28 目指せ準決勝
僕が食い入るように試合を見ているとリトが席に戻ってきた。
「2人はどんな感じだった?」
「リナは大丈夫そうだったが、ナナはだいぶ緊張していたな」
「そうか。ま、大丈夫だろ」
「そうだと良いのだが」
会場にリナとナナが姿を現す。
来たな、ナナはあの日からかなり特訓をしている。
僕も一緒になってやっていたが、ナナの成長は本当に凄かった。
今のナナが自由に動き回るだけで相手はかなり嫌だろう。
そこにリナの魔法が加わるのだから敵としてもかなり当たりたくないペアだ。
「相手はどんな奴らなんだ? 両方とも見たことがあるけど」
「片方はAクラスで、もう片方はSクラスだ。この2人もアサレア様の一派でね。女性同士って言うのもあるのかもしれないけど、リナたちをかなり嫌っているみたいなんだ」
「そうなのか。Sクラスねぇ」
僕は大会を見ていて確信したことがある。
前から薄々感じてはいたが、Sクラスはクラス内の実力差がかなり激しい。
C~Aクラスはしっかりと実力によって分けられているが、Sクラスだけは違うみたいだ。
アサレアのように文句なしの生徒もいれば、今ナナたちが相手をしている人たちのようなBやAの中堅と言った実力の物まで様々だ。
リトやリナはSクラスではないものの実力は間違いなくSクラスだ。
これは贔屓ではない。しっかり他の生徒と見比べた結果だ。
これで、何故この2人が目の敵にされているのか少し分かった。
おそらく自分より下のクラスのリトやリナに実力で劣っているというのが自分たちでも気に食わないのだろう。
「自分が弱いのが悪いのにな」
「どうした急に」
「なんでもない。それより試合始まるぞ」
始めの合図とともにナナが突っ込む。
何やってんだアイツ。そんなんじゃ簡単に避けられ……え?
ナナは馬鹿なくらい直線的な動きで相手に突っ込んだ。
僕は絶対に躱されると思ったのだが相手は2人とも全く動かない。ナナが動いていることにすら気づいていない様子だ。
あれ? ナナってこんなに速かったか?
ここで僕はナナのスピードがありえないほど速くなっていることに気が付く。
ナナが動いていることに気づけなかった相手は、ナナの恨みを込めたボディブローをもろに喰らってしまいダウンした。
何が起こったのかそれを理解していたのはこの会場では僕くらいだろうか。
始めの合図からここまでおそらく1秒すら経過していない。
片方のペアが2人とも倒れているという情報を整理し終えた観衆が一気に沸き立つ。
「「「ウォー―!」」」
「何だいまの!」
「一体どんな魔法を使ったんだ?」
「先に準備していたのか?」
「それは無い。審判の先生も一流の魔法師だ。そんなことしたらすぐにバレちまうよ」
客席は今さっきナナが使ったと思われる見たことのない魔法の話で大盛り上がりだ。
魔法か? あれは魔法なのか? 僕にはナナが魔力を纏っていただけように見えた。
僕には人の魔力は心臓の反対側に固まっているように見えている。
だから、おそらくナナは何らかの魔法を使ったのだと思うが。
いまのは何だろう。系統的にはインパクトと同じような雰囲気だったけど。
「リト、今の魔法って何?」
「あれは正確には魔法じゃない。ナナの家に伝わる秘技だ。だから詳細は俺にもわからん」
秘技かそういえばナナの実家は武道を継承しているとかなんとか言ってたな。
今の技、僕も使いたい! でも、秘技か。
どうにかしてナナのお父さんとかに頼み込めないかなぁ。
どんどんと自分の中に潜っていくショウの思考をリトが引き戻す。
「おい、ショウ。次の試合アサレア様だぞ」
「マジか。それは見ておかないと」
ステージ上にアサレアが姿を現しただけで今日一番の歓声が上がる。
アサレアの相方はもちろん取り巻きの1人だ。
こいつはなかなかだ。能力的にはリトと同じくらいかな。
僕はこの2人がどんな試合をするのかとても楽しみにしている。
それはこの会場にいる誰しもが思うことだろう。
しかし、この試合の結果は観客たちの期待していたものにはならなかった。
「棄権します」
アサレアと対峙する相手ペアから衝撃的な言葉が飛び出した。
僕の聞き間違えかと思ったが、周囲の人の反応からするとそうではないようだ。
現にかなりキツイ言葉を浴びせている観客もいる。
「ふざけるな―!」
「それが世界最高の魔法教育機関の生徒がすることか!」
黙っているだけで心の中では同じこと思っているのか、誰一人として騒いでいる人を止めようとしない。
それどころか試合を棄権するという行為に不満そうな顔をしている人の方が多い。
棄権したペアは2人ともそろっているし、どちらかの体調が優れないといった様子もない。
あの2人、よく見たらアサレアの取り巻きにいたな。僕に言いたい放題してきたやつらだ。
この学年に占めるアサレア派の割合は3~4割。
取り巻きたちがアサレアとぶつかることは不思議ではないが……ここまで露骨な八百長は流石に。
「リト、これは流石にひどくないか?」
「俺もそう思う。いくら校長の娘だとしても良くないことだと思う」
「そうだよな。これじゃあアサレア対策もできない。ぶっつけ本番は気が引ける」
僕とリトは愚痴をこぼしながら次の試合に向かった。
そこから準々決勝まではすぐだった。
リトが氷魔法で捕まえて僕が打撃で気絶させるか、僕が氷魔法の維持を受け持ってリトが魔法でポコッとやる。
この作戦でそれぞれの試合は1分も有していない。
そして迎えた準々決勝。
相手はSクラスのペアだ。
ここまで残っているだけあって、この2人はかなりできる奴らだと伺える。
「リト、気を引き締めろ」
「ショウもさすがに気づいたか。この2人は学年でもトップ5には入る実力者。得意魔法は右が火魔法、左が土魔法だ」
「土魔法か。そういえばあまり見ていないな」
「まぁ、土魔法は見た目の地味さから過小評価されがちだからな」
土魔法、僕のあまり知らない魔法だ。不意打ちには気を付けよう。
僕とリトは真剣な眼差しで2人を見つめる。
なんだ?
左の生徒と目が合ったとき、少し笑った気がした。
気のせいかな。
「それでは」
おっと。集中、集中。
審判の開始の合図を聞き、試合に集中し直す。
「始め!」
僕は前の試合と同様にリトが氷魔法を使ってくれると信じ、相手に向かって走り出す。
――来る!
僕は足元から攻撃が仕掛けられるのを察知する。
と言ってもこの魔法はいま放たれたものではない。あらかじめ設置してあった魔法だ。
これは完全なフライングでありルール違反。
こんな不正、審判が見逃すわけが……!
こいつSクラスの担任か。そういえばエンニさんもこいつのことが嫌いだとボヤいてたっけ。本当、とんだクソ教師だな。
僕は罠を全て避け、地面から出現した岩の針をインパクトを使い砕いていく。
相手は事前に仕掛けてあった罠を全て無効化されしまったことに驚いたのか、一瞬だけ驚いた表情をした。
しかし流石Sクラスといったところか、すぐに引き締めて次の行動に移る。
リトのアイスバインド対策で相手の足元には既に火魔法が放たれている。
それだけではなく突っ込んでくるショウの進行方向に炎のカーテンが出現する。
クソッ! 面倒くさいことになったな。
僕は早期決着を諦め、持久戦に移行する。
正直、試合開始直後の奇襲以外の接近戦を2人から放たれる魔法に対応しながら行うのは難しい。
ある程度離れていればリトからの援護も望めるが、相手との距離が近いと僕も巻き込まれる危険性がある。
プランは崩れたが僕たちに動揺はない。なんて言ったって朝5時まで話し合ったんだからな。
僕はため息をつき後方に下がる。
「丁度いい。リト、準決勝前にあれを試そう」
「わかった。あまりやり過ぎるなよ。後で情報が流されたら面倒だからな」
僕とリトは対アサレア用の作戦をこの2人を相手に試してみることにした。