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59話 急速収束そして休息

 少年の姿をした魔族と対峙していたナナとカバネルは、突如発生した激しい光に包み込まれた。

 何かを予感していたカバネルが展開した防御魔法の中にナナとジェイも囲まれている。


「す、すごい魔法だ」

「こ、これは魔法なんですか?」

「ええ、まぁ」


 この超常現象を前に魔法の仕業であると言い切ったカバネルにナナが疑問を口にしたが、回答は濁されてしまった。

 十秒以上しても攻撃性は感じられない。

 それでも魔族がこの中で攻撃を仕掛けてくる場合を考え防御魔法は展開したままだ。


「グウォォォォ!!」


 ドラゴンの悲痛な叫び声が聞こえてくる。


「これじゃあ、僕のドラゴンが死んじゃうよ。しょうがないなぁ。二人ともまたね」


 魔族の声が聞こえてきた。

 勿論ブラフの線も考慮して防御魔法は解かない。


「本当にどこかに行ってくれるんですかね」

「分からないな」

「そうですよね」


 二人で確認も取り油断しないように集中を高める。

 叫び続けていたドラゴンの声が聞こえなくなった。

 

「じゃあ――ね――」


 頭上から魔族の声が聞こえてきた。

 その声がどんどん遠ざかっていくのが分かる。

 一言でそれが感じ取れるのだ。かなりのスピードだということが分析できる。


 光が和らいでゆく。

 目を慣らしながら、状況確認を行う。

 辺りには魔族の姿もドラゴンの姿も魔物の姿すらも確認できなかった。


 エイブラムスの騎士団、魔法師団にはこの光による被害者は見当たらない。

 城壁も影響を受けていなかった。

 本当にただの光なんだ。

 ナナはそう思う。

 魔法と言ったカバネルさんの言葉が少し気がかりなのは隠しておくことにした。


「なんか見晴らしが良い?」


 ナナが違和感を口にする。

 いわれてみればというようにカバネルとジェイが地平線に目を向けた。

 そこに自分たちの知っている暗部の荒野の姿はなかった。

 何もない荒野が西に傾く太陽に照らされている。


「――あの影は?」


 カバネルが何かを見つけたようだ。

 ナナもその影とやらを探す。


 その影は見覚えのあるものだった。

 砂埃を上げながらこちらに向かってくる青年の影はしだいに大きくなっていき、その姿は直ぐに確認できた。


「ショウだ!」


 ナナが叫んだ。

 今すぐ駆け寄りたいところだが、すでに体は悲鳴を上げている。しばらくは動けそうにない。


「大丈夫でしたか――?」


 ショウの声が聞こえるところまでやってきた。


「だいじょぶ――!」


「よかった――!」


 ナナはショウの背中に背負われている少女に気がついた。

 動けないので、ショウがこちらにやってくるのを待つ。



 ショウがやってきた。

 カバネルも背負われている少女に気が付いている様子だ。


「ショウさん。そちらは――」

「おそらくご想像の通りかと。疲れていそうなのでとりあえず街に戻りましょう」


 ショウの提案は断られることなく、一同は支部に戻ることにした。



◇ ◇ ◇



 ナンティファストに向かっていた僕は途中でナナと合流した。ケイさんとジェイも一緒だ。

 その後、街に戻った僕たちは支部と呼ばれる施設の医務室に移動した。


 ナナは見た目以上に消耗が激しいらしく。ベッドの上で絶対安静だという。

 今は医務室のベッドで熟睡中だ。

 その隣のベッドにはネルが眠っている。こちらもナナと同じようなものだ。


 僕たちは今その医務室に集まっている。

 僕は今からケイさんに事の経緯を話さなければいけない。

 ケイさんが上に報告するためにも必要なことだ。

 

「ではいくつか質問をしてもよろしいですか?」

「そんなにかしこまらなくても、ケイさんに隠し事はしませんよ」

「そうですね。少し根を詰めすぎていました」

「いや、無理もないと思います」


 僕は自分が体験したことをケイさんにすべて話した。

 一部、自分でも整理しきれていない個所もあったが、ケイさんは口を出さずに僕の話に最後まで傾聴してくれた。

 

 白昼夢のことには言及していない。

 ただの夢で見たことを共有しても、返って場を混乱させるだけだからだ。

 気になるのは事実だが、いまするべき話ではないと僕は判断した。


 一通り話をして、荒野の調査や王家への対応はケイさん騎士の方々がやってくれるという事になった。


「僕のやることが無くなっちゃいましたね。ありがとうございます」

「いえ。暗部の荒野の浄化、ドラゴンと魔族を撃退。そして、ネル王女の救出。どれか一つでも表彰に値する働きです。三つ目に関しては単体であったとしても表彰だけでは済まないでしょう」

「そうですかね。どれもネル……王女のお陰ですよ」

「それもそうですね。ですが、このままだとショウさんには爵位が与えられてもおかしくないですね」

「爵位!」


 大声と共にショウの顔が曇り始める。

 それを見てケイはニコッと笑った。


「あまり嬉しくないようですね」

「まぁ、その。色々大変そうですし」

「確かに私の知る貴族の方々は、王家の方を含めてもれなく大変そうです」

「そうですよね……」

「安心してください。ショウさんの自由が奪われないように、少し便宜を図っておきますから。なにか欲しいものはありますか?」

「そうですね――」


 ショウはお構いなしに、本気で欲しいものを考え始める。

 中々決まらない様子で、どんどん時間が進んでいる。

 ケイが「また後で」と声をかけようとしたとき。


「あに……うえ?」


 ネルが目を覚ました。


「ネル様!」


 目を覚ましたネルにケイさんよりも早く駆け寄ったのは、ナナと共にここを訪れたときに給仕をしていたメイドだった。


「セリア。どうしてここに?」


 セリアと呼ばれたメイドは涙が止まらない様子で、言葉も上手く発せていない。

 そんな彼女の手をネルは優しく握った。


「ネルはだいじょうぶだよ?」


 やせ我慢にも程があるというものだ。

 ネルは瞳こそ生気にあふれているが、血色が明らかに悪い。

 心配させまいと起き上がろうとしたネルには、案の定ドクターストップがかかった。

 それでもセリアはほっとした表情を見せている。

 この数時間。いや数日の間気張り続けていたこともあり、セリアは全身から気が抜けるように椅子に座り込んでしまった。


 ケイさんによると彼女は王城の護衛兼メイドで、ネル王女とギル王子の担当らしい。

 今回の移動に同行しなかったのは、城に残るギル王子を護るためだったという事だ。

 予想通り彼女も相当の手練れらしく。

 仮に彼女が同行していればネル王女の誘拐を防げた可能性は跳ね上がっていただろうとケイさんは言う。

 

 その言葉を耳にしたネルが、ベッドの上で頭だけを縦に動かしているのが見えた。

 ネルとしても相当な信頼を置いているようだ。

 それだけでこのセリアというメイドの能力の高さがわかる。

 

 そんな話をしていると、もう一人の眠れる少女が目を覚ました。


「――あれ? ここ、どこ……?」

「お嬢。ここは支部の医務室ですよ。絶対安静とのことなので無茶はしないでください」

「ケガしてないのに?」

「どうせ無茶したんだろ? あと、ベッドに寝かされるまで寝てなかったじゃねーか。ここがどこかは分かるだろ」

「ショウ……う、うるさい」


 僕の発言に返ってきたツッコミは何処か弱々しく感じたが、何故か自然と笑みがこぼれてしまった。

 

 良かった。

 

 ただそう思った。


「それで、ショウは何してたの?」

「また説明すんのかよ。えっと――」


 僕は今さっきケイさんにした説明と同じものをナナに向けて話した。

 途中でネルの横槍が入り所々話が盛られているが、概ね合っているので訂正はいらないだろう。


「――それでね。ネルをおんぶしてくれたの!」

「そ、そうだったんですね」


 ネルの勢いにあのナナが少し引いている。

 僕からしてみればどちらも変わらないように思ええる。

 そう思うと案外この二人は似ているのかもしれない。


「どうしました?」

「なに?」


 二人を見比べていたら勘づかれてしまったようだ。

 これ以上は危険そうだからやめておこう。


ゴンゴン。


 僕らが完全に緩みきっていた時、医務室の扉がノックされた。

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