【行間 ~遠い記憶~】
夢を見ていた。ずっと前のこと。
小さな頃から、人見知りで、同年代の子に遊ぼうと誘う勇気もなく、興味のある話にも入っていけなかった。
それが私、七海雫九だった。
このままじゃいけないとわかりつつ、あと一筋の勇気を振り絞れずにいた。
幼稚園にいた頃は、お父さんがよく「この子と遊んであげてくれる?」と一緒になって言ってくれ、それなりにお話し出来る子たちがいた。……深い仲になった子は、いなかったけれど。
小学校に上がった頃、クラス替えで皆が微笑ましそうに誰々ちゃんと一緒だー、誰々ちゃんの隣がよかったーなどと話し、一喜一憂しているのを横目に、一人、どこに座っても同じだと心を閉ざしてしまっていた。
友達は、その頃はもう一人もいなかった。
やっぱり、変われないんだ、と思った。
けれど、その時隣にいた少女の持ち物に、目が行った。
「……きらぴゅあ、マーメイド……」
きらきらぴゅあはーと、略してきらぴゅあ。当時流行っていた、女児向けの魔法バトルアニメ。その中の、マーメイドというキャラクターのアクリルチャームだった。
青い衣装が特徴的な、キリッとした立ち姿。私も、そのキャラが好きだったから、目に付いた。
「……知ってるの⁉」
と、その隣の席の少女が声をかけてくれた。不意に声に出していたことにも気付かず、それを眺めていた時だった。
「……! う、うん……少し、だけ……」
尻すぼみに声が小さくなる。緊張と恥ずかしさで目が見れない。
ぱあっとその子の顔が明るくなる。咄嗟に手が取られ、その手に何かが握られる。マーメイドのゆる2Dな、ラバーストラップだった。
「ね、これあげる! 一緒にお話ししよっ!」
何かの間違いかと思った。赤くなる顔を隠そうと、前髪に手を添えたことだけ、覚えてる。
嬉しかった。自分に声をかけてくれる人が、こんな近くにいたってことに。
ドキドキした。初めて出来た友達の、初めてのプレゼントが、堪えきれないほどに胸を打つことに。
けれど、思い出せない。
その子の名前、なんだっけ……。
お互い、ちゃんと自己紹介、したはずなのに。
「あ、ごめんね勝手に手握っちゃって。つい嬉しくなっちゃって。わたしね──」
見えた景色は、そこで途切れ。
あとに残ったのは、白い景色だけだった。




