38 ショウ・オルティス
「来たかバルナバ」
「遅れてしまい申し訳ございません」
部屋に入室していた男は謝罪の言葉と共に深く頭を下げる。
姿勢がとても綺麗だ。今は王様の前でお辞儀をしているから無理かもしれないが、もう少し顔を上げていればお辞儀中だとしても相手の攻撃を捌けそうだ。
それにしてもあの剣どこかで見たことがあるような。
王様が男のことを許すとショウが剣を見つめていることに気が付いた男がショウに近づいてくる。
「初めまして、オルティス君」
「こちらこそ初めまして……」
「この剣が気になるのかい?」
「あ、そのどこかで見たような」
「自分の予想だけど君の家に同じような剣が置いてあったりしないか?」
「家ですか?」
ショウは村の家を思い浮かべるいつもじいちゃんが使っている剣はこれではない。
物置部屋にも何本か置いてあったがおそらくそのどれでもない。
だとすると……。
「キッチンの横だ。家のキッチンの横に似た剣が置いてあります」
「やっぱりそうか」
確かにこの剣は家に置いてあったものと似ている。
特に鞘や鍔の装飾が瓜二つ。長さや幅などは違うように見えるが基本的な造形は同じで、同一の職人が造った物だということは素人が見ても分かるだろう。
それにしても何で家にこの剣と似たものがあることを知っているんだろう。
謎が深まったショウに反して何かを確信した様子の男は体を王様に向ける。
「報告します。こちらにいるショウ・オルティス君は自分の兄弟子、ブレイディ・オルティスのお孫さんで間違いありません」
「そうか。報告感謝する」
王様など冷静な者もいれば騎士団長のように驚愕している者もいる。アサレアは何が何だか分かっていない様子なので反応は様々だ。
その中でもショウだけは納得の表情を浮かべている。
そうか。じいちゃんと知り合いだったのか。
兄弟子とか言っていたしじいちゃんと似た剣を持っているのにも納得だな。
それにしても、じいちゃんはこんな人と同門だったのか。王様に直接会えるような人を育てるなんて。
どんな師匠だろう。
「バルナバさん。それは本当ですか?」
静寂の中で声を上げたのは騎士団長のジェイラスだ。
興奮気味のジェイラスはバルナバとショウを交互に見つめている。
慌ただしいジェイラスをバルナバが落ち着かせる。
「落ち着けジェイラス。これは事実だ。本人にも確認を取った」
「じいちゃんと連絡が取れるんですか?」
次はショウが反応する。
自分の祖父の正体が知りたいショウと事の真偽が知りたいバルナバのお陰で場が混乱状態だ。
バルナバはこの状況整理することにした。
「私が一から説明しよう」
前のめりになっていた二人は落ち着きを取り戻しバルナバの言葉に耳を傾ける。
二人が落ち着いたのを確認してからバルナバがこの場にいる全員に向けて話しを始める。
「まずはショウ君のためにブレイディさんについて説明してあげよう。その様子だとブレイディさんは君に自分のことを話していないようだしね」
「それでじいちゃんはどんな人だったんですか?」
「ブレイディさんは自分の兄弟子でこの国の元騎士団長だ」
「じいちゃんが騎士団長!」
「ブレイディさんって騎士団長の!」
ショウとアサレアが同時に声を上げる。
二人は互い反応を見ることで我に返ることになった。
ショウとアサレアの二人が静かになったところでバルナバの説明が再開される。
「ブレイディさんの詳しい話は本人から教えてもらった方が良い。次は君についてだ」
ブレイディの話を区切ったバルナバは僕がこの王都にいる理由について話し始めた。
その後は自分も説明をする側に回り僕が王都に来る前の事や剣士学校に入ろうとしていたことなどを話した。
僕とバルナバさんの話の腰を折る人はいなかった。
じいちゃんから剣士学校の入学期間について説明されてなかった事についてはバルナバさんだけが呆れた様子だったから昔からそういう人だったのだろう。
なんとなく想像できるな。
そんな感じでその後は何もなく終わった。
僕としてはじいちゃんについてもっと知りたかったけど外も完全に暗くなってしまったしこの人達も暇な人じゃない。その件はまた後でにしよう。
部屋から出て急いで帰ろうとする僕をある人物が引き留める。
「ショウくーん。ちょっと待ってよ」
確かケイさんのショウ紹介で魔法師団長と紹介されていた人だ。
僕の眼にも物凄い魔力が映っている。おそらくエンニ先生よりも凄い。
ルーナ様ともいい勝負だ。実践だったらルーナ様でもかなわない気がする。
「何でしょうか。団長さん」
「団長さんって。ここにはもう一人いるんだからブラッドでいいよ」
「わかりましたブラッドさん。それで何か用ですか?」
「いやなに、ただ君に挨拶をしておこうと思ってね。エンニからも君について話を聞いているし」
「そうなんですね」
「それに君の能力はオレらにとっても重要なものだからね。もしかしたら君に頼みごとが出来るかもしれないけど。その時はよろしくね」
「は、はい。内容によりますけど」
この人、勢い凄いな。あまりの勢いに飲み込まれてしまった。
ギリギリ逃げられた……かな。
今日はこの辺にしてもらいたいところだ。
「それじゃ、また今度ね」
ブラッドは反対方向に向かって歩いて行った。
それを見たショウはため息を吐く。
「なんというか。つ、疲れた。早く家に帰ろう」
ショウも出口に向かって歩き出した。叱られないように少し駆け足で。
魔王軍北方基地。
一人の魔族が膝をつき豪華な椅子に座るもう一人の魔族に首を垂れている。
その空気は重く。とても静かだ。
椅子に座っている魔族は組んだ足をそのままに目の前に跪く部下に報告を促す。
「首尾は?」
「はい、ヴェド様。先ほどエイブラムス王国に向かわせていた部下の消滅を確認いたしました」
「そうか。一人でやらせたのか?」
「いえ、騙した人間が一人。さらに光魔法の使い手も捕まえたようでしたので」
「ただの人間など数に入れるな」
「申し訳ございません」
ヴェドと呼ばれた魔族からの言葉に首を垂れている魔族はその頭をさらに深く下げた。
ヴェドが組んでいた足を元に戻し考えるような恰好を取る。
「だが、光の魔法師を使っても勝てないとなるとそれなりに厄介なのだろうな」
ヴェドの独り言に反応する者はいない。
「少し考える。お前は待機していろ。邪魔者の監視も怠るな」
「承知いたしました」
部下に命令を出したヴェドは手の届きそうにない高い天井を見上げながらニヤリと笑った。
エイブラムス王国某所。
とある飲食店の地下に人々から魔族と呼ばれている者たちが三名、円卓を囲むように座っていた。
扉から見て左には小鳥と戯れ合う男の子。その反対には落ち着いた様子の男が座っている。二人の格好はこの辺りに住む人間と変わりはない。
そして扉に一番近い席に座っている人物が被っていたフードを脱ぐ。
フードの下から現れたのは可憐な少女だった。
その少女は見た目に似つかない真面目な口調で二人に話しかける。
「今日は王都で行われた学生の魔法大会を見に行っていたのだけど面白いものを見つけた」
「面白いもの? 新種の動物とか?」
「仮にそうだとしたら、わざわざ私にも報告する必要は無いだろ」
無邪気に問いかける少年に反対に座る男が冷静に突っ込む。
男は手元のコップに入っていた水を一口だけ飲んでから再度口を開く。
「それでイサベル。面白いものとはなんだ」
「今日の大会で凄く目立つ子が一人いてね。その子を追いかけてみたの。そしたら奴らがその子に奇襲を仕掛けた」
「……それでどうなった」
イサベルは今日の自分の行動と見たものを簡潔に話した。
男は少し黙った後、イサベルに事の結果を急かすように尋ねる。
「わたしが追っていた子が圧勝だった。見えてないだけかもしれないけど攻撃的な魔法は一切使ってなかったと思う」
「なるほど。それはかなりの逸材だな」
「やっぱりそう思う? わたしもバレそうになったし、もしかしたらラシャ―ナが言っていた子かもしれない」
「ラシャ―ナが言っていた……。あぁ、剣を使うという私たしの仲間と思われる存在か」
二人はこの場にいないラシャ―ナという人物の名前を軸に進める。
そこに先程まで二人の会話を話半分に聞いていた少年も鳥との遊びを止め話に加わる。
「相手は一人だったの?」
「いや三人だ。といっても他の二人は人間だったがな」
「最近は減ったと思っていたが、また荒くれ者の人間を利用するようになったのか」
「それなのだが……」
イサベルは男の言葉に対する返答を躊躇う。
その様子を見た二人は不思議そうに顔を見合わせた。
顔を上げたイサベルの表情が険しい物へと変わっていることに気づいき、イサベルがこれから教えてくれるであろう悪いニュースに身構える。
「事例が少なすぎる故に断定はできないが奴らは人間を使役することが出来るかもしれない」
「なんだと!」
「うそでしょ……」
男は身を乗り出しながら声を荒げる。少年は背凭れに寄りかかり落胆の声を出す。
二人のリアクションを待ったイサベルは二人が一息ついたのを確認してから詳細を語り始める。
「これはあくまでも可能性の話だ。わたしには人間の魔法師が操られていたように見えた。この件についてはこちらで調査を進めようと思う」
「分かったイサベルに任せよう。奴らを倒したという少年は」
「ラシャーナに確認だね。ボクが伝えておくよ」
「頼む。みんなには私が共有しておこう」
こうして急遽イサベルによって集められた三人の集会は終了した。




