19 ゲーム、訓練
ナナを探していた僕は無事に寮の近くの空き地でナナを見つけることが出来た。
その後いろいろあって、今は2人で追いかけっこをしている。
この追いかけっこは僕が小さかった頃にじいちゃんとやっていた訓練の1つだ。
シンプルなのだがじいちゃんに勝てるようになるまで一年半くらいかかった。
だからやったことがないナナには余裕で勝てると思っていたのだが。
「ナナ、上手だな」
「そうかなぁ」
「いや、初めてでこれは凄いぞ。なんというか、さすがだな」
「何でボクの次の動きがバレてるの?」
「予備動作が少しだけでかいからかな」
ナナはかなり筋がいいどうやら武道家の一族というのは本当みたいだ。
しかし、ナナは次の動作のための予備動作が少し大きいという弱点がある。多分この学校の生徒じゃ気づけない程度だろう。
そして、そのクセは昔の僕と同じだ。
だから、矯正する方法も1つだけ知っている。今の僕ならそれをしてあげることも出来るのだが、僕はその訓練が一番嫌いだった。
「もう1回! 次はボクが追う方ね」
「自信がありそうだな」
「だってこんなの追う方が有利じゃん」
ナナが言ったことは小さいときの僕も思っていたことだ。
しかし、今の僕にはそうではないとわかる。
もちろん、逃げる方が勝つのは難しい。単純な追いかけっこでもこの範囲はかなり狭い。
さぁ、この訓練の本質を見せるとしよう。終わった時のナナの顔が楽しみだな。
「もういいの?」
「いつでもいいぞ」
「いくよ」
スタートと同時にナナがショウに向かって最短距離で迫ってくる。
(やっぱりそうくるよね)
ショウはナナが右足をつく直前を狙って左に動く。
ナナが切り返した時には、すでにショウとの距離が広がっている。
次にナナは比較的スペースがある方向から障害が多い方に向かって追う。
こうすることでショウの逃げ道を限定する作戦だ。
しかし、単純なスピードで劣っているナナはショウに追いつくことが出来なかった。
このままでは勝てないと判断したナナはゆっくりと距離を詰めるという作戦をとった。
(僕の勝ちだね)
ショウは最初からこうなることを予測していた。
そしてこの状況になれば自分が負けることは無いと確信している。
一方で、逃げ道はあるがショウが動いてからでも追いつけると確信しているナナはショウの動きに集中する。
「…………」
ショウからのアクションがないのでナナは少し距離を詰めることにした。
しかし、ナナの足は動かない。その理由はショウの動きにある。
ナナが動こうとした瞬間にナナの行動より早くショウが逆を突く動きを見せてくる。
ナナも初めは偶然だと思っていたが、そうではないと理解した。
結局、ナナはそこから一歩も動けずに制限時間が過ぎてしまった。
少し大人げなかったかな。いや、これでいいか。
僕はじいちゃんにやられたことをそのまま再現した。
僕も経験しているから分かるのだが、本当に何もさせてもらえないのでかなりフラストレーションが溜まる。
それにしても、これで同い年か?
「あの、ナナさん」
「なに?」
ナナが完全にいじけてしまった。出会って2日の僕にはどうにもできない。
どうにかして機嫌を戻してもらわなければ。
まじで、どうしよう。
――あ! あれがあるじゃないか!
僕は寮の自室にダッシュで戻り、あれを取ってきた。
「ナナ。これ食べる?」
「バナナ? なんで」
「なんで? えっと、おいしい……から?」
「食べる」
食べるらしい。絶対に食べない流れだと思ったのに。僕も食べよ。
やっぱり美味いな。またあのお店に行かないと。
昨日、リトとにもあげたのであと1本しかない。
「ねぇ、どうやったらあんなことが出来るの?」
ナナは少し機嫌を取り戻したようで、僕に質問してきた。
ちょっと冷静になったみたいだな。
「相手の変化を一つも見逃さないことかな」
「そういうのには結構自信あったのに、ショウの動きは無駄がなさすぎるよ」
「まぁ、訓練したからね」
「訓練かぁ。どんな?」
「じいちゃんが持ってるリンゴを奪うっていう訓練。奪えなかったらじいちゃんに殴られるから必死でやってた。そしたら1年ぐらいでマシになったかな」
「それ、殴られる必要あったの?」
僕は一瞬、なにを言われたのか分からなかった。
確かに、殴られる必要なかったのでは……いや、そんなことは無い。じいちゃんは実戦での厳しさを教える為にやってくれてたんだ。
「あったよ。必要あった!」
「――そうなんだ。ボクもやりたい。でも殴らないで」
「あ、うん。いいよ」
僕は最後のバナナを手に取り、ナナと向かい合った。
多分だけどナナならすぐにマスターしてしまうだろう。
僕がじいちゃんにコツを聞いた時、これは自分で掴むしかないと言われた。
こればかりは数をこなすしかないと今の僕も思う。
でも、昔の僕とナナには決定的な違いがある。
それは、ナナがすでに多くの修練を積んできているというところだ。
さらに当時の僕は訓練を深く理解することが出来ず、強くなれるならと思い我武者羅にやっていただけだった。
だから、訓練の趣旨を理解している今のナナならば数週間あれば自分のモノにできるだろう。
「じゃあ、やるか。このバナナあとで食べたいから力んで潰すなよ」
「はーい」
聞いてないわ、これ。潰されないためにも絶対手加減しない。
こうして始まったバナナ奪取ゲームは僕の150戦150勝に終わった。
「最後の方は良かったぞ。再来週には完璧だな」
「これ、毎日やるの?」
「そんなわけあるか。こんなの毎日やってたらおかしくなるぞ!」
「ショウでもそう思うんだ」
ナナの相手をして気が付いたことは思っていたよりバナナを持っている方の負担が大きいということだ。
今回はナナの練習のためにずっと僕が持っていたのだが。正直、最後の方は集中が切れそうだった。頭がおかしくなるというのはこちら側の話なのだ。
じいちゃんはこれを毎日300回くらいやってたけど、おかしかったんだ。
最近、じいちゃんは凄い人なのではないかと思い始めた。でもそんな人があんな村にいる理由が分からないため、そんなことは無いという結論に至った。
「僕のじいちゃんっておかしかったんだ。だってこの訓練のときお茶を飲みながら僕の相手をしてたんだぞ」
「何そのつまんないウソ」
「嘘じゃねぇよ! 本当にそうだったんだよ」
「そんな化け物いるわけ……でもショウのお爺さんだからあり得るかも。お爺さんの名前は?」
「ブレイディだよ。ブレイディ・オルティス」
「ブレイディかぁ。聞いたことがあるような、ないような」
「知ってるわけないだろ。あんな田舎に住んでる爺さんのこと」
「ブレイディ・オルティスですって?」
「「え!」」
僕らの背後からじいちゃんの名前を復唱した人がいた。
「バラクロフさん、どうしてここに?」
それは寮母のバラクロフさんだった。
僕が問いかけた直後、バラクロフさんの顔が驚きから怒りに変化するのを見た僕とナナは大切なことを思い出した。
そう、僕たちは授業をサボっているのだ。
「それは私の質問だと思うのですけど?」
「「すみませんでした!」」
もう逃げることはできないと確信した僕とナナが出した結論は全力の謝罪である。
もちろんこれで済むわけもなく。
「この事はフェリ、フェリーネ先生にも伝えておきますからね」
「「は、はい……」」
あの人だけには怒られたくないと思っていた僕は、これから訪れる最悪の時間に恐怖しながら校舎へと戻った。




