49 密議
明けましておめでとうございます。
「抜け出すしかないでしょ」
ナナのふざけているような本気の言葉が僕の耳に届く。
抜け出すって、そう簡単にいくものなのか?
可能性を探る僕をよそにナナが準備を始める。
「じゃあ、必要な物だけ持って30分後にこの部屋ね」
ナナが出て行った。
1人になって30分後、準備を終えたナナが本当にやってきた。
僕も準備は出来ている。
そもそも必要なものが少ないのだが、本当に準備をしてしまった自分が怖い。
「抜け出し方はボクに任せて」とナナが自信満々に言うので、僕は素直に従うことにした。
僕たちは荷物をもって温泉に向かう。
どうやら温泉のメンテナンス室が外につながっているらしい。
外だ。
何ともあっさり抜け出せた。
ちなみにナナは自室に置手紙を残してきたらしい。
何も言わなければこちらも行方不明になったかと大騒ぎになりそうなので、良い判断だと思う。
ここからの移動方法は「走る」だ。
それしか方法が無い。馬車は目立つし、第一に僕たちには御者の技術がない。
なるべく人に合わない事を考えるとこれ以外に選択肢がなかったのだ。
その結果走ることになったのだが、少し走ったところで問題が発生した。
「ちょ、ちょっと……はぁ……はっ、速いってショウ」
しばらく走って僕は急ブレーキをかけた。
振り返ると、満身創痍になったナナの姿があった。
理由は聞かなくても分かる。
「なんだよ。急がないとだろ?」
「そう、はぁ、だけ……ど、はぁ」
「仕方ないなぁ」
「--!?」
「いくぞ!」
ここで止まっている暇はないので僕はナナを抱えて走ることにした。
なんというかそこまで負荷がかかるわけでもなく。先ほどまでと変わらぬ速度で走れた。
軽い。体格的に見れば当たり前かもしれないが、僕はナナが毎日トレーニングをしていることを知っているので少し意外だった。
思えば、女の子を抱えて走るのは久しぶりだ。
僕が前に抱えた女の子はナナよりも軽かった……と思う。
正直僕も成長しているし正確なことは分からない。
懐かしいな。
村を出る時もしっかり挨拶できなかったし、またどこかで会えるといいんだけど。
「ラシャーナは今何をしてるんだろう……」
「何か言った?」
「何も言ってない」
とりあえず目的地に急ごう。
僕はナンティファストに向かって速度を上げた。
同時刻、王都の南西に位置するウトガル山脈の奥地。
その地下に広がるこの施設の議事室には数名の魔族でも人間でもない者たちが集まっていた。
「皆も気づいていると思うが、魔族どもに動きがあった。この企みを阻止する義務は我々にはないが、この争いが苛烈化すれば我々の出番が訪れるかもしれない。そうなった場合に最善の行動をとるため、我々もこの動きを監視しようと思う」
キリっとした男、カイゼンが今回の件に対する対応を大まかに説明する。
着席したままの他の参加者4名からも反対の意見は上がってこない。
そのことを確認し、カイゼンが一人の少年を指名する。
「ジグ。王女の行方は分かるか?」
「うん。鳥さんたちに手伝ってもらって追いかけていたからね。どこに連れていかれたかはわかるよ。でも、その中まではちょっと厳しいかな」
「それはなぜ?」
ジグの答えにイサベルが理由を尋ねる。
その場にいる他の者も同様の疑問を持っている様だ。
その問いに焦らないで欲しいと言いたげなジグが答える。
「魔族の北方基地。それが第二王女の連れ去られた場所。動物たちに魔族のエリアは厳しいからね。見つかると面倒だし」
「それもそうだね」
相槌をしたのは桃紫色の髪をした青年。
見た目は15、6歳ほどの女の子で、服装にこれといった特徴はない。
強いて言うならその村人の様な特徴のない服が特徴だろうか。
彼女の名はラシャーナという。
ラシャーナからは、この議題とは別のことを考えていることが伝わってくる。
カイゼンもこれに気づいているがラシャーナに付き合う必要など彼にはない。
しかし、今この議題について話し合うことは少ないため、一先ず通常の報告会に移ることにした。
ジグは動物たちの生息域や個体数の変化など、イサベルは今後世界に影響を与えそうな組織の内情報告というように、それぞれが担当の分野について報告してゆく。
そしてラシャーナの番だ。
ラシャーナの担当は「神が生み出した同族の捜索」である。
そうは言っても、ここ十数年目立った報告はない。
ラシャーナは発見の報告をしているが、それを証明しろと言われると堂々と提示できないのが現状であった。
今回も同様だ。
「ラシャーナ。また同じ話するの?」
ジグが背凭れに体重をかけながら呆れたように質問をしてあげる。
2人もラシャーナの報告に期待などしていない様子。
今回は緊急の会議ということもありフルメンバーではないが、そうであってもラシャーナに味方してくれる人は誰一人として表れて事はなかった。
しかし今日は違った。
「ラシャーナ。もう一度その者の話を聞かせてくれないか?」
ラシャーナがジグに返事をするよりも先にイサベルがお願いをしてきた。
この初めての出来事にカイゼンとジグは驚き、ラシャーナは目を輝かせる。
直後、今日一番の元気でラシャーナが話し始めた。
「ショウのことだね! いいよ。話してあげる」
なぜか上から目線だが、そこは誰も気に留めない。
「ショウはね、強いの。村にいた時は魔法すら使えなかったみたいなんだけど。身体能力と漏れ出るオーラで確信したんだ。あれはゼディス様が生み出された、わたしの尽くすべき御方だ! ってね。それで、どうしてこの話を聞きたくなったの?」
「イサベルあの話は」
「実はこの前、王都でその――ショウ? らしき人物を見た」
言ってしまったか、といった表情を見せるカイゼンとジグ。
先日の集まりでラシャーナにも伝えてあげるという案が出たが、面倒な事になるという理由でラシャーナには伝えないことにしたはずだった。
それでもショウを生で見たイサベルも何かを感じ取ってしまったようで、伝えずにはいられなかったのだ。
「そういえば、王都に行くってお爺さんから聞いたなぁ」
「お爺さん? それは、そのショウという者の血縁者か?」
ここにきて新たな情報だ。
伝えてみた甲斐はあったとイサベルは思った。
「それが違うみたい。輪足が出合った時にはすでに一緒に暮らしてたんだけどね。調べてるうちに、2人は血がつながっていないことが分かったの。というより、ショウの両親について何の情報も見つからなかっただけなかったんだけどね」
「もしその情報が本当ならば、我々も少し考えなければならないな」
「どうゆうこと?」
ここで意外にも、カイゼンが割って入ってきた。
そのカイゼンに対するジグの問いにカイゼンは「本当に気づいていないのか?」という表情を浮かべる。
「その情報が正しいいとすれば、彼は我々と同じ状況だったと考えられるだろう」
「そうか。本当にゼディス様が生み出されたのだとしたら親がいないのは当然だね」
「で、でもカイゼン。私がこの世界に来たときはあんなに子供じゃなかったよ?」
「確かに」
カイゼンの発言に一度は乗ったジグだが、ラシャーナの発言でその船から降りた。
その後しばしの沈黙が流れた。
ラシャーナとしてもカイゼンとしてもそれ以上の情報はない。
簡単な話し合いでこの場は一旦お開きになった。
「今後の魔族の動きに注意を払いながら慎重に行動するように。仮にこれ以上の被害が出るのであれば、力尽くでも止めるべきだと私は思う。その場の判断はそれぞれに任せる」
カイゼンがそう言うと、ラシャーナが飄々と部屋を後にした。
それに続いて、ジグとイサベルも退出していく。
今回はカイゼン、ジグ、イサベル、ラシャーナのみの参加だった。
三名が退出し、部屋に一人となったカイゼンがあるものを見上げる。
その正面にはこちらを包み込むように翼を広げている大きな鳥の彫像が置かれていた。
鳥の彫像は、目の前のものを包み込むようなオーラを放っている。
その像をしっかりと目に捉え、黙考するカイゼン。
カイゼンは軽く溜息を吐くと、何もせずに部屋を後にする。
部屋を出たカイゼンは会議に参加していなかった他の仲間へ連絡を取るのだった。
今年は去年以上にこの活動を頑張ります。
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