30 準決勝
僕とリトは次の試合に向け、集中力を高める。
この試合は凡ミス1つで負けてしまう可能性がないとは言い切れない試合だ。
戦術を再確認した僕たちはステージへ向かう。
「ショウ。罠を見つけたら絶対に言えよ」
「わかってる」
今日の僕たちの口調は真剣そのものだ。
ピリピリした空気感が伝わってしまったのか、今朝はナナやリナにもあまり声をかけられなかった。
配慮してくれたナナたちに後でお礼をしよう。
僕は試合前最後のリラックスタイムを終え、ステージに上がる。反対から上がってきたのは対戦相手のアサレアだ。僕はアサレアから目を逸らさない。それはアサレアも同様だ。
今日の審判はカールではない。一安心だな。ちなみに僕達も霧で客席からの視界を奪うことはできない。準々決勝の後、学校から霧を故意に生み出す行為を禁止するというルール変更があった。この大会には一般の観客もいるため当然と言えば当然だろう。
「それでは両者。準備はいいか」
「わたくしはいつでも構いませんよ」
「僕らも大丈夫です」
「それでは」
審判の呼吸に合わせて、ショウも息をする。他の3人も構えを取り会場全体が静まり返る。
「始め!」
観客席から歓声は上がらない。僕たちの試合で開始の合図に反応していたら試合が終わっていたということが何度かあったからだと思う。
会場が静寂に包まれる中、僕は弧を描くようにアサレアに接近する。
僕の眼はアサレアが自分たちの足元に火魔法を放っているのを確認する。同時に僕の進行方向を遮るようにファイアウォールが設置されるのを確認した。
ファイアウォールとは準々決勝の相手が使った火のカーテンのことだ。この魔法は、訓練を積めば時間差で発動することが可能らしい。
準々決勝の後にリトに聞いておいて正解だったな。
この魔法はアサアレアの相方が設置した魔法だろう。かなり難しい技術だと聞いていたショウは相手の力量を見誤ったと感じながらも脚を止めようとはしない。
もちろん、意味もなく突っ込んでいるわけでは無く、相手がアイスバインドの対策をしてきたときのカウンターを用意しているという理由がある。
ショウが指で相手が火魔法を使っていることをリトに伝える。この合図は手話のようなものではなく事前に決めていた簡単な手信号だ。
その合図を受け取ったリトがいつもと同じ場所、相手の足元にアイスバインドではなく火魔法を放つ。アサレアは慌てて自分たちの足元に使っている火魔法の行使を止める。
コントロールが効かないと感じ、魔法の行使を止めるという判断をしたアサレアだが、結論から言うとその効果は殆どない。
アサレアの使った火魔法だと思っている相方も、急激に上昇する今度には反応できなかった。アサレアペアは足に焼けるような痛みを感じ、反射で飛び退く。
「クッ……。小賢しい作戦ね。セリーヌ来るわよ。魔法を発動して」
「はい!」
セリーヌ、アサレアの相方がファイアウォールを展開する。それでもショウは止まらない。なぜならファイアウォールが現れないからだ。
これはセリーヌの設置型のファイアウォールが不完全であったからではない。ファイアウォールに気づいたショウがその上を通り過ぎるタイミングでアイスウォールを使いその上に蓋をしたのだ。
蓋といっても氷で火に蓋をしているので一時的なものにしかならない。しかしそこに生まれた時間はショウがファイアウォールを通り越すのには十分だった。
相手との間に障害がないことを確認したショウは一気に距離を詰める。セリーヌに手が届くそのタイミングで横からラヴァ・バレットが飛んでくる。その攻撃は見方には絶対に当たらない完璧なものだった。
来た! ここならあれを使える
しかしこれもショウの作戦通り。ショウが訓練の成果を発揮できると思い、高ぶる気持ちを抑えようとしていると。ショウの背後からアイスランス、氷の槍を飛ばす魔法が飛んでくる。飛んできた氷の槍はショウ目掛けて飛んでいる溶岩の塊を打ち漏らすことなく撃墜した。
「ショウ。一旦退け!」
後方からのリトの声を聞きショウが後ろにさがる。
後ろに戻ってくるショウは明らかに不満そうな顔をしている。ショウはそんなことを隠す気もなくリトに文句を言う。
「なんで止めたんだよ。ここからが良いところなのに」
「あの魔法を使おうとしたんだろ? だったらまだ止めておけ」
「なんでだ?」
「今の攻撃はアサレア様の本気じゃない。相手の切り札になる攻撃の時に使った方がいいんじゃないないか?」
「たしかに。じゃあ早く本気の魔法を使わせよう」
「おいっ! ちょっと待て。はぁ……もういいよ」
リトは会話の途中で勢いよく飛び出したショウを呼び止めようとしたが。明らかに止まる気配のないショウの後姿を見てしょうがないと腹をくくりショウに合わせてあげることにした。
リトはショウと相手との間にアイスウォールで障害物をつくる。普通の魔法師の走る速度ならこんな障害物があっても意味がないだろう。しかしショウから目を切らないようにしているアサレアとセリーヌからすればかなり邪魔な壁になっているだろう。
リトの思惑通りその壁を邪魔だと思ったのか、セリーヌが火魔法でアイスウォールを溶かし始める。アサレアはショウから目が離せない。阿吽の呼吸で役割分担をしている2人を見るとかなり長い付き合いなのが伺える。
だが、リトからすればこの状況は最高に近い。リトは魔法に集中する。リトが使おうとしているのはアイスランスを応用した魔法だ。氷の槍というよりただの大きな氷の塊の中を空洞にすることでスピードを上げる。槍の数を1つに絞ることでさらにスピードを上げる。このスピードは今現在リトに出せる最速だ。リトはこれをセリーヌに向けて放つ。
アイスウォールを溶かすために火魔法を使っていたセリーヌはリトが放った最速の攻撃への対処が遅れる。セリーヌはとっさに風魔法で氷の塊を押し返そうとしたがそれも焼け石に水。氷の塊はすでに避け切れない距離にある。
「さすがに警戒心がなさすぎよ」
場外を覚悟したセリーヌだがアサレアがそれを許さない
アサレアが文句を言いながらアイスランスとセリーヌの間にアイスウォールを出現させる。瞬く間に表れたアイスウォールと常人の眼では追いきれないほどの速度で飛んでいるアイスランスが衝突する。氷の壁はリトの攻撃を止めることはできなかったが、軌道は変えることが出来た。そのためセリーヌは無事である。
何だ? いま魔法の発動スピード今まで見てきたアイスウォールの中で1番速い。ルーナ様より速いぞ。
僕はアサレアの魔法はあまり見たことがないが、先ほどまでの魔法と比べ物にならないほど速いことは分かった。これは厄介だと感じた僕は少しずつ前に出てきているリトと同じラインまで下がる。
「今の魔法は速すぎないか?」
「ああ。氷魔法はアサレア様の得意魔法だからな。そしてその中でも一番なのは……」
僕は自分たちの頭上に魔力が集まり始めているのを目視する。魔力は一か所に集まるのではなくかなりの数に分かれていく形的にはアイスランスのようにも見える。
いや槍というより杭や細い柱と表現した方が良いかもしれない。
集まった魔力が次々に実体化していく。
「来るぞ、リト!」
「さすがに俺にも見えている。ショウもあれを使ってもいいぞ。というか使わないと防ぎきれないと思う」
「同感だ」
僕とリトが態勢を整えたタイミングでアサレアが魔法の名を優雅に高らかに詠唱する。
「アイスピラーレイン」




