25 作戦会議
「シ、ショウ。今日はもう帰って良いですよ」
「わかりました」
「先生、ちゃんと見ていましたか? もっとアドバイスを下さい!」
あの後、エンニ先生がルーナ様につかまって永遠と魔法を見せられている。
ルーナ様が僕のイタズラを防ぐ方法を考えるといいだしたのだ。
僕は何度も同じことをさせられたが、本当に逃げられなかった。
僕の集中が切れイタズラが失敗して水蒸気が発生してしまうと、『ちゃんと集中して!』と怒られてしまう。
速く終わってほしい僕は自分で自分の攻略を始めた。
結論から言うと、2つの魔法を本当の意味で同時に使うことで攻略できると考えた。
それをルーナ様に伝えると。
「やってみます! 2人ともしっかりみていてくださいね」
「「は、はい」」
ということになり、僕も付き合わされた。
同時に使用できているかどうかは僕が見ていなくても成功と失敗が分かりやすいということに気づくとエンニ先生だけにこだわるようになった。
やはり、かなりエンニ先生のことが好きなようだ。
僕はルーナ様の成功パターンを見たので、もう完全に同時発動することが出来る。
僕に思い残すことは無いのでエンニ先生のお言葉に甘えて帰らせてもらうことにする。
「で、では僕はこの辺で失礼しますぅ」
僕は2人に、特にルーナ様に気づかれないように訓練場を後にした。
ふぅ。本当に大変だった。寮の門限までギリギリだ。
ルーナ様と魔法の練習をすることがないことを祈ろう。
僕は少し駆け足で寮まで戻った。
「バラクロフさん、戻りました」
「遅かったね。門限破ると反省文だから気を付けてね。ちょうど良い、ご飯の時間だから男の子たちに伝えてきてくれるかい」
「わかりました。すぐ行ってきます」
臭いで分かった今日はお肉だ! 疲れているときの肉が一番美味い。
僕は男子棟に入り大声で叫ぶ。
「お――い! 夕ご飯だぞ――! 急げ――! 肉だあ――――!」
僕が叫ぶと寮生が一斉に動き出し建物が揺れる。
やはり分かっているな。肉、結局は肉が最強なのだ!
一斉に扉が開く音と、ドタドタドタドタという足音が棟内に響く。
「マジか!」
「急げ! 一番多く盛られてる皿の前に行くぞ」
「お前はついてくるな! お前はいつも食いすぎなんだよ」
「うるせぇ! 食べるのが遅い方が悪い」
ちなみに僕はゆっくりだ。なぜかって?
男子棟の扉が本棟の側から開く。
「お前たち! 寮の中を走るな。走ったやつらは全員ここに正座しろ」
本棟からバラクロフさんが出てきた。
僕の作戦勝ちだ。
これでこいつらが説教をされている間に好きな席を選べるという作戦だ。
天才だろ?
「ショウ、悪いこと考えたな」
「そうか?」
ゆっくりと歩いてきたリトが話しかけてきた。
僕とリトはゆっくりと席を選び着席する。
女子棟からリナとナナが出てきた。食事の場所と時間は男女共通なのだ。
バラクロフさんの前に正座をさせられている男子たちをみた2人は苦笑いしながら僕たちの向かいに座った。
「ショウ君、なんで先生に呼ばれていたの?」
「なんか、天眼? とかいうやつを持っているかもしれないっていわれ」
「「「天眼!」」」
びっくりした。
珍しいということは知っているけどそんなに騒ぐことか? ルーナ様だって持っているんだしそんなに珍しくないんじゃ……。
「ショウ。この国で天眼を持つ6人は凄い方々なんだぞ」
「知ってるよ」
「ショウ君さ。その6人がどんな方々か知ってる?」
「凄い人たち?」
「ショウそうじゃない。その6人は国王様とこの学校の校長先生とその2人のご子息、ご息女だけ。つまり全員王族」
僕はルーナ様も持っていると聞かされたからそこまで驚くようなことではないと思っていたが、そもそもルーナ様が普通の人ではないことを忘れていた。
あのルーナ様の特訓に付き合っていたらそんなことも忘れてしまったみたいだ。
しかし、そんな特別な能力をどうして僕なんかが持っているのだろうか。
僕が誰もが抱くであろう疑問を感じていると、視界の端でリナが身を乗り出しながら挙手をするのがみえた。
「ハイ。質問がありまーす」
「なに?」
「その天眼ってどんな能力なの?」
「それは……」
僕はこの質問に答えるのを躊躇う。
理由は来るPTのためだ。
僕はアサレアに勝負を押し付けられてしまった。その勝負の条件ではどちらかが優勝しなければ何も起こらないというもの。
しかし、アサレアはそれなりに強い。
全員をしっかり観察したわけではないが、本当にこの学年でトップクラスに強いようだ。さすが魔法学校の校長の娘といったところか。
だから何事もなければ優勝するのはアサレアだろう。取り巻きにもそれなりに出来そうなやつが数人いた。
そのため僕はアサレアの優勝を阻止する必要がある。
それを達成する一番簡単な方法は僕自身が優勝することだ。
そして、その可能性を最大限に引き上げるためには、リト以外の人に僕の能力を明かしたくない。それがこの2人であっても。
「ごめんリナ、ナナ。2人にはまだ秘密。この大会が終わったらちゃんと教えるからさ」
「そうだよね。対戦相手になるかもしれない人に自分の情報は渡せないよね。悪いのは聞いちゃった私だよ」
「いや、大丈夫」
リナは思ったことをそのまま口にしている感じで、凄く素直だ。
良い人なのだが誰かに利用されないか少し心配しているが。それに関してはリトも同じことを思っているようで、リナに近づく人には常に疑いの目を向けている。
だから放置していても大丈夫だろう。
夕食を食べ終えた僕はリトが食べ終えたのを確認して席を立つ。
「リト。さっきも少し話したけど、僕はこのPT、本気でやるつもりだ。だから作戦会議といこう」
「おう、もちろんだ」
「じゃあナナ、私たちも行こうか」
「うん」
こうして僕たちはそれぞれの部屋へと戻った。
部屋に戻った僕とリトは作戦会議を始める。
会議のおつまみはバラクロフさんからもらったバナナだ。
今朝、バナナを買いに行こうとしたら寮の門限があるせいで外出できなかった。
どうしてもバナナが欲しいと言ったらバラクロフさんが買ってきてくれた。
「それでショウ。俺には話してくれるんだな?」
「ああ、もちろん。僕の天眼の能力は」
僕はエンニ先生から聞いた僕の天眼の能力をリトに話した。
エンニ先生によると僕と同じような能力を持っていた人と僕の能力には誤差がある可能性が高いそうだ。
でも今のところ聞いた情報と体感に差は無い。
「なるほど。魔力が見れるのか」
「そのあと色々試したんだけど、設置型の罠とか火力のフェイントとかは全部見抜ける。魔力の密度もわかるからな」
「それはでかいな。俺たちの戦い方に持ってきやすい」
「その僕たちの戦い方なんだけど、実はもう必勝法を思いついていて――」
この後、僕らの作戦会議は白熱し窓からは朝日が差し込む時間まで及び。
次の日にすればよかったと後悔するのであった。