。おそらく仕込んだのはあの日出会った頃だろうと七海は考えるが、それにしたって、である。

「お前、いくら反応があるからって、違ったらどうするつもりだったんだよ……」

 二子澤も引いていた。

「いつもいつも。本人たちへの許可もなく勝手な行動で……!」

 今度はベポリスを、むぎゅっと挟み込む六城。

「ももももも! けど、今回ばかりは結果的にいい方に向かったベポよ! ま、まぁ雫九が生身で無茶したのは予想外だったベポが……」

 ベポリスの発言で、七海の方へ白刃(しらは)の矢がいく。

「……七海さん? 詳しく聞いてもいい?」

「あーえっと……、と、閉じ込められてた二上さんを助けたくて、必死だったていうか、その時に思いきり手も切っちゃったけど、だ、大丈夫! 問題ない……」

「七海さん」

「ご、ごめんなさい……」

 六城の真顔がおそろしく見え、愛想笑いも引っ込んだ七海だった。正直者な自分の性格が今だけは恨めしい。

「でも。そうだとして、それ以外のこの大怪我は? 何が原因?」

「それは、あの魔物の攻撃をまともに受けてしまったことがおそらく大きいとおもぶぶぶぶぶ⁉」

 これまで以上に真剣な顔で、ベポリスに詰め寄る六城。

「それはいつ⁉ 魔法少女になる前⁉ 後⁉」

「な、なった後ベポね! 安心してほしいベポ!」

「これだけの惨事になっといて安心もないけどな?」

 六城はほっと息をつき、安心したような表情を浮かべた。

「……七海さんたちが不本意に魔物に襲われた。それは理解した。だから七海さんは、魔法少女として戦った。それで、あなたは魔法少女について、どこまで説明したの?」

「説明、とまでは行かないベポが、少なくとも魔法の使い方については教えたつもりベポよ!」

「……つもり?」

「く、詳しいことは戦ってわかることも多いのと、一大事だから急に一気に詰め込むのも良くないと思ったベポ! 後、雫九が真っ先に飛び出して行ったのもあるベポよ……?」

 私のせいなの? と七海は首を傾げる。確かにあの時、勢いで魔法少女になって飛び出した。説明を受ける前に色々と突発的に行動した七海にも、悪いところはある。

「……そっか……ごめん……」

「いや、謝ってほしい訳じゃなかったベポ……ボクもちゃんと止めるべきだったベポ……」

 随分(ずいぶん)しおらしくなったベポリス。

「それから」

「まだあるベポ⁉」

「いくら適性があったとはいえ。怪我してた七海さんを魔法少女にしたのは何故? そんなに急を要するものだったの? 理由を言いなさい」

「そ、それは……」

「ベポリスー、正直に吐いた方がいいぞー? 八夜(やや)がしつこいの知ってるだろー?」

 少し面倒くさそうに二子澤が言う。

「だからボクは最初から正直にうにゃああああああ⁉」

「え、えーと、あの……」

 ちょっとだけ可哀(かわい)そうになってきた。困惑した様子の七海は声をかけるも、

「七海さん。気にしないで。これは通過儀礼みたいなもの」

「通過儀礼って……」

「全部コイツが悪い。魔法少女なんて宿命がなければ、七海さんが戦う必要もなかった」

 そう言って、ぐにぐにとするのを止める気配はなかった。相変わらず「うにゃあああ」と悲鳴をあげベポリスは抵抗している。

「うにゃ、ちが! うベ! ポ!」

「何が違うの」

 ぐにぐにするのをいったん止めて、対話モードに切り替わる。

「ぜぇ、ぜぇ。し、雫九は、皆を守るために、怪我を押してでも魔法少女になるって、決めたベポ! そうベポよね⁉」

 ベポリスが七海の方へ向き直り、同意を求めてくる。

「そうなのか?」

「う、うーん」

「違うみたいだけど」

「いや待って違わなにゃああああああ⁉」

 大変そう、と他人事のようにベポリスを見つめる七海。

「や、とー!」

 ふよふよと力任せに脱出し、ベポリスは飛び上がる。

「あ。逃げるな!」

「雫九~助けてベポー!」

「おっと」

 とすん、と七海の胸に飛び込む。柔らかすぎて痛みも感じない。

「この。七海さんを人質に……!」

「人質て」

「雫九、もう一度答えてほしいベポ! キミの思いを!」

「今ならまだ引き返せる。聞かせて」

「……あんまり七海を困らせんなよ? 二人とも」

 ……なんだかハーレム主人公にでもなった気分だ、と気を逸らせる世迷言を心で呟く。

 視線が集まってしまった気まずさで、ふと視線を逸らす。

「……恥ずかしいから、言わないっ」

「ちょ、雫九⁉」

「だって、あんな、公開告白みたいなの、何回も言える訳ないじゃん。無理だよ無理」

「……だってさ」

「さて」

「さて、じゃないベポ! しっ、雫九~!」

「……ふ、ふふっ」

 ベポリスの情けない悲鳴を聞きながら、七海は柔らかく笑った。

 と、何やら表が騒がしい。ドタドタと走る足音が響いてくる。

「……ん? なんだ?」

 バアン! とスライド式のドアが勢いよく音を立てた。

「……! 雫九っ!」

「……おかあ──ぐっ⁉」

 入ってきたのは、七海の母だった。言葉も聞かず抱きしめる。

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