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34 王国会議

 アサレアとショウの喧嘩を仲裁したルーナはその後に行われた自身の試合を全て完勝で終え、見事プロスペクトトーナメント・ペアでの優勝を果たした。

 表彰式も終わり。ショウたちを含めた生徒たちが続々と会場を後にする。ルーナも家に帰りたいところだが王女様にはまだ仕事が残されている。

 ルーナは他の生徒たちと同じように帰宅しようとしているアサレアに声をかける。


「アサレアちゃん。この後のご予定は?」

「は、はいっ! あ、ありませんけど」


 いきなりの声をかけられ驚いているアサレアを気にすることなくルーナが話を進める。ルーナはアサレアを王国会議に呼ぼうとしているのだ。

 王国会議とは国王を含めた国の需要人物たちが集まる3ヵ月に1度の重要な会議だ。今回は本日行われたPTPなどの近況報告が予定されている。この会議には校長はもちろんエンニ先生、ルーナ自身も出席する予定だ。

 ルーナ様が初めてこの会議に出席したのが今のアサレアと同じ年齢だったこともあり丁度良いタイミングだと思ったのだ。


「アサレアちゃんも今日の会議に参加してみませんか?」

「今日の会議と言うと王国会議のことでしょうか」

「そうなりますね。私も今のあなたくらいの歳から参加していますし心配することはありませんよ。それに……」

「それに?」

「結局途中で呼び出されるでしょうから。それならば初めから居た方が色々と楽だと思いますよ」

 

 どこか実体験を話すような口調で理由を述べたルーナを見てアサレアは会議に出席することを決めた。

 ルーナは時々自分が体験した面倒くさい経験をオブラートに包んでアサレアに伝えてくれている。今回もその類だろうと悟ったアサレアはルーナと一緒に城に向かうことにした。護衛にはケイとクリスが率いる警備隊がいる。アサレアもルーナもケイと3人で帰るつもりだったのだが。ルークが「お待ちください」と言って強制的にこの形になってしまったのだ。

 2人は城に到着して直ぐ、会議に相応しい格好に着替える為に別々の部屋に向かった。

 

 着替えを終えたアサレアが待合室でルーナ様を待っていると扉をノックする音がした。

 ルーナが来たのだと思ったアサレアだが入室した人物を見て落胆する。


「なんだ。お父様ですか」

「何だとはどういう意味だ。せっかく迎えに来てやったというのに」

「ルーナ姉様は?」

「ルーナ様は兄上のもとにおられる。この会議にアサレアが参加できるように説得してくださったのもルーナ様なのだ。付き添いまで頼むわけにはいかんだろう」

「それはそうですけど」

「それに、兄上よりも早く入室しなければならないからな。もう時間がない。行くぞ」

「分かりましたわ」


 不貞腐れているアサレアを連れるカーティスが部屋に到着した頃には、すでに国王や王妃、王女以外の参加者が勢ぞろいしていた。カーティスは国王の弟なのでこの状況はなにも間違ってはいない。

 しかし、今日のカーティスにはやたらと視線が集まっている。その理由はどう考えてもアサレアが一緒にいるからだろう。

 ルーナ様が国王に直接進言したとはいえそれもつい先ほどの話だ。そのことを知らない人がいてもおかしくはない。むしろ知らない方が普通といった所だ。

 この様々な感情が見え隠れする視線の全てをアサレアは見事にスルーする。彼女もこの会議に参加するのが初めてというだけで、ここにいる人たちが参加するような行事には何度も顔を出している。そのためアサレアのスルースキルは完璧だ。しかしこれは父親が側にいる時だけだという秘密はアサレアしか知らない。

 アサレアとカーティスが席についてすぐに騎士の様な格好をした人物とルーナ様の護衛をしていたケイが入室する。これはこの部屋の安全確認であり、もうじき国王が到着するという合図でもある。

 先ほどまでアサレアの話題でざわついていた室内もこの二人の入室に伴い一斉に静まる。


「国王陛下のご到着でございます」


 先ほど入室した騎士の言葉でこの部屋に居る全ての人が起立し頭を下げる。

 ゆっくりと開かれる大扉の中心から凛々しい顔をした青髪の男性が同じ色の髪をした女性を二名、背後に連れて入室する。

 今この部屋には、この一行が上座につくまでの間に声を上げる者、頭を上げるものは誰一人として存在しない。青髪の男性が席に着き口を開く。


「面を上げよ」


 青髪の男性の一言で今まで頭を下げていた出席者たちが一斉に顔を上げる。

 全員の視線が集まる先にいる男性こそ。ここ、エイブラムス王国の国王ギルバート・エイブラムスその人だ。

 その横に座る女性はセシリア・エイブラムス。この国の王妃だ。王女であるルーナはギルバートを挟んだ反対に座っている。

 

「ロン進行を頼む」


 ギルバートが自身の横に控えている白髪頭の男に声をかける。ギルバートに会議の進行を任された男の名はロン・コールマン。エイブラムス王国の王族に長年執事として使える人物で普段は国王の身の回りの管理や全執事の統括などを行っていると言われている。歳は国王よりもだいぶ上だ。

 かなり露出の多い人物だが実際には何をしているのかわからない謎多き人物でもある。ロンは先代王が現役の時に王族の執事になったため国内の情報なら知らないことはない。その知識と経験を活かして当代の国王のサポートをすることも少なくはない。

 そしてこのような会議では進行や情報整理を任されることが多い。出席者達もロンの優秀さを理解しておりこの中には頭が上がらない人も数名いる。

 そんなロンがいつものように会議という名の報告会を開始する。

 

「それではまず財務状況の報告から――」



 初めて王国会議に出席したアサレアだが開始から今まで気になる内容は一つもない。ほとんどの内容がアサレアに関係のないことだ。

 関係がある内容であってもいつもより早く情報が得られただけで特に変わったことはない。アサレアもこのような状況には慣れているつもりだったがこの会議は今までに経験したことがないほど退屈だ。各方面から報告がされるだけでそれらについて話し合われることはほとんど無い。あったとしても詳細を求められる程度だ。

 ここで退屈が限界突破寸前のアサレアに転機が訪れる。


「最後に本日行われたプロスペクトトーナメント・ペアについて。カーティス校長お願いいたします」

「それではプロスペクトトーナメントの報告を始めます。首尾は上々。目立った問題もありませんでした。上位の生徒たちの名前は先程発表されたもので間違いはありません。実力も十分であったため他国へのアピールにはなったかと思われます」

「カーティス」


 特に気になることが無いように思える報告に国王が自ら口を挟んだ。これには彼との関わりが深い弟のカーティスも少し驚いている。

 しかしカーティスはこれを落ち着いて対処した。


「なんでしょうか。兄上」

「今年の新入生はなかなか面白いことになったようだな。アサレアが負けるほどの強者がいるのか。非常に興味深い」

「申し訳ございません」


 兄弟のやり取りにアサレアの謝罪が割り込む。自分では意識しないようにしていたが、王族である自分が優勝を逃したという事実はあってはならないことだと自覚している。

 そこに重なるようにして国王から直接触れられてしまったことでアサレアの口は無意識に謝罪の意言葉を口にしていた。


「よいアサレア。お前が強いという事実は余としても理解している。先の言葉はお前を批難するものではない」

「そうです。謝る必要はありませんよ」


 ギルバートの言葉を追従するようにルーナもアサレアを擁護する。憧れのルーナに助けられ少し照れてしまったことに本人は気づいていないのだった。

 先程はいきなり話に割り込んでしまったアサレアに次は正式な発言の機会が訪れる。


「丁度よいアサレア。お前が対峙したというショウ・オルティスという者の印象を教えてくれ」

「はい。最初は身体能力が吐出しているという印象でしたがそれ以上に彼の魔法の才能が桁外れだと感じました」


 アサレアの話を聞いたギルバートは隣に座っているルーナに目配せする。父親と目を合わせたルーナはゆっくりと頷く。単純に自分もアサレアと同じ印象を持っているという意図だ。

 少し緊張したがしっかりと報告を終えたアサレアは次の発言を出し渋っている。

 理由は先程のミスが原因だ。それでもショウが見せた魔法は現在の魔法の法則を壊すものであり。この場で伝えるべきものだと考えている。

 自分の中で結論を出したアサレアは勇気を振り絞って口を開いた。


「叔父さ」

「失礼します」


 アサレアの声に被せるようにして一名の警備隊の隊員が入室していた。

 出席者達の訝し気な視線も気にせずに会議に出席していた警備隊の隊長のもとに駆け寄るのを見るとかなり急ぎの様子と伺える。

 移動した隊員が隊長に耳打ちをする。


「それは本当か」

「む、どうした」


 耳にした情報に動揺している警備隊の隊長にギルバートが説明を求める。

 隊長は他の出席者達の顔を見渡しギルバートのもとに駆け寄る。よっぽど機密性の高い情報なのだろう。

 その情報を伝えられたギルバートは少々の沈黙の後に会議の休憩を宣言した。



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