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50 勘

 この人は本当に凄い人だ。

 僕は抱えているナナを見てそう思った。

 普通に考えればナナが王女様を探しに行く必要はない。

 それなのにナナは迷わず行動した。その行動力と勇気には脱帽だ。

 そんなナナの役に立てるように、少しでも速く進まなければいけない。


 ナナの案内通りに歩みを進めるとネカトで見かけた城壁が見えてきた。

 しかしその城壁はネカトのものよりも明らかに厚く、高い。僕はその理由を知っている。

 この街「防衛都市ナンティファスト」はこの国で最も魔物の生息域に近い町であり、緊急時には防衛の最前線を担う街だという。

 これは学校で習った知識だ。

 この問題の配点が高かったお陰で助かった記憶ある。本当に感謝だ。

 

 到着するなりナンティファストに入ろうと検問所に移動した僕たちの前には人溜まりが出来ていた。

 人溜まりといっても騒がしい訳ではない。

 その中の人たちからは余裕すらみえる。


「何かあったか?」

「魔物の大群か?」


 この様に状況を分析するような声も聞こえてくる程だ。

 魔物の大群であれば大騒ぎしても良いと思うのだが、この街ではそれが日常なのだろうか。

 そんな人々を横目にナナはどんどん進んでゆく。


「おい、いいのか? 並ばなくても」

「ああ、大丈夫。ここは任せて」


 ナナの態度は自信に満ち溢れているように見えるが、何故か不安が時折顔を覗かせている。

 強がっているのか?

 僕としては不安だが、僕に代案は無いのでナナに任せようと思う。

 ナナは門の前に立つ衛兵に躊躇いなく声をかける。


「お久しぶりです」


 ナナが声をかけたのは比較的若そうな衛兵だ。

 他にも偉そうな衛兵は数名見えるのにどういうことだろうか。

 その若い衛兵はナナに気づくと素早く姿勢を正した。


「お久しぶりです。ナナお嬢様」

「だ、だから。その呼び方止めてください」

「いえ、そういう訳には……」


 僕は若い衛兵と目があったので軽く会釈をした。

 衛兵の表情は変わらない。


「それで、ナナ様がこんなところに何の御用でしょうか」


 衛兵は再びナナに向き直し質問をした。

 用件を尋ねられたナナは懐にしまっていた封筒らしきものを取り出した。

 その封筒にはナナの実家、デカルト家の紋章が入っている。

 ナナはその紋章を衛兵にだけ見えるように封筒を出すと、周りに目をやる“動作”をして直ぐにしまった。

 

「そちらは?」

「父から預かってきました。カバネルさんに直接渡せと」

「なるほど……わかりました」


 どうやら通れるらしい。

 ナナの奴、勝手に抜け出したんじゃなかったのか?

 僕が気を抜いていると、衛兵の矢印がこちらを向く。


「ナナ様。そちらの方は?」

「ごめんね。紹介するの忘れてた。でも、騒ぎになるからなぁ」


 すこし思案したナナが「静かにしてね」と前置きをして衛兵に耳打ちした。

 衛兵は目を見開き、体を強張らせる。

 一体、ナナはどんな脅しをしたのだろうか。可哀想な衛兵さんだ。

 その後衛兵にどうぞと案内され、難なく持ちに入ることが出来た。

 人溜まりの方も少しずつ進んでいるようようだが、僕らが来た時とほとんど変わらない様子だ。


「ナナ。さっきの封筒、いつ預かったんだ?」

「いや、別に預かってないよ? 中身ただの白紙だし」

「そ、そうか」


 ナナは使える物は使うタイプだということが分かった。


「ちなみに、耳打ちした内容は君の御祖父さんのことで、さっきの衛兵は前に家の領にいた人」


 この人は出し惜しみと言う言葉を知らなそうだ。

 しかし、僕にはまだ気になることがある。

 先ほどナナが口にした「カバネル」という人物は誰だろうか。

 誰であったとしても、そんな簡単に名前を出してよい人物なのだろうか。

 ダリスさんが直接手紙を書いてもおかしくない人となれば、それなりに身分の高い人だろう。

 僕はそこが気にかかった。


 街に入ってからもナナは迷うことなく歩みを進める。僕はそれについていくだけ。

 少し脇道に入ったあたりでナナが足を止めた。

 

「ここ。入るよ」


 ナナは僕に一声かけて半地下になっている建物のドアまで階段を下った。

 ドアの前には看板が掛かっている。

 僕は警戒せずにはいられなかった。

 なぜならその看板には大きく「一見さんお断り」の文字が書いてあったからだ。

 怪しいとは思いつつ、僕はナナを信じることにした。

 ナナはこう見えて臆病だ――と僕は思う。だから考えなしにこの店に入るわけがない。

 万が一に備えて、僕は神経を張り巡らせる。


「ジェイ、いる?」


 ナナはノックもせずにドアを押し、店中に呼びかけながら入店した。


 中は意外にも綺麗だった。

 半地下が故に明るさこそないが、逆にそれがこの店のお洒落な雰囲気を作り出しているのだろう。

 そう評価してみたが、僕には経験が少なすぎるためこの店がお洒落であるかどうかもわからない。多分みんなお洒落だと評価すると思う。


 僕が店内を見渡していると奥からスキンヘッドの大柄な男が出てきた。

 素晴らしい筋肉だ。体つきからも普段の鍛錬が伺える。

 その男は僕と目が合うなり、そのまま真っすぐ進んできた。

 男が立ち止まった瞬間、僕は右足を前に出した。

 これでこの戦いは僕の勝ちだ。

 僕はアイコンタクトで男にそう伝える。


「――参ったぜ! お嬢、こいつ。いえ、このお方はすげえですな。こんな方には会ったこともありませんよ。いつも知らねえ顔の奴には一発お見舞いしてやってるんですが、自分が動く前に反応されたのは初めてですぜ。お嬢この方の名前は?」


 な、なんだろう。一つも頭に入ってこなかった。

 それに、喋りながら近づいてくるせいで凄く窮屈だ。

 僕はすぐにナナの顔を見たが、目は怒っていて口は笑っている。

 逆かもしれないが、そんな表情をしていた。


「ジェイ。挨拶」

「ハイ! 自分はデカルト家に仕えるジェイ・ロラルといいます。仕事はデカルト家に任されたちょうほ。うぐっ!」

「言わなくていいところまで言うな!」

 

 ビシッと挨拶をしていたジェイがナナの腹パンでバタッと倒れた。

 全部は聞こえなかったが確かに言わない方が良さそうな内容だった。

 僕は優しいので聞かなかったことにしてあげる。

 決してナナからの圧力に屈している訳ではない。決してな。


 その後、苦しそうなジェイが奥の部屋に案内してくれた。

 その表情は明らかにニヤついている。

 ここまでのやり取りで面白いことが面白いのだろうか。


「ここに。しかもこのタイミングに来るってことは、お嬢またやりやしたね?」

「そうだけど?」


 訂正、ニヤニヤしいているのはジェイだけでは無かった。

 何故だろう。かなり歳が離れていると思うのだが、姉弟に見えてきたな。

 僕は悪企みをする二人を眺めてそう思った。

 

「ですが、お嬢。その件については実は問題がありまして」

「問題って、そもそもこれ自体が大問題じゃん」

「ええ。そのことには間違いないんですが……」


 ジェイが言葉を渋る。

 普段はあまりない光景なのか。ナナも不思議そうに首をかしげている。


「まさか本当は行方不明になってないとか?」


 僕は理解しながら突拍子もないことを聞いてみた。

 それを聞いてジェイは苦笑している。

 その顔はどっちなんだと言いたいがここは黙っておく。

 

「実は、王女様の攫われた場所が――魔王軍の支配地域――なんです」

「「……」」


 驚きで声が出ないとはまさにこのことだ。

 確かに予想できない選択肢ではなかったが、その情報は僕たちの計画のすべてを壊すものだった。

 捜索するという過程がなくなったこともそうだが、僕たち、特に僕は、出来るなら自分たちだけで助けてやろうと息巻いていた。

 僕もこの情報を聞いても考えが変わらない程の馬鹿じゃない。

 諦めて帰ろう。

 僕はそう思った。


「分かった。じゃあ、カバネルさんに会いに行く」

「そ、それは流石にまずいとおもいますが」

「会って話してみる。それで何もできなそうならパパに連絡して帰る」

「で、ですがカバネル様は今いそが」

「うるさいなぁ。もう決めたの!」

「そこまで言うなら……承知しました」


 どうやらナナが勝ったようだ。

 というかジェイがナナに勝つ未来はちっとも見えなかったな。


 それに僕は少しテンションが上がっている。

 なぜならカバネルと言う人物に会えそうだからだ。

 勿論、僕だけ突っぱねられる可能性や、そもそもナナですら会えない可能性もある。

 けれど先ほどからのモヤモヤが消えるかもしれないのだから、ナナの案に乗らない手はなかった。


 ジェイも同行するのかと思っていたが、仕事の関係上表には出たくないらしい。

 そのため僕とナナだけで会いに行くことになった。

 僕らも協力できれば最高なんだけどな。

 僕は理想を思い描きながらナナの後ろをついていくのだった。

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