4 自宅エリアの整備
昼食を終えて一息を付いた後、普段着に着替えてこれからどうするのかをソラと話し合う。
「ね、この仮設住宅のコンテナハウスって2週間が使用期限なんでしょう?」
「はい。こちらは正確に言えば2週間…、つまり336時間後には消滅します」
「消滅?!」
「ええ、建物は消えますが、中の家具などはそのまま自動的に紗英様のインベントリの中に収納されます」
「じゃあ、あと2週間弱で自分の住む家をどうにかしないといけないってこと?」
「そうなります」
「いや、2週間じゃ家なんて…」
「素材さえ準備出来れば、クラフトスキルで1瞬ですよ」
「クラフトスキル?」
「はい。スマートウォッチのハンマーのアイコンです」
「これ?」
「はい」
ソラが言っていたアイコンをタップすると、先ほど使った通販のようなショップアイコンが出てきた。
「ジャンルごとのアイコンがありますので、まずは建物アイコンをタップしてください」
ソラの言う通りに建物のアイコンをタップする。するとログハウスから豪邸まで、多種類の建物写真が出てくる。
「こちらが現在のクラフト機能で建設できる種類の建築物になります。建物をさらにタップすると間取りや中の様子が確認できます」
「下に書いてある木材って?」
「下に書いてあるのは、その建物を建てるのに必要な材料になりますね」
「お金じゃないんだ…」
「金銭でも建てることは出来ますが、材料を用意する方が手っ取り早いですよ。なんせ材料は目の前ですから」
そう言って空がコンテナハウスの前の林を見る。
確かに。どのみちこの樹木を何とかしないことには、領地管理もままならない。そもそも視界が悪いし日当たりも微妙である。
「ここ、どのくらいの広さなのかしら…」
「ああ、地図で確認することが出来ますよ」
「え?」
「スマートウォッチの地図のアプリをタップしてください」
言われた通りに地図のアイコンをタップすると、ここの地図っぽいモノが表示された。
家のマークと丸いピンクのアイコンが表示された。
「ピンクのアイコンは紗英様です。家のマークはこのコンテナハウスですね」
「この丸い敷地は?」
「おそらく今私たちがいる敷地のことでしょう」
「後ろの方は崖になっていて、岩肌が見えているからそうかもね。でも他にも敷地があるのが分かるけど、タップしても何も見えないね」
「紗英様が順次開拓していき、その敷地に足を踏み入れれば見えるようになりますよ」
「じゃあ、まずはこの目の前の林をどうにかしないとね…」
「はい。それではこちらを紗英様にお渡しするように言われております」
そう言って出されたのはコンパクトサイズのオノ、カマ、スキ、クワ、ハンマー、じょうろの6つの農具を渡される。
「これが基本の開拓道具になります」
「ゲームの牧〇物語みたいね」
「まあ、ものすごく端的に言えばそうなりますね」
「オノで木を切り倒し、スキで地面をほぐし草取りをします」
確かに、目の前に見えるのは木と草だらけ…。ゲームと違って、実際にこの作業を私がしなくちゃいけないと思うと骨が折れる。しかし、なんとか木材を調達して自分の家を建てないと死活問題だ。
私はオノを片手に持ち、立ち上がる。
「とりあえず、まずは木をどうにかしなくちゃね…」
そう一人呟いて、バルコニーを降りる。とりあえず、一番近い木の前に立つ。
「ソラ、これってどうすれば伐採できるの?」
「今、紗英様がお持ちのオノを木に近づけてください。そうすればそのオノの特殊機能が発動します」
「?」
とりあえず、訳の分からないままオノを木に近づける。すると頭の中にどうすれば木を伐採できるのかの情報が入ってくる。そのまま、自然と木を伐採する。
正直、林業なんてしたことのない私が肉体労働なんて出来るのかと思ったけど…。実際に伐採を始めると驚くほど体に負担がない。何故だろうと思ってソラに確認すると、それも道具の特殊機能らしい。
5分程すると完全に1本の木を伐採することが出来た。木は倒れる寸前に目の前から消えた。どうやら私が伐採した木は自動的に私のインベントリの中に格納されるらしい。実際にアプリで確認すると、原木という形で収納されていた。
とりあえず1時間ほど作業をすると、10本くらい伐採できた。体に負担が少ないとはいえ、慣れない作業なので2時間ほど作業したら、10分くらい休憩を取りながら作業をする。午後いっぱいを伐採に費やして約40本くらいの原木を格納出来た。とりあえず、目に見える範囲のスペースは伐採し終えた。けど、さすがに疲れたので今日の作業は終了した。
一度コンテナハウスに戻り、着替えを用意して仮設浴室に向かう。ドアを開けると1畳ほどの脱衣所と、2畳ほどの浴室が設置されていた。バスタブにお湯は張られていて、シャワーなどもあったがタオルやシャンプーなどはなかったのでネットショップで購入した。バスタオル3枚セット(¥1500)、シャンプーセット(¥1000)、ボディソープセット(¥500)、洗顔セット(¥1000)で計¥4000。
とりあえず、就任祝いを貰っていたのでなんとかなった。正直、結婚式や新居の準備で貯金が底をつきかけていたので本当にありがたい。
「このまま農作業をするなら、作業着を購入した方がいいかなぁ…」
お風呂から上がって、バルコニーでお茶を飲みながら呟く。今日の伐採は、ジーンズと長袖のTシャツでの作業だった。そして、そもそもこのコンテナハウスには洗濯機がない。これは早々に家を何とかしなければ、着替えにも困る。
再びネットショップで作業着を検索する。作業用つなぎ服が販売されていたので、明日から3日間の作業を考えて色違いで3着と作業靴(¥5000)を購入した。1着¥4000のお手頃価格のモノを購入したので合計¥17000である。それから、デリバリーのアイコンをタップして本日の夕食を購入する。昼食はバーガーだったので、夜はごはんが食べたい。有名定食屋のお弁当を頼み、ついでに小型ペットボトルのお茶を数本と個包装のお菓子を数点購入する。明日の作業時の休憩にと思い購入後、インベントリに収納する。
慣れない作業で疲れたのか、ちょっとウトウトし始めたのでコンテナハウスに入り就寝の準備をする。ソラの寝床がないのでペット用の寝具(¥2000)を購入し、ベッドのそばに配置したラックの一番上に置く。
「ソラの寝る場所、ここでいい?」
「これはボクの為のベッドなの?」
「うん。猫ちゃん用の大きさのベッドだけど、どう?」
早速、ソラはベッドまでよじ登り丸くなる。
「紗英様、ありがとうございます。とっても寝心地がいいです」
「そう?よかった。じゃあ、明日も作業しなきゃいけないし、もう休みましょう」
「はい。じゃあ、ボクは充電モード入ります。充電モードですが、セキュリティは万全ですので安心してお休みください」
「ありがとう。おやすみ」
「おやすみなさいませ」
そう言って、私もベッドに入る。天井を向いてこれからのことを考えていると、いつの間にかぐっすりと眠ってしまった。




