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3 じいちゃんとの思い出

 僕は王都へと向かっている。目的は王都にある剣士学校に行くためだ。

 今はネカトという街に滞在していて、宿のベッドで休んでいる。

 

 お金はじいちゃんから結構もらった。

 じいちゃんがお金持ちなのだと知り、驚いたのはここだけの話だ。

 だって、家も豪華じゃないし。ご飯も普通というか自分たちで狩りに行ったりするし。なんかやばいお金じゃないよね。

 

 ま、まぁ、じいちゃんはそんなことしないと思う。というか絶対にしない。

 確かに強くて見た目も怖いけど……。

 もし僕がそんなことに手を染めたら多分その瞬間、じいちゃんによってこの世から消される。

 だから絶対してないと思う。 

 村の人たちには知られていないが、じいちゃんはとてもやさしいのだ。そして悪いことが嫌い。僕はそんなじいちゃんが大好きなのだ。

 

 そして僕は長いようであっという間だったじいちゃんとの思い出を思い返していた。

 じいちゃんとの生活は楽しかったし、小さい頃は驚きの連続だった。


「そういえば。最初はじいちゃんが強いってことも知らなかったなぁ」


                 *

 

 これは当時7歳の僕が山に山菜を取りに行っていた時の話だ。

 その時僕は初めて本物の恐怖を知った。


「な、なんだよ……。このバケモノは」


 僕は殆ど整備されていない森で、今までに見たことのないバケモノに遭遇した。

 普通の人や動物であればそのバケモノから放たれている殺気を浴びただけでも倒れてしまうだろう。

 それはオオカミのような尾と耳を持ったクマのように大きなバケモノだった。

 僕だって山奥の村に住んでいたのだ。クマやオオカミ、イノシシといった強そうな動物とは何度も対峙してきた。

 だけど、こんなやつ見たことも聞いたこともない。

 じいちゃんにも教わってない。

 

 とにかく急いでじいちゃんに知らせて、一緒に逃げないといけない。

 そう思った僕は、脱兎の如くただひたすらに走った。

 

 しかし、そう簡単に逃げられる相手ではない。

(だめだ。全力で走っているのに。このままじゃ……)

 僕があきらめかけた時。僕の直ぐ横を瞬く間に駆け抜ける物陰が目に映る。


「――っへ?」


 つい気の抜けた声が出しまった。

(今、僕の横を何かが通ったよね)

 確かに通った何かを追うように僕は振り返った。

 

 逃げているにも関わらず、立ち止まっているということに僕は気づけなかった。

 僕の頭は脳をフル回転させて状況を整理する。

 

 そこには、よく知った顔のお爺さんが立っていた。

 でもそのお爺さんはこの付近にはいなかったはずだ。

 さらに、周囲にはさっきまで僕を追っていたはずのバケモノがいない。放たれていたはずの殺気も感じない。

 よく見ると、バケモノが横倒れになったまま灰のようになっていくのが見える。

 その横に立つお爺さんが『あいつに報告した方が良いか』と何かをつぶやき振り返る。

(あいつ? 誰のことだろう)

 僕にはじいちゃんがあいつと呼ぶ人に心当たりがなかった。


「ショウよ。無事か?」

「…………」


 じいちゃんの優しい声が耳に届き、僕の意識が現実世界に戻った。


「どこか、怪我をしたのか?」

「じいちゃん……」

「そうか。怖かっただろう。もう安心し」

「じいちゃん今のどうやったの?」


 僕も今のやりたい! じいちゃんみたいになりたい!

 幼い僕が導き出した結論はこれだ。


「そんなことはどうでもよい。ワシはお前の心配を」

「ねぇ! 教えて! 教えてよ! 僕も今のやりたい!」

「ショウよ。ワシの訓練はきびし」

「訓練? じいちゃんが訓練してくれるの? やるやる! それで、じいちゃんより強くなる!」


 今思えばここが僕の人生のターニングポイントだったかもしれない。

 僕は今までにないくらい興奮していた。

 だから勢いのままそう口にしていたのだが、それは本心だった。それは今でも変わらない。

 僕は強くてカッコイイじいちゃんの姿に憧れてしまったのだ。

 本当にそれだけだった。

 しかしそれは当時7歳の僕の心を動かすには十分すぎる出来事だったのは間違いない。


「――わかった。では明日から始めるとしよう」

「やった!」

「少しずつだぞ」


 本心では許してくれるなんて思っていなかった僕はとても喜んだ。

 じいちゃんは少しずつと言っていたけど、少しじゃなくてしっかりやらせてほしいとも思いつつ翌日の訓練に臨んだのだが。

 

 話が違った。

 全然少しじゃない。変なこと言わなくてよかったと本気で安心した。

 

 訓練というのはひたすら体力強化の訓練だった。

 起きたら走らされ。朝食をとり、荷運び。昼食を食べたらまた走らされ。夕食を食べる気力もなく眠りについてしまう。そんな毎日だった。

 

 剣や武器を使った訓練がしたいとお願いしたが、全て『まだ必要ない』と却下された。

 その時の目は怖かったけど本気で僕のことを考えてくれているのだとわかり嬉しくもあった。

 訓練は正直かなり厳しかった。早く剣を教えてほしいと何度も思った。

 それでも僕は強くなるために頑張った。じいちゃんの言う通りにすれば強くなれるとなんとなく感じていた。

 じいちゃんは基本アドバイスをくれない。でも僕が聞いたらものすごく細かく教えてくれる。

 そのアドバイスにはじいちゃんの実体験なんかも混ざっていて、まだ剣を持ったこともないのになんとなくイメージできた。

 

 その後、剣を教わり始めたのだが。この剣の訓練が先ほどまでの訓練とは比べ物にならない。

 毎日、死ぬかと思いながら訓練をしていた。

 じいちゃんの目はずっと優しいのだが、動きは正反対で物凄く厳しい。あと同じミスをすると……。

 

                 *

 

 なんか考えるだけで疲れてきたな。

 そんなことを思い返していたせいか、僕の眠気は限界に達していた。

 

 今日は宿のおばさんに頼まれた荷物を隣町まで運んだから疲れているのだ。

 僕の予定だと明日の朝にはこの街を出ることになっている。この街の人たちは皆優しいので離れるのが少し寂しい。

 

 僕が目を閉じようとした時、今までにあまり感じたことのないような刺激を感じた。

 そういえば、あのバケモノの時もこんな感じがしたなぁ。

 

「だれか! アイツらを追ってー!」



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