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39 お誘い

 昨日の疲れが溜まっていた僕はいつもより長く寝てしまった。

 バラクロフさんにはエンニ先生から事情を伝えてもらったので僕が叱られずに済んだ。

 そのお陰もあって早く寝ることが出来たのだが、時計の針はすでに十一時を回っている。

 リトも出かけているようで部屋には僕一人だ。


「もうお昼だけど、ちょっと体を動かしに行こうかな」


 日はすでに昇り切っているが僕は日課の朝活をすることにした。

 今日はPTの振替休日になっているため学校は無い。

 侮らないで欲しい。流石の僕もこんなに大胆な遅刻はしない。

 僕が寮を出ようとした時バラクロフさんに呼び止められた。

 なんだろう。今回ばかりは本当に怒られるようなことをした覚えはない。

 僕は勘ぐりながらもバラクロフさんの座る受付に進行方向を変えた。


「なに、今回は説教じゃないよ。ショウ君にお客さんだ」

「僕に?」


 僕に会いたいという人が食堂で待っているということなので、とりあえず向かってみることにした。

 ドアを開けると、そこには見覚えのある人物が座っていた。

 たしか剣士学校の前を歩いていた僕に声をかけてくれた人だ。

 でも僕に何の用だろう。剣士学校は今日も授業の日だと聞いているけど。

 僕が入室したことに気づいた青年はすぐに立ち上がり僕に近寄ってきた。


「お久しぶりです。ショウ君」

「こちらこそ。あの時はありがとうございました」

「いえ、大した事はしていませんから。それにしてもまさか魔法学校に入学するなんて」

「色々ありまして。それで、えっと……」

「そういえば自己紹介がまだでしたね。私はエイブラムス王国王都剣士学校生徒会長のグレイ・デカルトと申します。今日はショウ君にお願いがあってお尋ねしました」

「お願いですか?」

「はい。今から剣士学校にお越しいただけませんか?」


 なんとなく想像はつく。

 昨日バルナバさんは剣士学校の校長をしていると言っていた。

 だとすれば僕を連れてくるように言ったのはバルナバさんだろう。

 あの少しの時間しか会ったことは無いがなんとなくそんな気がする。

 そうなると僕が断ることで大変な思いをするのはここにいるグレイさんということになる。それはあまりにも可哀想だ。

 僕も剣士学校に興味があるし行ってみても良いかな。というか、そもそも王都に来た目的はそっちが本命だったし。

 僕はそんな考えでグレイさんのお誘いを受け入れることにした。


「いいですよ。丁度これから体を動かそうとしていたところですし」

「なんというか、うちの生徒と戦うことは決定事項なのですね」


 違ったの? その為に呼ばれたのかと思ってたのに。

 戦えなくても良いんだけどさ。見学だけじゃつまらないしなぁ。


「えっと。ダメでしたか?」

「いえ。おそらく校長もそのような意図でショウ君を呼んだのだと思いますから。こちらとしても大歓迎ですよ」

「やっぱりバルナバさんからのお話だったのですね」

「ええ。でも理由はさっぱりですが。ショウ君、無理はしなくていいですよ」

「大丈夫です。早くいきましょう」

「分かりました。着いてきてください」


 会話が進むにつれて興奮気味になっていくショウをグレイさんが剣士学校へ案内する。

 案内と言っても魔法学校から剣士学校まではほぼ一本道なので、そこまで時間はかからない。

 昨日ショウが国の重鎮たちに囲まれていた城の横を抜けるとすぐに剣士学校の校舎が見えてきた。

 この間二人は世間話をしており気まずい雰囲気は流れていない。

 これはショウのコミュニケーション能力が向上したのではなくグレイさんのコミュニケーション能力が高いというのが要因だ。

 世間話も全てグレイさんの問いかけにショウが答えるという形で進んでいる。

 二人はこの形を崩すこと無く剣士学校に到着した。

 僕がこの場所に来るのは二度目。一緒にいる人もその時に出会ったグレイさんだが、今回は正式に客人として入校することが出来る。


「この方はショウ君。校長先生のお客様だ」

「確認いたしました。入校を許可します」


 グレイさんが受付に僕のことを伝えてくれた。確認もすぐに終わり僕たちは何事もなく剣士学校に入ることが出来た。

 受付を通り抜けた僕たちは一直線に校長室へと向かう。

 学校の構造は全く知らないので、なるべくグレイさんから目を離さないようにした。

 もう面倒なことはご免だからね。

 僕とグレイさんは無事に校長室の前にたどり着いた。

 グレイさんが部屋の中にいるであろうバルナバさんに向けてノックをする。


「生徒会長のグレイ・デカルトです。お客様をご案内しました」

「来たか。入れ」

「失礼します」


 やけに声が小さいな。

 グレイさんが校長室の扉を開ける。

 グレイさんは開いた扉の横に立ったまま、開いた扉の前に佇むショウに入室を促す。

 校長室に備わっている椅子には誰も座っていない。

 部屋の中から聞こえたバルナバさんの姿も見当たらない。バルナバさんの気配はするのでこの部屋のどこかには居るのだろう。

 僕が不思議そうに立ち尽くしているとそれに気づいたグレイさんが校長室の中にある一つのドアに向かって歩き出した。


「失礼しますよ」


 グレイさんはそう言いながらノックもせずにドアを開ける。

 その中は家具などが何も置かれていない空っぽの部屋だった。

 そこではバルナバさんと思わしき人物がこちらに見向きもせずに素振りを繰り返している。


「校長先生が呼んだお客様なのですから。きちんとお出迎えしてくださいと前もお話しましたよね」

「そんなこともあったな。でもすまん。この手を止めたくないんだ。途中で止めると、なんというかムズムズするからな」


 この会話から二人はただの生徒会長と校長の関係ではないと分かる。

 しかしショウが気になったのはそこではない。

 ショウが気になったのはバルナバさんの素振りだ。これはショウがブレイディから教わった型と全く同じものだった。

 じいちゃんと僕以外にこの型をこなしている人を見たのは初めてだ。見慣れているはずなのにとても新鮮味を感じる。

 ショウはバルナバさんを観察することであることに気づいた。


「深い……」


 ショウが呟く。

 ショウが呟いたのはバルナバさんが剣を振り下ろす際に足を踏み込む深さのことだ。

 バルナバさんの足はショウやブレイディの型よりも深く踏み込んでいる。

 足の踏み込みについてはじいちゃんにかなりうるさく指導されていたということもあり、つい気になってしまった。

 僕がじいちゃんから教わった剣の技は、基本がカウンターで動きが小さいというのが特徴だ。

 魔族との戦いでは持久戦に持ち込みたくなかったので攻撃的姿勢をとることになってしまったがそれは僕本来の戦い方ではない。

 しかし狩りなど相手が動物の時は自分から仕掛けることも少なくなかったため、多少勝手は違えど昨日の様な戦い方も出来ないことはない。

 僕がバルナバさんと自分の違いが他にもないかと観察を続けていると、型の一つを終えたバルナバさんが汗を拭きながら僕の方へ視線を移す。


「やっぱり大きいか」

「聞こえてましたか?」

「いや、視線で分かる。それにこれでも注意してやっているつもりだからな」


 なんとなく気まずくなってしまった。

 でもおかしいな。この人の動きを見る限り、正確にもっと正確にできるはずだ。

 それに毎回出来ていないわけでもないので少し変な癖がついてしまっているのだと思う。

 何が原因なのだろうか。


「私が君の想像している動きを出来ないのが不思議か?」

「その……正直に言うとバルナバさんならこれくらいは完璧に出来ると思っていたので」


 僕は隠してもしょうがないと思い、感じたことを正直に話した。

 グレイさんは僕がバルナバさんに指摘しているこの状況に目を丸くしている。

 久方ぶりに他人から自分の素振りを指摘されたバルナバは笑いながら手に持っていた木剣を壁に固定されているスタンドに戻す。


「ハハハ。そんなこと久しぶりに言われたよ。実はこれが私の課題なのだ」

「本当に出来ないんですか?」


 ショウが無礼を承知で質問をする。

 これには静観していたグレイさんも憤りをあらわにするがバルナバがこれを腕で制する。


「グレイ待て」

「ですが」

「いいんだ。ショウ君、私がこうなってしまった原因はすでに分かっている」


 バルナバさんはそう言うとほんの少しだけ楽しそうな表情をのぞかせた後、僕とグレイさんを順番に見つめた。

 不思議そうにしているグレイさんを見つめたバルナバさんは分かりやすくニヤリと笑い手を叩く。


「よし! 二人とも木剣を持て。今から模擬戦を行う」



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