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52 単騎突撃

 建物を出た後、僕はナナに向かってジェイの店に戻るように言った。

 何故だと理由を問われたので、ジェイはさっきのことを把握していたんじゃないかと伝えた。

 そうしたら案の定「待ってろよ! ジェイ!」と言って走り出した。

 扱いやすいというか、利用されやすいというか。

 ナナにはいろいろと気を付けて欲しいと思った。


 一人になれた僕は城壁を登って王都と反対の方角を見つめる。

 目線の先には見るからに空気の悪いそうな空が広がっていた。

 その空の下に大きな山は見当たらない。

 かなり遠くに何か見える気もするが、霞んでいてよく見えない。


 僕がはっきりと見えているのは、あの石造りの塔までだ。

 僕は視力が良い。

 これは僕の昔からのプチ自慢だ。

 曇り空の下で汚い霧に覆われている塔を見つめる。


「凄く嫌な雰囲気だ」

 

 思わずそう口にしていた。

 同時に、僕はあそこに行く必要がある。

 何故かそう思った。

 

『……れ……、た……け……』


 やばい。

 幻聴が聞こえ始めた。

 ついに僕の頭も壊れてしまったか……。

 とりあえず、ジェイの店に。


『だ……か、たす……て』


 さすがに足を止めてしまった。

 声が聞こえる。

 聞こえてくる方向。というか場所まで把握できる。

 でもなぜ聞こえる。耳が良いでは説明がつかない距離だ。

 塔を見据えながら僕は思案する。

 それでも今の僕には何もすることはできない。

 いや、まだ幻聴の線は残っているが。

 

 僕は我武者羅に目を絞る。

 

 さらに力を籠める。


 窓が見える。


 ショウにはその事実だけが理解できている。


 数十キロ先に見える建物の窓から中の様子が見える。

 そこには記憶にある女の子がいた。

 ネル王女だ。

 名前は聞いていないが、それ以外ありえないとショウは考えた。

 

「やっぱりあの女の子がネル王女だったんだ」


 ショウが呟く。

 しかし、城壁に登っているひとなどおらず、完全な独り言となった。


「――っ!? た、たすけにいかないと!」


 その瞬間、城壁の上にいたはずのショウの姿が消えた。

 滑り落ちたわけではない。

 それであれば誰かに見つかっていただろう。

 ショウがいなくなったことに気づいた者はいなかった。

 滑り落ちたのであれば、ナナやケイに気づいてもらえてたかもしれない。


 ◇  ◇ ◇


 私の名前はネル・エイブラムス。

 ネルは、絶望的な状況にいました。

 お仕事を頑張ろうと気張っていた矢先、何者かの襲撃を受けてなすすべなく捕まってしまいました。

 相手は間違いなく魔族――だとおもいます。

 ネルはまだお勉強の途中ですし、そもそも魔族についてのお話は少ないため確証は持てません。

 ですが、わたくしが信頼していた護衛の方々が倒されてしまったのが事実です。


 あの方たちは国の中でも五本指に入るほどの実力派部隊だと父上から聞いています。

 そんな方々が、あんなに簡単に……。

 いけません!

 思い出しただけで心が折れてしまいそうです。

 

 いまネルがいるのは魔族の施設です。

 この建物に連れ込まれる直前に目を覚ましたネルは、悟られないよう眠ったふりをしながら出来るだけ情報を集めました。

 得られた情報は多くありませんでしたが、何も得られなかった訳ではありません。


 まず分かったのは、この建物が魔王軍北方基地と呼ばれていることです。

 さらに微かに見えたウトガル山脈の大きさと形からして、王都から見たナンティファスト方面であることが分かりました。

 でも、ネルがこの情報を得たところで何の役にも立ちません。

 ネル自身が捕まっているのですから当然です。


 その後、看守と思われる魔族がご飯を持ってきました。

 正直、ご飯と呼べる代物ではありませんでした。

 それにこの芋の見た目をした食べ物に毒が入っている可能性もあります。

 ネルはご飯を食べないことに決めました。


「おい! ガキ! とっとと食えよ。オメェは戦争の種だからよぉ。困るんだよなぁ。死なれると」


 ネルはこの牢に入れられてからずっとこの叱責を受けています。

 もう何も感じません。

 「死なせてはいけい」という思惑があるからか、暴力は振るわれていません。

 そしてついさっき、この魔族の名前が分かりました。

 この魔族の名前はヴェド。

 手下のような魔族が来て、そう呼んでいました。

 ネルはその様子を見てヴェドがこの基地の頭だと理解しました。

 この人と交渉しても出してくれないとは思いますが、少しでも情報が欲しいと思ったネルはヴェドに話しかける事を決心しました。


 その結果がコレです。

 縄で口を縛られてしまいました。

 食べ物を食べたいときは外してやると言われましたが、コレを食べる気はないので一生このままかもしれません。

 魔法も使えません。

 イメージを組み立てると同時にそのイメージが崩れていく不思議な感覚に襲われ、どんな魔法も使えませんでした。

 こうなったらあとは誰かの助けを待つしかありません。

 

 しかし、そうなったら王国は大変なことになるでしょう。

 直接的に言うと魔族との戦争は避けられないと思います。

 ヴェドはネルが戦争のきっかけだと言っていました。

 ここまで聞いてわからない程、ネルの頭は悪くありません。

 魔族の計画はきっとネルを捕まえて人間たちに魔王軍の領地を攻めさせ、それを口実に戦争を始める事でしょう。

 勿論、先に手を出したのが魔族だということはすぐに周知されるでしょう。

 ですが戦争が始まってしまえば関係ありません。

 

 しかし腑に落ちません。

 魔族なのですから他国からの評価など、どうでも良いはずです。

 もしかして、魔族にもいくつか国があるのでしょうか。

 それならば納得です。

 もしくはこの基地、つまりヴェドの独断という線です。

 こればかりは終わってみないと分かりそうにありません。

 終わった時にネルが生きていればですけど。


 いきなりですが、ネルは天眼を持っています。

 姉様のように有用な物ではありませんが、天眼を持っていること自体が凄いことなのは理解しているつもりです。


 ネルの天眼の能力は相手との関係性が解ることです。

 例えば、ネルが姉様を見ると「私の実姉」という情報が頭に流れてきます。

 ですが何でもわかるわけではありません。

 最初にヴェドを見たときは「魔族、敵」という情報しかわかりませんでした。

 しかし、私の天眼にはもう一つの機能があります。

 それは複数の人を見るとその人たちの間柄が分かることです。

 この能力によってヴェドが「魔王軍北方基地の司令官」であることがわかりました。


 おっと、どうやら動きがあるようです。

 ヴェドが席を立ちました。

 

「おい! 入ってこい!」


 ヴェドが命令すると、ドアから別の魔族がやってきました。

 彼女の名前は「ケジィ」北方基地の財務を任されている、凄腕の魔法使い? だそうです。

 ヴェドはネルの監視をケジィに任せ、部屋を出ていってしまいました。

 ケジィは怯えています。

 何故でしょう。怯えたいのはネルの方です。

 

 ケジィを観察することで、わかったことがあります。

 彼女が得意な魔法は精神干渉系の魔法なのかもしれません。

 何故そう思ったかと聞かれると理由は簡単です。

 彼女が精神干渉系魔法に関するエイブラムス王国の本を読んでいたからです。

 ネルでも読んだことのある有名な本です。その本には精神干渉系魔法の危険性と有用性が掛かれていたと記憶しています。

 さらにケジィの膝の上には人語の教科書が置いてあります。

 ここまでしてその本を読みたいのであれば、彼女が精神干渉系魔法の使い手であることはかなり濃厚だと思います。


 精神干渉系魔法は我が国でも禁止されている大変危険な魔法です。

 彼女には下手に手出ししない方が良いでしょう。

 まぁ、できないのですけど。

 

 でも助けを求めることくらいはします。

 ネルも死にたいわけじゃありませんから。


『誰かたすけて』


 ネルは安直にそう願いました。

 誰かに届いているかもしれませんから。

 当然、無策でこうしているわけではありません。

 少し前に習ったことを活かしてみました。


 零魔法の一つに「テレパシー」という魔法があります。

 この魔法はただの魔力に思念を乗せて誰かに飛ばすことが出来る魔法です。

 この際の思念は誰でも受け取れるわけではなく、同じく零魔法である「キャッチ」と呼ばれる魔法を行使中の人しか受け取れません。

 キャッチと言う魔法は視覚、聴覚、味覚などの五感に加えて、魔力感知力を底上げする魔法です。

 この二つの魔法を組み合わせることで、遠く離れた人とも連絡が取れるのです。

 ですが、その魔法を扱えるのは魔法師団のトップの方々しか扱えない高難易度の魔法です。

 姉上でも習得出来ていません。

 ですが私には才能がありました。

 とはいえ才能があるのはテレパシーだけで、これも完璧ではありません。


 幸運です。魔法が使えなかったはずのこの場所で初めて手ごたえがありました。

 ネルはテレパシーを再度、集中して行使しました。


『誰か、助けて!』

「ダメッ!」


 ケシィが叫びました。

 勘づかれたようです。

 成功するはずもないのに、無謀な挑戦でした。

 気付かれてしまっては仕方がありません。

 ケシィが慌ててこちらに向かってきています。

 本当に絶望的な状況です。


 ドスッ。


「え」

「え」


 ネルとケシィは順番に声を漏らしました。

 何故ならネルとケシィの間に人が現れたからです。

 入室してきたわけではありません。

 一瞬で現れたのです。

 ネルはこの人に見覚えがあります。


「……ん?」

 

 その男性は困惑していましたが、周囲を見渡すなりネルを守るようにしてケシィに正対しました。

 「カッコイイ」ネルはそう思いました。

 そうです。

 ネルの“兄上”はカッコイイのです。

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