51 アポなし
ナナについていくと明らかにこの街の主要施設だとわかる建造物に辿り着いた。
外見はネカトにあった警備隊の施設に似ている。
聞いたところによると、この街に警備隊はいないらしい。
この町に住む人の殆どが騎士団や魔法師団、もしくはそれらの関係者だと聞いたがそれも関係あるのだろうか。
だとしても警備隊は必要だと思う。
これは僕の予想だが、おそらくこの街に警備隊がいないのは実力が足りないからなのではないだろうか。
この街はこの国で最も危険な街と言って良いだろう。勿論それは治安的な意味ではない。立地的な意味だ。
この街の持つ役割は魔物から国を守ることだ。
そして、魔物の襲撃の可能性があるということは魔族の襲撃も考えられる。
襲撃に備えるためには指示系統をなるべく絞りたいのであろう。三つの組織が即座に連携をとるというのは極めて難しいことだ。
それに警備隊は騎士団に比べて戦力が低いように思える。
そう考えれば騎士団がいないのも納得だ。
余談だが、学校で魔族についての情報があまり取り扱われない。
教科書に載っていたことは「出会ったら逃げろ」だけだった。その文言を呼んだのはあの事件の後だったので、しっかりと授業でも触れてもらいたいと思ったものだ。
もしあの魔族たちがもっと強かったらどう責任を取るつもりだったんだ、とフェリ―ネ先生に言いかけたことがある。
比較的新しい出来事を思い返している僕だが、しっかりとナナに追従している。
僕たちはすでに建物内に入っている。
ロビーは一番上の天井まで吹き抜けになっていて、受付が右と左に分かれている。
壁に掛かっている旗を見る限り、右が騎士団、左が魔法師団の受付になっていることが分かる。
当然、騎士団の受付に行くと思っていたのだがナナが取った行動は違った。
なんとカウンターに寄らず勝手に奥へと進みだしたのだ。
ここまでアポなしでも会えるような人物なのだろうか。
「ケイ・カバネル」いったいどんなひ。
「あ!?」
いけない。大きな声を出してしまった。
「な、なに?」
ナナが驚きと羞恥と少しの怒りの混じった表情でこちらから距離を取りつつ見つめてくる。
でもそれは今どうでも良い。
僕は本当に馬鹿だ。
「ごめん、ナナ」
「だから、なに?」
「僕さ。ケイさんに防御魔法を教わったことがあるんだよね」
「うん。前に聞いたけど、それがどうしたの?」
そう。
僕が知りたかった人物、ケイ・カバネルさんはあのケイ・カバネルさんだ。
僕は人覚えが良い方だと思っていたがこの場を借りて訂正させてほしい。
その前に恩人の名を忘れてしまうなど、到底許されることではない。
ショウは自分の不甲斐なさを痛感し、その場に蹲ってしまった。
そこに一人の騎士が通りかかる。
ケイ・カバネルだ。
「おや? ナナさんと――ショウさん?」
ショウは、自分が忘れていた相手が自らの事を覚えているという事実に完全にオーバーキル状態になってしまった。
その後、場所は会議室に移されたのだが。
「すいませんでしたぁぁぁ――!!」
ショウの謝罪は会議室を貫通して、会議室があるフロア全体まで響き渡る。
「や、止めてくださいショウさん」
「いいえ。それと、こんな僕にさん付けは止めていただけないでしょうか。あの――なんか、ゴミでもクズでも好きなように呼んでください」
「ねぇ、ショウ。やめてよ本当に。恥ずかしい」
「い、一回落ち着きましょう。あ、暖かい飲み物でも――」
僕は正気を取り戻した。
そしてまた反省した。
僕は本当にやらかしたと自覚すると頭の捩子が外れてしまうしまうクセがある。
これは子供のころ、村の人に失礼なことをしてしまった際にじいちゃんにボコボコにされたことが原因である。
じいちゃんからは後日、やり過ぎだったと謝罪されたが僕は何もそう思っていない。
むしろ感謝している。
でもそれ以来僕が失敗や過ちに関して過剰になっているのもまた事実だ。
最近は心の底からやってしまったと思うことが無かったこともあり、溜まっていたものが先程のような態度に出てしまった。
それでも、ケイさんは普通に対応してくれた。
それどころか気を使ってもらった。
ケイさんが親切で、寛容な方で本当に良かった。
僕の、この人に協力したいという気持ちが一層高まった。
メイド――護衛?
メイド服を着ているが戦闘能力の高さが隠しきれていない女性が紅茶を運んできてくれた。
その紅茶を飲むことで本当に本来の落ち着きを取り戻せた僕はとりあえずナナとケイさんの会話を静観することにする。
ナナは溜息をついた後に、紅茶の入ったカップを置いて姿勢を正した。
これを見たケイさんの目つきも真剣なものに変わる。
僕はというと、この部屋に入って椅子に座ってからずっと姿勢を正している。
「いきなりですがカバネルさん」
「何でしょうか」
ケイさんの声は先程までとは比較できないほど冷たい。
しかし動揺や緊張は見えず、この後の発言を考えているかのような雰囲気だ。
ナナもそれには気づいている。
それでも譲る気はさらさらないようだ。
ナナが辺りを確認した。
それもそうだ、僕の情報源になったあの人たちのように無暗に喋って良い内容ではない。
そしてこの部屋に防音結界などは見当たらない。
ナナが迷っているようなので僕は急いで防音結界を貼る。
「おお。これは素晴らしい結界ですね」
「いえいえ。このくらいは」
ケイさんに褒められたので、お礼をしておく。
その間に覚悟を決めたナナがお願いを口にする。
「カバネルさん。ボクたちにネル王女の捜索を手伝わせてください」
「そう言われると思っていましたよ。といってもダリスさんから連絡が届いていたのですが」
「――パパ、から?」
虚を突かれたナナが、どうにか口を動かし言葉を返す。
ケイさんの雰囲気の理由はこれか。
置手紙をしたようだけど。情報の伝達速度は凄まじいな。
僕は貴族や騎士団の持つ情報伝達システムに感心した。
ナナに合わせる為に少しスピードを落としたし、情報をバケツリレーすればダリスさんの伝言が僕らよりも速く着くことは考えられる。
ナナが急いで思案する間に、紅茶を飲み終えたケイさんが僕らを待たずに会話を進める。
「構いませんよ。こちらとしても人手が増えるのは大歓迎ですから。ああ、ただしあまり広げないでくださいね。矛盾しているのは分かっているのですが、事が事ですから……。それと、居場所の詳細が分かっても勝手に行動しないでください」
「どうしてですか?」
ナナの代わりに僕が質問する。
「それは相手がネル王女を餌にしている可能性があるからです」
かなりドストレートな答えだった。
でもそれは少しおかしいい。
「ですがケイさん。普通なら逆じゃないですか? ネル王女は餌と言うより獲物かな、と」
「そうですね。ですがその得物になるような人を餌に出来れば、より大きな獲物が釣れるのですよ」
「たしかにそうですね」
うん。納得だ。
でもここでいう大きな獲物とは誰の事だろう。
普通に考えれば国王様かな。
ネル王女の御父さんだし、王様となればその重要度は言わずもがなだ。
そうなれば国が動くことになる。
「残念ながら、相手の狙いについてはまだ何も分かっていません。これはあくまで可能性ですが、急がなければ王女様が殺されてしまうかもしれません」
「「……」」
「ですが、ネル王女には利用価値がありますから。その可能性は低いと考えています。そこまで頭の回る相手だと良いのですが」
この人はかなりハッキリとものを言うな。
この部屋には僕らしかおらず、僕の防音結界があるとしても、もう少し発言には気を付けた方が良いのではないかと僕は思う。
あと、僕の防音結界を信用しすぎだ。
僕は制止の意味も込めて結界に流している魔力を高める。
「ーーん? おっと、これはすみません。すこし羽目を外しすぎましたね」
伝わったようで何よりだ。
ナナはすでに落ち着いているが僕がケイさんとの会話を横取りしたことが気に食わないのか、機嫌が悪いように感じる。
「お話は以上ですか?」
「はい。それで、ネル王女の居場所に見当はついているのでしょうか」
「……そうですねぇ。可能性が高そうなのは魔物の生息域ですかね」
「魔物、ですか」
おお、ナナ。上手いじゃないか。
仮にこの情報が事実ならかなり厄介だ。
魔族と魔物の総量や具体的な情報については何一つ資料がない。
もちろん僕らが閲覧できる物の中にはの話だが。
それでも、奴らが絡むだけでこの事件の解決はかなり難しいものになる。
二つの情報源から同じような情報が出た、おそらく確定だろう。
二人の情報源が同じで、その人が間違っていると信じたいな。
ネル王女が行方不明になった場所はーーああ、そうだ。これを聞いておかないと。
「あの、ケイさん。僕たちはネル様が行方不明になったという情報しか知らないのですが、誘拐されたことは確実なんですか?」
「はい。そう自分は考えています。王女を護衛していた部隊の壊滅報告を受けていますから」
これには驚いた。
王女様の護衛を任されるような人たちが弱いはずがない。
そしてネル王女が行方不明――襲われた場所は他国との国境からはかなり離れている。
さらに近くにはこの街がある。
他国の人間、もしくは反乱を企てる者達が、誰にも見つからずに護衛たちを倒し、ネル王女を攫うという行為は難易度が高すぎる上にリスクもでかい。
しかし、アイツらの隠密性と戦闘能力があれば別だ。
遠くから見てわかることはないと思うけど、あとで魔王軍の支配地域とやらを眺めてみよう。
「そういうことでしたか。ありがとうございます。ナナ、もういいの?」
「うん」
速いし冷たいな。一度、ジェイの所にかえしたい。
話し合いを終えて部屋を出た僕とナナはそのまま建物から出ようとした。
「ショウさん!」
「なんでしょうか」
後ろからケイさんに呼び止められる。
その表情からは何も読み取れない。
この表現は適切ではないかもしれないが、ケイさんの表情からはすべてが溢れ出ている。
包み隠す気はなく、自分の感じたままの感情を浮かべるケイさんの姿がそこにはあった。
でもその理由とそれがどのような感情なのか、僕には解らなかった。
「――む、無理はしないでくださいね。お2人とも」
「「はい!!」」
僕とナナは元気に返事をして建物を出た。




